第21話

カレーでケーキ作ったろか?

あん?

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 みんなで作ったカツカレーは格別の美味さだった。


 いつもとやっていることはなにも変わらないのにどうしてこんなにも美味いのだろう?

 あれか? キャンプのときのカップ麺がやたらと美味く感じるやつ。場所や雰囲気がすごくいい調味料になるってものだな、きっと。


 夕飯の片付けも終わりそろそろ名残惜しいがお開きにしなければならない。


「アタシはこのままもう少しここで待たせてもらてってもいいすっか? お母さんの職場がこっちの方なんで帰りに拾っていってくれるみたいなんす」


「おお、そうか。じゃあ、もう少しマナと遊んでいってくれ」


 俺は美穂を送っていく。


「じゃあね。マナちゃん。かなちゃんもバイバイ、また明日学校でね」

「はい、さようなら。また遊びに来てくださいね、美穂おねえちゃん」

「ばいばい。また図書室に行くっす」


 玄関の扉を締めて一歩外に出るととたんに静かになる。


 田舎の住宅街なんでね。

 幹線道路を走る車のエンジン音が遠くの方に聞こえる。


「今日は呼んでくれてありがとう。すごく楽しかった」

「うん。でも呼んだのは俺じゃないけどね。楽しんでくれたなら俺も嬉しいよ」


 肩を並べて歩くその間隔は人半分くらい空いている。この前は手もつないだのにね。


 日が長くなってきたとはいえもう薄暗い。


 栄えている街中じゃないので道路の痛みも余程な状態になるまで放置されることも多い。そんな道路のちょっとした出っ張りに美穂が足をかけてつまずいてしまう。

 あわてて俺は美穂の手を取り転ばないように引き寄せた。


「あ、ありがとう……」

「あ、うん。道が悪いから気をつけろよ」


 手を離そうとしたけど美穂はその手をぐっと握りしめてきた。


「こ、転ぶと……いけないから」

「そ、そうだな。危ないからな」


 そこからはふたりとも無言のまま駅まで歩いた。このまま駅につかなければいいのにとこの前と同じように考える。そう思っていても進まないわけには行かないし、駅まではたったの一〇分の道のりでしかない。




 気づいたら一緒の電車に乗っていた。


「もっと先まで送っていくよ」

 ちょっと言い訳がましかったけどそういうことにした。美穂も『うん』と一言だけ答えただけだったし。


 日曜の一九時過ぎ。上り列車にはほとんど客は乗っていない。この車両にも俺たちの他には乗客は三人だけだ。


 俺たちはシートに座っていたし、もう転ぶことなんかないんだけど手は繋いだままだった。



 離したくなかった。



 無言のまま高校のある一ツ崎駅に到着してしまう。ここで私鉄線からJR線に乗り換えだ。

 俺は迷うことなく美穂の家のある方角の路線に乗り換えた。手を繋いだまま一緒に……。


 さすがに美穂も驚いたようだった。


「大丈夫なの?」

「ああ、送っていくって言ったからな」


 美穂は『大丈夫なの?』と俺を気遣っただけで送ってくれなくていいとは言わなかった。俺の言葉にもはにかんで少し嬉しそうな表情も見せていた。



 ――俺もうダメかもしれない。


 今日は我慢が利かないかもしれない。



 この前デートしたQ駅を通り過ぎ、美穂の家の最寄りのS駅で電車を降りる。初めて降りた駅だ。


 駅前はそんなに流行ってなくて日曜の夜ってこともあってか人通りも少ない気がする。

 うちの最寄りのH駅より人は断然多いけど……。


「こっち……」


 俺んちを出てから本当に数言ずつしか話していないけどなにも問題だと思わない。

 むしろ手を繋いでいるせいか心地よくて仕方がない。言葉にしていない分、手から感じる熱やちょっとした表情によく感づく。


「ほんとかわいいな……」

「え? なにかいった?」


「あ、いいや。なにも……あ、ここからどれくらい?」

 また声に出してしまった。気をつけないと。


 美穂の家は駅から歩きで一〇分ほど。駅前を離れるとすぐ住宅街で、この先の国道を渡った先あるそうだ。


 後一〇分で別れるのかと思うと寂しくなる。もっと一緒にいたい。


 繋いだ手に思わず力が入ってしまったが、美穂からも軽く握り返されたのでもしかしたら俺と同じ気持ちなのかもしれない。


 駅前に停まっていた車の中からよく見えないけどカップルらしき二人組が俺たちをじっと見ているような気がする。一旦気になりだしたら、その車のとなりにいるのタクシーの運転手も周りの人達もみんな俺たち二人に注目しているような気になるからおかしなものだ。



 やっと人通りの少ない道になってきた。


「ねえ、そこの公園に寄ってもいい?」

「公園? いいよ」


 願ってもないのですぐに了承する。そこは国道を渡って二本ほど路地を越えたところにある児童公園だった。


「小さい頃よく遊んだ公園なんだ、ここ」

「そうなんだ。じゃあもう家も近いんだな」


 小さな公園。ブランコと滑り台、鉄棒があるだけで他の遊具はない。代わりに小さな子どもぐらいなら走り回れるだけの広さの芝生とその親が座っていられるベンチが数基置いてある。


 そのブランコに俺たちは座った。一時間ぶりぐらいに繋ぎっぱなしだった手を離した。左手が寂しいと言っている気がするよ。



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