第29話

 あけおめ。ことよろ。

 折角なんで今日だけ0時投稿です。

 *****


 中間考査が始まる日が来た。


 俺と美穂はこれと言って意気込むほど大変な状態にはないけど、どれだけ上に順位をあげられるかは少しだけ意識している。今回は特に陽平と希海さんに教えるってことでいつも以上に学力が身についた感じもしているぐらいだし。


 テスト期間中だけは男女混合の出席番号順に座席が並び替えられる。

 席順は偶然だけど、陽平、美穂、俺という並びになっている。三ヶ峯、紫崎、施ヶ内だからね。クラスに『ス』がいなくってよかった。


 初日は国語系二教科と数学系二教科を交互に受験して午前中でお開き、放課となる。


「どうだった、美穂?」

「う~ん。文系科目は大得意だけど、やっぱり数学方面はやや難しいかな?」


「そうだよな、俺も似たようなもんだもん。ミステリの探偵金田一耕助みたいに悩みながらも最後にはズバッと謎が解ければ最高なんだけど」

「でも、『よし、わかった!』っていって間違える警部さん側なんだよね。私たちって」


 そんな冗談をいいながら帰る用意をしているんだけど、美穂の前にいる陽平が息をしていない気がしなくもない。


「陽平?」

「うん、ああ。明日も頑張るよ……。じゃあな」


 陽平はデカイ身体を小さくして教室を出ていった。ちょっとしか見えなかったけど、もうひとりいつもよりだいぶちっちゃくなった希海さんも陽平に似たような雰囲気だったよ。


「まあ、やるだけはやったみたいだしね。あと二日もあるからリカバリーに期待しておこう」

「そだね。じゃ、真司くん。帰ろ」


 今日はもう教室でも普通に会話ができていた。周りもテストに夢中なので一々俺たちのことを見ているやつもいないとは思うけどね。


 一緒に並んで駅まで向かう。前の方をかなえが友だちとワイワイいいながら歩いているのが見える。


「初めての高校の中間考査で緊張しているって言っていたけど、あの感じなら大丈夫そうだな。安心したよ」


「ふふ」

「何だよ? なにかおかしなこと言ったか?」


 かなえのこと言ったら美穂に笑われた。


「かなえちゃんのお兄ちゃんしているなって思ったの。やっぱ真司くんは素敵だね!」

「……」


 やっべ。すごく恥ずかしい。あとよく見てくれていてすごく嬉しい。

 あ~!!!! 抱きしめたい。キスしたい!


「ねえ、真司くん。きょう……うち来ない?」

「っ! 行っていいのか?」


「うん、もちろんだよ。ただ、お母さんはいるけどね」

 もう少し一緒にいたいだけだから。やましい気持ちはありませんよ? 少しだけしか。


「あ、明日の科目は何だっけ?」

「明日は、化学と生物、英語と世界史だよ。化学辛い……」


「嫌いなんだっけ?」

 前に聞いたことあったな。


「うん嫌い。記号ばっかりだし、実験は怖いし臭いし。先生も苦手かも……」

 あの先生ぼそぼそ話してなに言っているかわかんないもんな。


「じゃあ化学の勉強を一緒にしようか?」

「それは私と真司くんがくっついたらどんな化学反応が出るか実験しようってことかな? そういう実験ならどんと来いだよ! それとも生物の実験する?」


 何だっけそのセリフ……。聞いたことあるような?


「『あの冬の朝、あなたはいいました』だっけ?」

「あはっ、バレてしまったか? あったりー」


 文芸系の作品だったな。たしか何かの賞をとっていたはず。

 俺たちはそんな会話を楽しみながら美穂のうちに向かった。生物の実験は……したいですけど、美園さんいるみたいだから無理ですね。





 『そんな二人の姿を誰かがずっと後ろから見ていたなんて全く知らずに――』






「ねえ、その設定はありがちすぎだしチープすぎるでしょ。でも本当だったら怖いね」


「あははっ、だよなぁ」


 美穂も俺の影響なのか恋愛小説ばかりではなくていろいろな作品を読むようになったのでこういった話でも盛り上がる。すごく楽しい。


「ただいまぁ~ お母さん! 真司くんを連れてきたよぉ~」

 玄関を開けるやいなや美穂は大きい声で奥の方にいるであろう美園さんに声をかけた。


「お邪魔します。今日も突然に申し訳有りません」

「まあ真司くん、こちらこそ先日は家族みんなでご迷惑をかけてすみませんでした。今日は反対になにかご馳走しようかしら?」


 あの大騒ぎのおかげでうちの家族ともかなえの母親ともみんな仲良くなれたので結果オーライって俺は思うんだよな。なんで、この話はこれで終わりにしてもらう。


「今日は明日のテスト勉強をしたら帰りますのでお構いなくおねがいします」





 初めて美穂の部屋に入る。ちょっと緊張しているのは気づかれていないよな?


「今日はきれいに片付けてあるからテーブルの前に座って待ってね」

「今日、なんだね。いつもはそうでない、と?」


「うっさいな! いいでしょ⁉ いじわるぅ」

「おははは」


 コーヒーを入れてくると美穂がキッチンに行ってしまい、美穂の部屋に一人残される。


 あっちこっちが気になるけど、初めて入った女の子の部屋を見て回っていたらさすがに失礼すぎるかと思ってじっと目の前に出した化学の教科書を眺めていた。


 それにしてももう少し女の子っぽい部屋かと思っていたけど、結構あっさりとしていてファンシーなものなど一切ない質実剛健な部屋だった。色味も全体的にアースカラー地味だし……。

 ほわほわとしているのは本棚に並んだ恋愛小説の背表紙ぐらいなんだよな。


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