第20話
ちょっと俺が美穂の言葉に一人固まっている間に美穂は何やらベッドの下やマットレスの間などをごそごそしている。
「なにやってんだ?」
「ん、定番でしょ? 家探し、お部屋
「そんなところに隠すわけ無いだろ?」
「じゃあ、別のところに隠してるんだね。ナニカ隠すようなものがあるっていい方だもんね!」
「……。ちがっ……わ、なぃ」
くっそ。
なんで俺はこの手のものにあっさりと引っかかってしまうんだろう?
で、一瞬だけど黙ってしまったからしっかりと肯定と受け止められてしまうという二重のミスを犯してすらある。
なので無駄な抵抗はやめてさっさと白旗を上げてしまう。
「ふふ、見せないでいいよ。男の子だもん。そういうのの一つや二つは健全だと思います。でもそれはまた今度見せてね? 棄てちゃやだよ?」
「……はい」
身長が縮まった気がするぐらいちっちゃく丸めていた俺の背中を大笑いしながらペチペチと叩く美穂であった……。
うん。なんか敵わないけど嫌な感じがまったくないのは惚れているせいなんだろうか?
「うふふ。これって『ときの合間』に似てない?」
ときの合間と言うのは美穂の気に入っている恋愛小説の一冊だ。俺も借りて読んだので覚えている。たしかにこのようなシチュエーションが中盤辺りにあったような気がする。
「だな。あのあと二人は――どうしたんだっけ?」
美穂は顔を真赤にして黙り込んでしまった。意地悪が過ぎたかな?
小説では主人公とヒロインは、中盤ではすでに恋人同士で、件のシチュエーションは彼の部屋を初めて訪れるってシーン。で、美穂がやったようにベッドの下や本棚を漁ってエッチな本を見つける。そのエッチな本の取り合いから彼氏のほうが彼女をベッドに押し倒してしまう。目を閉じるヒロイン、意を決する主人公、重なるくちびるとくちびる……。
おっと、俺まで恥ずかしくなってきた。もう思い出すのは終わりにしよう。
ちょっと気まずい雰囲気ながらもその後はお互いを意識しながら漫画や雑誌を眺めて過ごした。
俺はその時なにを読んでいたのかさっぱり思い出せないんだけどね。
しばらくするといつもどおりに馬鹿話をしていたので大丈夫だと思う。なにがどう大丈夫なのかは知らん。
「おにぃ~ そろそろ夕飯の用意をしないと間に合わないよ! いちゃつくのはまた今度にして!」
俺は階段を駆け下り真奈美の頭にげんこつを食らわす。
「いった! もう! 暴力反対! 訴えてやる!」
「勝手にしろっ! このバカ妹‼ おまえだけ飯はナシだ!」
「っ! ……………申し訳ございません。この真奈美、調子に乗ってしまいました。ごめんなさい……。だからごはん抜きは勘弁してください」
何だこの三文芝居は?
「もういい。みんなで用意するぞ。勉強道具は片付けて手を洗ってこう」
「はーい! かなちゃん、早くしよ!」
「う、うん。アタシも夕飯を食べていっていいの?」
もちろん構いやしない。一人で飯を食うより大勢で食ったほうが楽しいし美味いもんな。
「美穂もいいだろ?」
「うん、もちろん。やっぱり真司くんは優しいね」
かなえのことを考えてってことは言っていないんだけどバレてるってやつなのかな?
秘密じゃなけどバレるとちょっと恥ずかしいかも。良い格好しているみたいじゃん⁉
冷凍庫にいつからあるのかわからない冷凍焼け寸前の豚肩ロース塊肉があったので使うことにした。
解凍して厚く切ってとんかつにするつもり。
夕飯は真奈美のリクエストでカレーなので、カツカレーとなる。昼飯のときとはまた違ったジャンク感の漂う料理にみんなのテンションもおかしくなってきている。
「うっひゃ~ ウチがおまえをバラバラにしてやるぜ~」
「アタシはそいつを火炙りでしんなりしてやる!」
玉ねぎを切って炒めているだけである。
人参とじゃがいもも頼むな。
「かなえ、人参食えよ?」
「マナちゃん! みじん切りでヨロ!」
カレーに人参のみじん切りかよ? ま、いいけど。
「私はなにをすればいいかな? 真司くん」
「ああ、美穂はご飯を炊いてくれ。一〇合炊いちゃっても大丈夫だと思うから」
俺たちだけでもだいぶ食うだろうし、両親が帰ってきたら食うかもしれないので多めに炊いても問題はない。残ったら明日も食えるし。
「すごい炊飯器だね。おっきい。うちのお兄ちゃんは少食だったからこんな大きいの使ったことないよ~」
もう社会人だっていうお兄さんか。お姉さんも少食だったのかな?
「美穂は食うよな?」
「失礼な言い方だなぁ~ 食べますとも! 我が家で一番の大食らいは私だもんっ」
「じゃあ、美味しいご飯をよろしく頼みますよ!」
ちなみにだが、俺の父さんは身長一七五センチ、母さんは一六〇センチ。真奈美はこの前聞いたら母さんと一緒だというので一六〇センチと言うことだな。
それに合わせてシステムキッチンの高さがセットしてあるので、俺には少々低いが一六五センチの美穂には丁度いい。
一人どうしてもダメなのがかなえ。
一五〇センチぐらいだとどうにもこうにも背が足りない模様なので、IHクッキングヒーターの前に踏み台を置いてやった。
子供のお手伝いだよな、と思ったのは俺だけではなかったと思う。
なんだかみんなしてのほんわかした空気感はいいもんだな。
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