第26話
月曜日の朝。
昨夜は眠れないかもと思ったけど疲労のほうが勝ったようであっさりと眠っていたようだ。
「よく寝た……」
キッチンに向かい朝食の用意をする。
本当なら平日の朝飯は母さんの担当だけど今日は無理だと思う。見てはいないけどふすまの向こう側からはうめき声にも似た音が複数確認できたから……。
向こうの六人とこっちの四人、都合一〇人の朝食を用意する――――必要はないな。
大人なあの方々は漬物でも食わせておけば十分だと思うし。
ご飯は昨日一〇合炊いていたのでそれで間に合うと思う。
俺たち四人分のおかずだけ用意する。ついでだから味噌汁も大人用に多めに作っておこう。
冷凍してあった
卵焼きと厚切りハムを焼いて後は味付け海苔とお漬物でいいな。
女の子二人は自宅に一度帰らないとだからゆっくりできないんだし、簡単で許してもらおう。
「おはよう、真司くん。起きたらご飯が用意してあるなんてここは旅館ですか⁉」
「なにを馬鹿なこといっているんだよ。はやく顔を洗っておいで」
寝起きでぼやっとした目つきにはだけたパジャマ。ブラは……つけてなかった模様。
朝からいろいろと刺激が強すぎる。
「おにいちゃん、おはようっす。どうしたの? 頭ブンブン振って⁉」
「あ、なんでもない。おはよ、かなえ。おまえも顔を洗ってこいよ」
「はーい。そうだ、マナミーは起こす?」
あいつは時間になると勝手に起きてくるからほっておいても大丈夫。どうせ今起こしても真奈美のアタマは起動してこないから寝かしておいて正解だと思う。
「いいよ。早く飯食って出ないとおまえらが遅刻になるから。真奈美はあれが平常だからさ」
顔を洗ってきた二人に朝食を出してやるとすごい勢いで食べ始めた。どした?
「どうして焼いただけにしか見えないのにこんなに美味しいの? やっぱり彼氏の手作りだから?」
「いや、普通のだし巻き卵といただきもののちょっといいボンレスハムだけどな。彼氏の手作りだからって美穂も昨日は俺の料理は食べたじゃん?」
「昨日の夕方まではただのお友達だったもん。今はカレシだもん!」
もん、もん、朝から恥ずかしいからやめてよ……。いや、やっぱりやめないで。なんかムズムズするけどね、嬉しくなる。
「さすがっす、おにいちゃん! 略してさすおに! おいひ~」
かなえも余計なこと言っていないでさっさと食べて家に帰るぞ?
食べ終わった二人は洗い物をするって言ってきたけど、そういうのは襖の向こう側に転がっている方々にやってもらうことにしておく。
「着替えたらすぐ出るからな?」
「え? 真司くんも一緒に出るの?」
本当なら俺はいつもどおり普通に通学すればいいんだからあと一時間以上の余裕がある。
「かなえと美穂を送っていくよ。かなえは悪いけどQ駅までな」
この時間帯に電車に乗ると朝の通勤ラッシュにあたってしまう可能性がある。都心まで通勤通学する人の大多数が乗車し始める時間なんでね。電車通学ではないかなえと、いつもは下り路線で空いている電車での通学をしている美穂が心配だったので俺もついていくことにした。スタンションポールの変わりぐらいにはなると思うしさ。
「ありがとう……」
「さすおに!」
頬をほんのり染めてはにかみながら感謝を言ってくれる美穂とキラキラした目で尊敬の眼差しを向けてくるかなえ。
今日も朝から充実しすぎじゃないか? これがいわゆるリア充ってやつなのか?
俺の左腕には美穂が抱きついている。
反対の右手はかなえに握られている。
ふたりとも単独でもすれ違った人に振り返られるほどの美少女なんだけど、その二人が俺の両側から俺をホールドしているわけだ。
さっきも言ったとおり、通勤通学のラッシュが始まる時間なので駅に向かう人の数も田舎道とはいえ多い。そんな中、頭一つ飛び出ているでかい男に美少女が二人くっついているんだ、目立たないわけがない。
一度二人を離そうとしたらすごく悲しそうな表情をされたので、即時、俺は二人を離すことを諦めた。結果として周りからの朝日に紛れ込んだ射殺すような視線を一身に受けるのであった……。
*
一ツ崎駅までなんとかやってきた。やはり想定した通りのラッシュで二人を壁際で守ってやらなければ危険だったかもしれない。主に痴漢的なやつから。
「ではアタシはバスなんで行きます。また学校でよろしくっす」
手を振りながらかなえはパタパタと走っていく。
「じゃ、俺たちも行こうか? もう一発満員電車だ」
途中のQ駅での乗り換えの人が多かったからか、さっきより更に増してすごい混みようだった。
みんなあれに乗って仕事に行くのか……。就職先って勤務場所も大事だな。
程なく美穂の家の最寄りのS駅についた。
「満員電車ってすごかったね。一人じゃ乗れなかったよ。真司くん、ありがとう」
俺も立派なスタンションポールになれたみたいで良かった。
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