第22話
昨夜はどんな『せいや』でしたか?
おれ?
余計なこと聞くと年を越せないよ⁉
******
「幼稚園生の頃、ここはお兄ちゃんによく連れてきてもらったの。でもお兄ちゃんとは八つも離れているからすぐに連れてきてくれなくなって……。代わりにお姉ちゃんが連れてきてくれたんだけど、ちょっと言い方は悪いけど私と年が近いせいでお姉ちゃんも幼かったから頼りにならなくて……」
何の話だろう? 話の意図が俺にはわからない。もう少し聞いてみる。
ブランコはゆらゆらと揺れている。
「だんだんお兄ちゃんは私ともお姉ちゃんとも遊んでくれなくなって中学校のお友達とばかり遊んでいて私たちのこと邪険にしたんだよ。ひどいよね。でも自分が同じくらいの歳になったら邪険にしたくなる気持ちがわかったけどね」
美穂が思春期に入った頃、今度は妹のことが可愛く思ってきたお兄さんに対し美穂の方が思いっ切り嫌っていたそうだ。まあそうなるわな。
「でも、真司くんとマナちゃんはそういうことなさそうじゃない?」
「いや、少しはあったよ。俺んときは。でも真奈美は父さんだけだな、嫌がってんの」
よく聞くやつだからって父さんは気にしていないふりはしているけどな。
「はは。お父さんは仕方ないね、そういうものだもん。でもね、マナちゃんが羨ましいなぁって思うの」
「なんで?」
「真司くんがいるから。かっこよくて優しくて頼りになって、ちゃんと守ってくれる立派なお兄さんがいつもいてくれて、って」
別に私のお兄ちゃんが悪いって言っているわけじゃないよ、と付け加えていたがあまりにも俺を褒めすぎるのでなんとも言えない気恥ずかしさで言葉が出ない。
「それだけじゃないよ。かなえちゃんに対してもちゃーんとお兄さんしているんだもん。今日だってちゃんとかなえちゃんが楽しく過ごせて嫌な気分にならないように上手く対応してあげていたもんね」
「……ま、まあな。どうせなら楽しんでほしいしな」
「じゃあ、私には?」
「も、もちろん……というか一番に考えていた、よ」
もうこの流れ……。
「うふふ。ありがとう……」
美穂は嬉しそうにはにかみ、そして視線を遠くに向けるように顔をあげる。
そしてなにかを決心したように視線を合わせてきて――。
「あ、あのね真司くん! わ、わたし――」
「ちょっ! まって! まって、俺に先に言わせて!」
急に大きな声を出して俺のことを呼ぶ美穂の続ける言葉を止めさせる。
止められるとは思っていなかったようで、目を見開いて固まる美穂。少し目が潤んでいる。
「あ、ごめん。いや、そういうことじゃなくて……えっと。美穂、聞いてくれる?」
俺はブランコから立ち上がり美穂の前で跪くように身をかがめ視線を美穂に合わせた。
「いい?」
もう一度聞いて、こくんと頷くのを確認してから美穂の瞳を見つめながら次の言葉を俺は紡ぐ。
予定にはなかったけど今がタイミングなんだと思う。大丈夫、頑張れ、おれ!
「お、俺は……美穂のことが、好きだ。友だちとして、じゃない。一人の女の子として美穂のことが好きだ、大好きだ。だ、だから……俺の彼女になってほしい」
引っかかりながらも言いたいことはすべて短い言葉に込めたつもり。
後は美穂の返答だけ。
美穂の瞳は先程以上に更に潤み、とうとう涙が頬を伝って流れていった。
美穂はただ俺のことを見つめているだけ。
なにも言わない。
だめ、だったのかな、と思うほどの時間が俺の中では経過していた。
本当は一瞬でしかないのかもしれないけど。
俺にはものすごい長い
ブランコから美穂も立ち上がる。
俺は跪いたまま立ち上がれず美穂のことを見上げるような、いつもとは反対の視線になる。
美穂は俺に一歩近づき、その両手で俺の頬を包む。
なにが起きているのか思考が追いつていない俺はそのまま美穂を見つめるばかり。
二人の顔が近づき、そして――。
唇が重なった。
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???????
!
‼
‼‼‼‼‼‼‼‼
あまりのことに思考が真っ白。頭の中には疑問符と感嘆符しか現れてこない。
「私も真司くんのこと大好きだよ。私を真司くんの彼女にしてください。私の彼氏になってください!」
美穂はそういって俺のことをギュッと抱きしめてきた。
駅であの時ハグされたよりもずっと強くずっと大事そうに愛おしそうに……。
俺も同じように美穂のことを抱きしめかえした。
*
ベンチに移る。
肩を抱いてほしいと頼まれたので肩を抱き俺の胸に美穂を引き寄せる。六月も近いとはいえ夜はまだ冷える。二人でくっついて美穂には俺の着ていたジャケットを被せてやっている。
「ホントはね、ずっと前から真司くんのこと好きだったの。でも告白する勇気が出なくって……」
「俺もずっと好きだった。このまえの、で、デートのときにはもう我慢ができなくなってきてて、予定では夏休みに入ったらすぐ告白しようと思っていたんだ」
「我慢ができない割には夏休みって、まだだいぶ先だよね」
俺の胸に顔をくっつけ、ふふふと笑う美穂がくすぐったい。
「あ~、あれだ。美穂と初めて会話らしい会話をした日だよ。その日に、な」
俺のたまたま読んでいた恋愛小説に食いついてきたあの日だ。
「あはは! よく覚えているね、そんな事もあったね」
俺も美穂もいつ何のきっかけでお互いを意識し始めたのかまではわからなかった。
気づいたらもう好きだったから。
毎日が楽しくて仕方なかった。二人きりの図書室、進級しても同じクラス。しかも座席はとなり通し。
もう運命だなんて舞い上がったものだ。顔にも態度にも出さなかったけど。
そんな恥ずかしい話まで恋人同士になれた喜びのせいか口を滑らせてしまった。
「じ、じつは私も同じだったりするんだよ……」
想像していなかった美穂の告白に心臓の鼓動が早まる。
美穂には……バレているようだ。俺の胸に頭つけているんだもんな。
嬉しそうに俺のこと見上げてくる……。
くっそ‼ かわいいなぁ!
この子が俺の恋人なんだぜ‼ って暗くなった児童公園で叫びたいぐらい。
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狙ってなかったけど奇しくもクリスマスの日に結ばれました。
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