第23話

 そんなこと考えていたら、不意に美穂のスマホが鳴り出した。


「ん? あ、お兄ちゃんからだ」

「そうか。それ、出たほうがいいんじゃないか?」


「……うん」

 不承不承な感じではあったけど美穂はお兄さんからの電話に出た。


「なに? え? うん。う~ん。いつ? えっ、やだよ」

 家族との会話って感じ。お兄さんの声は聞こえないけど美穂に提案なり何なりをして断られたって感じだな。


 それでも会話は続いていて時折美穂は無言になったりして考え込むこともあった。

 大事な用事なら今日はもう帰ってもいいんだけど。美穂とは離れたくはないがいつまでも一緒ってわけにもいかないし、明日にはまた会えるのだから……。


「もうっ! わかったよっ! その代わり余計なことしたら二度と口はきいてあげないからね!」


 プンスコ怒った後、ため息交じりで電話を切った美穂。


「大丈夫なのか? 喧嘩じゃないよな?」

「うん。ごめんなさい。喧嘩じゃないんだけどね。ちょと頭にきたよ……。それでね――真司くん」


「な、なに?」


 美穂が溜めを作って俺の名前を呼んだのでちょと焦る。


「――今からうちに来て。ほんっとごめんなさい。実は私たちが手を繋いで歩いているのをお兄ちゃんに見られたみたいなの……」


 オーマイガー! ついでとばかりに八百万の神様方が目の前を走り抜けていったよ……。


「あ、え? 念の為に聞くけど、家にいるのはお兄さん、だけ?」

「……本当にごめんなさい。紫崎家の家族全員在宅です」

「おふぅ」


 お兄さんは家を出て一人暮らしをしているとのことだが、たまたま今日は実家に帰ってきていたようだ。しかも、美穂のお姉さんも一緒に俺たちのことを見たらしいので、見間違いを主張しても無理だと先制されてしまったらしい。


「その見られていたのってもしかして駅前だったりする?」

「そうみたい。えっ、なんで?」


「駅前でね。停まっていた一台の車の中にいる男女らしき人たちからの視線を感じた気がしなくもないんだ」

「あ~多分それビンゴ。私のこと駅まで迎えに来たみたいだから」


 交際初日どころか交際一時間ほどでご家族に挨拶とか……。

 いつかは通る道だけど、いろいろ心の準備が整わない日だな。




 あの児童公園からは本当にすぐに美穂の家に着いてしまった。

 まったく心の準備が始まってもいないんですけど!


「ふう……。行くわよ、私も針のむしろ状態だから頑張ろうね」


 明日は学校だから長居はさせないだろうからそこだけは安心かもね、といいながら美穂はとうとう玄関ドアを開いてしまった。




 パンッパン! パッパーン!

 パンッパン! パッパーン!


 玄関扉が開いた途端、軽い破裂音と紙テープに紙吹雪を俺と美穂は全身に浴びた。


「「……」」

 俺と美穂はお口ポカーンで立ち尽くしている。


「おめでとー美穂ちゃんアンド彼氏クーン!」

 えっと⁉ 美穂のお姉さんかな?


「みほ~ あなたやっと思いが叶ったのね! おめでとー!!」

 お母さんだよね? 若くね? お姉さんだって言っても疑わないよ?


「くっそぉ~ 美穂の彼氏は俺が見極めてやるはずだったのに! 美弥の失敗は兄として繰り返さないつもりだったのに!!」

 あ、件のお兄さん。美穂はまだ許していないそうですよ?


「うるさい兄ちゃん! ○ね!」

「あふう」


 お姉さんの右フックでお兄さん撃沈……。


「それより美穂ちゃん! わたしより先に彼氏を家に連れてくるとはいい度胸だね!」

 いや、お姉さん。連れてきたんじゃなくてそこで寝転んでいるお兄さんの強制ですよ? いや、あなたもたぶんグルですよね?


「よ、よく来られたものだな……。ちっ」

 あ、お父様ですね。申し訳ありません、お邪魔しています。


 あっ、お父さんもお母さんに殴られて転がった。

 なんとなく玄関開けて数秒で紫崎家の序列を知った気がする。


「夜分に突然お邪魔して申し訳ございません。美穂さんと交際することになりました施ヶ内真司と申します。高校では一年の頃からの同級生です」


「まあ! しっかりしている子ね。この子でしょ? 眞田さんのお宅の美雪ちゃんが言っていた男の子で、毎晩いつもスマホを見てはあなたがニヤニヤしていた相手は。うちのボンクラ男どもとはえらい違いね。さすがみほちゃんが選んだだけあるわね」


「お、お母さん……やめてよ」


 美穂の個人情報がダラダラと流れ出てきた。真っ赤な顔して美穂はお母さんの口を塞いている。それと……会長ぅ~‼


「ささ、どうぞあがってよ。彼氏くん、じゃなかった真司くん」


「あ、いや俺はすぐ帰りますので……」


「いいじゃない。帰りはそこに転がっているののどっちかが車で送っていくから大丈夫だよ!」


 そこに転がっているのとはお兄さんとお父さんね、念の為。


「わ~ 真司さんは背が高いのね? どれくらいなの?」


 お母さんは美穂の手を振りほどいてまた喋りだす。


「はい、一八〇あります」


「まあ、おっきい♡ 入るかしら? うふっ、大丈夫よね。さっ、きてきて。お父さんと陽太郎はさっさと起き上がって退きなさい」


 なんか申し訳ないです。お兄さん、お父さん……。


 あと、お母さん。最初の一言二言わざと艶っぽい声音こわねにするのはやめていただきたい。ただでさえ頭をぶつけないように前かがみなのにもっと身体を折らないといけなくなるので……。


 それに……少し美穂の目が怖い気もしなくもないので。



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