第27話

年末ですね。晦日です。

*****


 通勤通学のみんなが駅に向かうなか、俺たちだけは反対に住宅街の方に歩いていく。

 たまに振り返って見られているような気もするけど、急いでいるのかそもそも興味がないのか視線は俺んちの最寄り駅のときよりも少ない気がする。地域性ってものなのかな?


 俺の左手と美穂の右手をつないだ手はいわゆる恋人つなぎ。

 昨日まではやってなかったつなぎ方だ。


 緊張するかと思ったけど意外と安心感のほうが上のような気がする。ちらりと美穂の横顔を見ても嬉しそうにしている気がする。



 一晩ぶりに美穂の自宅に着いた。

 昨夜の歓待ぶり、というか狂乱ぶりが嘘のようにしんと静まり返った紫崎家の玄関に立つ。


「真司くんも上がって。リビングで待っていてくれる、昨日のあの部屋だけど……」

「あ、うん。わかった」


 そう言って先にたたきに上がった美穂の後をついていこうとしたら不意に顎を持ち上げられて……。


「ちゅっ……ちゅっちゅ~」

「ん、んんん⁉ ちょっ、ちょっ」


「えへへ! 二人きりだって思ったら我慢できなかったの? ダメ?」

 そんな可愛く言われたら嫌だなんて言うわけ無いだろ? そもそも全然嫌じゃないしね!


 着替えてくる、と言って真っ赤な顔をした美穂は階段を上がっていってしまった。

 土間に立ったまましばらく呆けてしまったけど、いつまでもそんなところに棒立ちでいるわけにもいかないので靴を脱いでリビングに入って待たせてもらうことにした。


「ああ、昨日のまんまだな……」

 クラッカーの紙テープはリビングにも巻き散らかされているし、途中で出されたお茶の入ったグラスも、誰もいないので当然だけど、昨夜から来出しっぱなしのままだった。


「こうと決めたら猪突猛進なんだな、たぶん」

 そう、特にあのお母さんが……。


 俺が散らかったリビングを片付けている間に美穂は着替えを済ませてきた。美穂の部屋は散らかりすぎているのでにかけて今は見せられないそうだ。残念……。

 散らかりまくったリビングは見せても構わないのか? とも思ったけど言わない。ま、昨夜のうちに見ていますけどね。


「あっ、真司くん! 片付けなんてしなくていいよ。そういうのはお母さんとお姉ちゃんにやらせればいいの。あとお父さんも!」


 片付けぐらいやるよっていったら『お兄ちゃんも騒ぐだけ騒いで片付けもお母さんたちの始末もしないで逃げるなんて、今度あったらとことん詰めてあげる!』と少し怖いこと美穂がつぶやいていたのが気になりました、よ?


「大したことはしてないよ。歓迎されたんだからこれくらいはね」

 そう言ったら美穂にギュッと抱きしめられた。


「もう……。そういうところも好き」

 ここを出発するにはもう少し時間もあるし――。


 美穂が目をつぶったので俺は唇をよせる。


 何度でもこの柔らかく心地良感触を味わってみたいと思う。恋人同士になった途端にスキンシップもマシマシだしお互いに好き好きと言いまくっているような気がするけど、今、一番気分が上がっている最中だから許されてもいいよね⁉


 カタリ……。


 一度唇を離し、見つめ合って再度重なる……。


 ゴトッ……。


 さっきから異音が聞こえるが? 唇を重ねたまま異音のする方へ薄目を開けて視線を向ける。



 そこには窓に張り付いて俺たちの行為を見ている我が校の生徒会長、眞田美雪の姿があった……。





「で、美雪ちゃんはなぜあそこで出歯亀でばがめっていたのかな? かなかな?」

「あ、いや……。わたしは覗きをしていたわけではなくて――」


 ダンッ‼


 これ、美穂が足を踏み降ろした音。


 俺までビクってなっちゃったよ。


「美雪ちゃんはうちのお母さんに余計なことも吹き込んでいたみたいだよね?」


 ああ、『眞田さんのお宅の美雪ちゃんが言っていた男の子』ってお母さんが確かに言っていたな。


「あ、いや。あれはわたしが耀くんとデートしていたときにたまたまおばさんと会ったから……」


 うちの娘も浮いた話がないのかしらって言われたので、俺のことを教えたらしい。で、お母さんはこっそり美穂を観察するようになって俺とのメッセージのやり取りでニヤニヤしているのを目撃された、という流れみたいだ。


 それにしても会長は彼氏いるんだな。耀くんって誰だか知らんけど。


「はあ、真司くん。耀くんっていうのは私とも幼馴染で、この出歯亀女の彼氏ですっごい頭いいとても真面目な紳士な男性ひとなの。この出歯亀女とは正反対の性格なのにもう六年も交際が続いているのよ」


 出歯亀女、出歯亀女と連呼するあたり相当腹を立てているな。確かに俺もあれはないよな、とは思うけどさ。


「もう、ごめんなさい! テストが近くって耀くんと暫く会えていないから寂しかったの! 羨ましかっただけなの!」


 ああ、そういうことなら仕方ないのかもな。俺たちイチャイチャしまくっていたもんな。


「嘘つくんじゃないの! 耀くんちは美雪ちゃんちの隣の家でしょ? あなた達二人が毎日会っていることぐらい私も知ってるから!」


 おい会長、嘘かよ! 危うく騙されるところだった。


 この眞田美雪ってひとは小説にありがちな真面目、生一本な融通の利かない女子生徒会長ではなく、真反対のお調子者タイプのノリで生徒会長になったタイプなんだろうな。

 残念美人とは思っていたけどここまでとはね。まあ嫌いなタイプじゃないけど。


*****

見てくれた方々! ⭐をお願い……。作者にやる気を……。

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