第25話

 翌朝、中学に登校前の真奈美の情報によると美園さんと美弥さん以外は朝イチそれぞれ会社に休む旨を連絡していたそうだ。


「頭が痛くって……」

「吐き気が……」


 などと這々の体でそれぞれ電話口に向かって言っていたらしいけど、それって単純に二日酔いだよね?


「いつも一生懸命働いているんだからこんな日があっても構わないんだよ」

 とは美穂のお父さん、那由多さんの弁。


 きっぱりと言い切ったとの証言(我が母談)あり。

 それは昨日美園さんに蹴られていた人とは思えないはっきりとした口調(美園さん談)のようだったらしい。




 さて、話は昨夜に戻る。

 リビングに入ると風呂上がりのようでパジャマに着替えている真奈美とかなえがゲームで遊んでいた。


「あ、おにい。おかえり。で、なにがあったの? おねえちゃんの家族まで乗り込んできたようだけど?」


「おにいちゃん、おかえりなさい。うちの母がすみませんっす。アタシが友達の家に遊びに行くなんて何年かぶりなんで母は嬉しかったようで御礼の品(一升瓶×二本、他多数)持って来ちゃったみたいなんす……」


 ああ、うん。栞さんは楽しい酒のようで良かったね。娘思いなのはいいけどさ、持ってきた酒を一緒に飲んじゃダメっしょ? もう今更だけど。


「ねぇ、おにいはなんでおねえちゃんをおんぶしているの? 送っていったんじゃないの? おにいは一体なにしてんの?」


「……うっせーな。いろいろあったんだよ!」


「ん、ふ、んんん? あふ? あれ? 真司くん何処にいっちゃたのぉ~」

 俺の大声に美穂が起きてしまった。俺はここにいるんだけど寝ぼけている?


「起きたか? なんだかよくわかんないけど大人はみんな俺んちで宴会みたいだよ」

「? え? なにそれ?」


 美穂に事の次第を説明したら土下座する勢いで謝られた。


「ごめんなさい。うちの両親もお姉ちゃんもお酒が大好きで……。今日はもう、帰れないね」



 美穂とかなえは明朝早起きして自宅まで電車で帰って制服に着替えてから登校することにした。


「着替えはマナので大丈夫だよな? マナ、美穂に用意してやれよ?」

「うん。マナちゃんお願いね」

「りょーかい。あとで持っていっておくから、おねえちゃんははお風呂の方先に入っちゃって」


 ちなみにかなえのパジャマは体型の違いがありすぎて国道沿いにある洋品店のシモムラまで閉店直前に買いに走ったそうだ。パジャマ姿のかなえはまるで小学生だな。

「むぅ……おにいちゃんが失礼なこと考えている気がしてならないっす」



 女子三人は一緒の部屋で今夜は寝ることにさせたので、お客様用の布団だけ俺が真奈美の部屋に持ち込んでやった。その際に俺と美穂が正式に交際することになったことを真奈美とかなえにも伝えておいた。


 お子様組の二人はなにかのスイッチが入ったかのように色々と俺らに質問をしてきたけど、さすがにもう日付が変わりそうな時刻なので全部後で教えてやるから今日は寝ろと言いつけて俺は部屋をあとにした。


 まだも騒ぐお子様二人と申し訳ないが美穂を置き去りにして俺も風呂に入ることにする。


「まったくとんでもない一日だったな」


 湯に浸かりながらぼやく。遠くの方で騒いでいる声が聞こえるが、あえて聞こえないことにする。あの声は宴会場からなのか真奈美の部屋からなのか定かではない。


「突然美穂がうちに来ることになって、おうちデートっぽくなったと思ったら、送っていった先で我慢できずに告白。晴れて恋人同士になった途端、美穂の家族に挨拶に行って、自宅に送ってもらったと思ったら、両家合同プラスアルファで宴会が始まる………」


 告白に至るまでの流れだと『晴れのち雷雨』って恋愛小説に似たようなシチュエーションがあった気がする。

 突然の相手の家族との対面となると……思い浮かばないな。なにかあったような気がするな……。あ、思い出した。『一昨日の朝食』って話だ。ただあれはサスペンス小説だったような気がするな。


 最期のドタバタは――無いな。


 コメディ系の小説でもそんなシーンあったら引くぞ? 子ども同士が交際をはじめた途端その親同士が突如に宴会おっぱじめて飲めや歌えの大騒ぎ、だぞ?


「ないわぁ~」


 ブクブクブク……。


 顔を水中に沈めて……‼

 突如気づく。


 これって、さっきまで美穂が浸かっていたお湯じゃないのか?


 しかも親は風呂には入っていなかったし、真奈美とかなえも入浴した後なので、このお湯は純美少女ミックス汁じゃないか?



 ‼――――



 ってキモ。


 実際はなんとも思ってない。なんとなくよくあるラブコメ調に考えてみただけ。


「なんでも小説に当てはめてみるとか俺も美穂に結構影響を受けているんだなぁ」


 あまりにもいろいろと衝撃的なことが立て続けに起きたので忘れていたが、いや、忘れてはいないが……。


「俺と美穂が恋人同士になったんだよな……。カレカノだよ!」


 潜んでいたかのような感情の塊が急激に膨らんできてもう一度風呂に潜って大声で叫んだ。

ゴブゴブ!やった! ボブバゴブバブガガポッブ!美穂が俺の彼女だ!


 う~む、のぼせた……。



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