第30話

 いい初夢見たかい?

 おれ? 寝てないよ?

 *****


 ガチャ……。


「あ、美穂……? え、美園さん?」

 美穂が戻ってきたのかと思ったら、お母さんの美園さんだった。

 お部屋探索とか余計なことしていなくて本当に、本当に良かった。


「ごめんね。ちょっとお話してもいいかしら?」

 美園さんの様子から少し真剣なお話のようだ。俺に否はないので頷いてテーブル前にもう一度居住まいを正し座り直す。


「あのね、真司くん。あの子、美穂って明るくてみんなとすぐに仲良くできて元気いっぱいじゃない?」

「…………あの。えっと、美穂はちょっと、違いますよね?」


「うん。真司くん、ありがとうね」

「ん? なんでですか?」


 俺の否定の返答に対し美園さんにいきなりお礼を言われ戸惑う。


「真司くんはちゃんと美穂のことを見ていてくれているのだと思ったの。美穂ってね、上辺ではみんな仲良くできているようだけど内側では結構引っ込み思案で他人とのコミュニケーションが小さい頃からあまり上手ではなかったの。そのせいで中学生の頃は人を寄せ付けないとか冷たい人とか言われて孤立したりしたこともあったの。だから高校は家からちょっと離れたところにある一ツ崎高校に行ったのよ」


 そういえばお兄さんの陽太郎さんにもそんなようなこと言われたな。


 美穂がなんでわざわざ遠い高校に通っているのか分かった。同中も確か特に交流のない一人か二人しかいないって言っていたよな。ま、そこは俺も似たりよったりだけど。


「高校に入った直後も、毎日なんだか疲れているようで心配だったの」


 はっきりとは覚えていなけど、最初の頃は美少女だと祭り上げられて周りに沢山の男女が集まっていたような気がする。そうだ、あの頃の美穂は俺からするとなんか愛想笑いをするおかしなやつだな、って印象だった。すっかり忘れていたよ。


「だけどね。少しずつ元気になっていって、夏休みに入った頃にはお休みなのだからいかなくてもいい学校にわざわざ通学していたくらいだったわ。今思えばそれって、真司くんに会うためだったのね」


 夏休みといえば二人で恋愛小説の話で盛り上がった頃だよな。やはりあれがきっかけになったんだな。


「あなたのおかげで美穂は本当の意味で明るく元気な子になったの。美穂を救ってあげてありがとう。美穂を見つけてくれて、ありがとう。これからもぜひ美穂のことをよろしくおねがいします」


 そう言って頭を下げる美園さん。


「やっ! 頭を上げてください! 俺はそんな大層なことはしていないです。ただ俺もちょっと変わった系なんで相性が良かっただけだと思うんですよ……」


「ふふ、ありがとう。やっぱり美穂が選んだだけのことはあるのね。あともう一つ大事な話があるんだけど、それは美穂が来てからね」


「真司くん、おまたせ~ ってあれ? なんでお母さんが部屋にいるの?」

「大事なお話があるのよ。みほちゃんも真司くんのとなりに座ってちょうだい」


 なんだろう。俺たち二人を合わせての大事な話って。

 さっきの流れからすれば嫌な話にはならないとは思うけど、気になるな。


「え? なんなのお母さん」

「三〇秒で終わる話だからそんなに構えなくていいわよ」


 大事な話なのに三〇秒で終わるってなんだろう。今度は逆に不安にしか思えないんですけど……。


「じゃ、単刀直入に言うわね。えっとね……ふたりとも避妊はしっかりやってね。それだけは絶対に守ってちょうだいね。

 ――付き合い始めてすぐの二人に言うのも何だけど、こういうのは早いほうがいいと思っているの。もちろん真司くんのご両親ともこのことはお話済みだから、おうちで繰り返し何度も言われることはないので安心してね。

 私からは以上です。では勉強頑張ってね」


 本当に三〇秒程度でそれを言い終えると美園さんはさっそうと部屋を出ていった。


 残された俺たちは――しばらく何も言えず、たまに目があってはお互いに全身を真っ赤に染めるのであった。


 当然ながら勉強どころではなくなったので、小説の話や俺の別の趣味であるアウトドアの話をして、帰り際にちょっとだけイチャついた。その際も妙に意識しすぎてしまい、少々ぎこちなくなったのは言うまでもない。





「ごめんね、今日は。お母さんがおかしなこと言って」


「ううん。ぜんぜんおかしくはないよ。大事なことだもの。俺も美穂といずれはそういうことしたいし、そのとき守るべきことはしっかりとしなきゃって思うし……ん、俺、児童公園で何を言っているんだろう?」


「……ばか。でも、ありがとう。私も真司くんともっと仲良くしたいし、そういうの……ちゃんと考えているから。あう」


 美穂の家を出て近くの児童公園、俺が美穂に告白して美穂に告白された公園に来ている。


 夕方で誰もいなくなった公園のベンチで真っ赤になる二人。顔が赤いのは夕日のせい――ではない。だって、曇っていて夕日は出てないから。

 小説の情景のような感じにはそうそうならないな……。


 近いうちにドラッグストアに行こう。家からも学校からも遠いとこ選んで……。

 必要なものだって分かっているけど、やっぱり恥ずかしいもん。


******

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