第17話
不幸中の幸いという表現をすると失礼すぎるが、自宅は新築して数年しか経っておらずローン残債は団体信用生命保険で賄えて、遺された杉原母娘には借金は残らなかった。ついでに彼女のお父さんはかなえのために自分の身に何かあっては一大事と結構大きな生命保険にも加入していたらしく、その保険金のおかげでかなえ母娘は今でも金銭的に困るようなことはないとのことだ。
だけれど生活には困っていないにも係わらず杉原母親も正社員でバリバリ働いているようだし、かなえもアルバイトを週何回かしている。
「お父さんの残してくれたお金を無駄に使いたくないんだって」
どうしよう。泣きそう……。
かなえの母親は再婚する気が無かったようで子供はかなえだけ。
男手もなくきょうだいもいないのでかなえは寂しかったんだと思う。
そんなところに現れた理想のおにいちゃんが俺だったってわけか?
そんな事を聞かされて無碍にできる俺ではないので、否もなくかなえの我が家への訪問は認めてしまった。
初めてわが家に招く女子がかなえか。
呼ぶのは真奈美だからノーカンかな?
いや。かなえが嫌なわけじゃないよ?
一年生の中ではとびきりの美少女として有名らしいし、たしかにかわいいし……。
ただなぁ。どうせなら――
「美穂おねえちゃんも来るって!」
ガンッ!!!!!
テーブルに頭を打ち付けてしまった。
「ど、どうしてそうなる??」
「かなちゃんが美穂おねえちゃんを誘ったら二つ返事で一緒に来ることになったってさ。良かったね、おにい」
「ななななな、な、なにが良かったんだ、よ?」
「おにい、動揺し過ぎだよ。わかり易すぎるね」
やばい。
俺はもう勉強はいいや。真奈美は一人で勝手にやっておけ。
掃除に片付けにお菓子も用意しないといけないかな?
「おにい。明日のお昼ごはんは久しぶりにおにいの特製お子様ランチプレートが食べたいな? 美穂おねえちゃん受けもいいと思うけど?」
「うぐ……。たしかに受けはいいかもしれないけど作るものが多くて面倒なんだぞ?」
「あ~そ~だよね~ ああ、せっかく美穂おねえちゃんが来るのになぁ~ 仕方ないよね~ 面倒だもんね~」
くっそ! 妹に弄ばれている! そもそもなんで真奈美に俺の恋愛事情を掴まれているのか意味わかんねえ!!
「……わ、わかった。それにするよ。ちょと買い出しにいってくるわ」
明日はそういうのが出ないように気をつけないとな。
まあいいや。まずはハンバーグとナポリタンの材料から買いにいこう。
冷蔵庫に材料があるんじゃないかって? あっても新しいのを買ってくるんだよ!
それがおもてなしの心ってもんじゃないのか?
翌朝。日が昇る前に目が覚めてしまった。
昨夜も美穂からの『お邪魔するね。ものすごく楽しみ!』ってメッセージに気分が高揚しすぎてすぐに眠れなかったというのに……。
今更ながらだけど、どんだけ俺は美穂のことが好きになっているんだかと改めて考えてしまう。まず、いくらかなえと一緒だろうと俺んちに来るんだから美穂は俺のことは嫌っているはずはない、よな。むしろ俺のことが好きなんだと思う……あくまでも希望的観測でしかないけど。ちょっと自分に都合良すぎかな?
今、たぶん俺に追い風が吹いている、ハズ。
「ヨシ! 今日はうまいもの作って美穂の胃袋をガツンと掴んでやろう!」
そういうのは女の子がいうセリフだって? いいんだよ。今どき女性だけが料理をやる時代じゃないんだから。逆にうちなんか両親ともたいして家のことやらねえぞ?
衣食住を賄ってもらっている身だから俺も真奈美も文句は言わないってわけではないんだ。だって両親には愛されているし兄妹で家事を分担していることも感謝されているのでそもそも不満なんてまったくないんだよね。
ぱぱっと簡単な朝食を用意して一人で食べてしまう。真奈美はまだ寝ているようだ。
まだ六時台だしな。真奈美が起きてくるのは平日でも七時だから休日の六時台に起きてくるはずもない。
まあ実の兄貴が思いを寄せる女の子が我が家に来るってだけではしゃいでいるっていうか、浮かれているっていうか、夜も眠れずに朝も早くから起き出して身支度もそこそこにお昼に振る舞うランチの下ごしらえに精を出しているところなんざ見たくはないだろうけど。
俺としても真奈美にこんなところ見られたくもないな。
「ちょっとおちつこ」
美穂とかなえは昼頃にうちに着く予定だ。
だけど今、やっと七時。
真奈美が寝ぼけ眼をこすりながら起きてきた。
「おにい……。うるさいよぉ。朝っぱらからなにをガチャガチャやってんの?」
「えっと……。すまない」
落ち着こうとは思ったものの落ち着くことができずに部屋の掃除を始めてしまったので、掃除機の音や物を片付ける音で真奈美の安眠を妨害してしまったようです、はい。
「もう! 掃除は終わったんでしょ? ウチは朝ごはんにするからもうホコリはたてないでね⁉ ああっ、もうほんとにおにいは子どもなんだからぁ」
俺は頭に大きなホコリの塊をつけていたようで、シャワーを浴びて以後おとなしくするようにと真奈美にお達しを受けてしまった。
真奈美に『仕方ないよな、こいつ』的な感情を隠すことなく生暖かい眼差しを送られて兄としてはなんともいたたまれない気持ちになってしまったので、そそくさと逃げるようにシャワーを浴びに浴室に向かうのであった……。
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