第14話
「なあ、テストが終わったらこの四人でどっかに遊びに行こうぜ! 打ち上げってことでさ」
勉強会の最初の一週間も今日で終了の金曜日、陽平がいきなりそう切り出した。中間考査が終わるのって二週間後だぞ? いくらなんでも気が早すぎないか?
「そうだね。行こうよ! ラウ
希海さんや、貴女も同類だったか……。あなた方は単純に練習禁止でウズウズしているだけなんだろうから二人でいってくりゃいいっしょ?
「え~ 私はスポーツでも球技とかは苦手だからそれは嫌だなぁ~」
「じゃあ、ラウ10でカラオケ三昧がいいんじゃね? な、希海」
「あ、そうだね。陽平くんナイス!」
えっと? 美穂さんや、君も同類でしたか? ああ、もう四人で遊びに行くのはもう決まりなんだ……。
「だって。いいでしょ、真司くん」
美穂にまでそう言われちゃ否とは言えないし、いまさら言う必要もないしな。もっともこの四人で遊んだら楽しそうだしねとは思っているんだけどさ。
「OK! じゃそれが一生懸命勉強したご褒美ってことでいいな。んじゃ、休憩終わりな。ではでは、この問題集でもやってみるか?」
「「どへ~」」
陽平と希海さんは声を合わせて不満を漏らしていた。『やりたくなければやらなくてもいいけど赤点はまずいんでしょ?』というと二人とも一心不乱に問題を解きはじめた。
「うふふ、たのしみだね」
小声で俺にそういった美穂は本当に楽しみにしているようで溢れんばかりの笑顔だった。
「ねえ、おにいちゃん。何の話? アタシはのけものなの? ねえ、もしかしてアタシがいるの忘れていたりしないっすか?」
「あ。そういえば、おまえもいたんだっけ?」
そうそう。図書室にはかなえもいたんだっけ。かなえが一年生の範囲も教えてくれないかって頼んでくるから時間があるときは一緒に勉強していたんだよね。
「本当に忘れているとかひどいっす! それでもアタシのおにいちゃんなの? おかしいよね、おねえちゃん⁉」
「いや、俺はかなえの兄貴じゃないし――」
「ううん! 兄妹だもん! マナミーにおにいちゃんのあんなこととかこんなとことか全部聞いているし、昨日だっておねえちゃんとラインしている問にもうおにいちゃんたらニヤニヤああああむぐむぐむぐ………」
「取り敢えずその口をとじておこうか? おにいちゃんを怒らすと怖いだよ? ん、んん?」
「そいつは可愛い妹なんだろ? それくらいにしてやれよ。お・に・い・ちゃ・ん!」
振り返ると赤い耳をちらりと見せて明後日の方向を見ている美穂と満面のニヤニヤ笑顔の陽平と希海さん。
「……はぁ。もういいよ、わかったよ……。かなえも来ればいいだろ?」
「ではでは、マナミーもいいっしょ?」
なんだよ、マナミーって。まったく真奈美はなんでかなえに何でもかんでも俺のことをべらべらと話しちゃうんだよ……。
「じゃ、六人で入れるところ予約しておくね! 美穂ちゃんもいいよね~」
断る間もなく希海さんがスマホを操作して予約をしてしまう。真奈美のやつにはまだ何も言ってないのにな。大丈夫か?
「あ、おにいちゃん。マナミーなら大丈夫だって! ほら」
かなえにスマホの画面を向けられ、真奈美が指でOKサインをしている画像を見せられた。
ピコンっと着信音がなって『おにい、今日は早く帰ってきてね! お母さんも今日は残業なんだって!』と表示された。俺がかなえに画面を見せられているのを分かっていうかのような行動にちょっと呆れる。
俺は自分のスマホを取り出して『分かった』とだけ書いて送信しておく。
「じゃあ今日はお開きだね。真奈美ちゃんがお兄さんの帰りを待っているみたいだからね」
「今日は週末だしな。土日もしっかり復習しておけよ、
あと一週間と月火の二日過ぎたら本番の中間考査だから気を抜くなよ」
「OK! 任しとけ。そいじゃまた来週~ さっ希海、行こうぜ」
「ではみんなサヨナラ」
「ばーい、でっす!」
「さようなら! ふたりとも気をつけてね」
「じゃあな、気をつけて。さ、俺らも帰ろうか」
いつものように三人で駅まで行って三方向に別れて帰路につく。
いつもよりほんの少しだけ一緒にいる時間が短かったせいなのか物足りない気がする。
このいつもがずっと続けばいいのにな、とも思う。もし俺が踏み出そうとしていることでこれが壊れてしまうんじゃないかと想像すると怖い。でも、永遠に高校生を続けるわけじゃないんだから先に進まなければならない。
怖くたって不安だったって行くしかないんだよな。
大丈夫。なんとも思わない男相手に手を繋いだりデートまがいなことしたり、毎日毎日二人きりで図書室にこもったりなんかしない。よな? そうだよな?
あれ? どうなんだろう?
考えれば考えるだけ不安になっていってしまうものなんだな。こういうのって。
帰宅ラッシュに当たってしまったようで珍しく混雑した下り電車の車窓を眺めながらそんなことを考えていた。
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