第13話
「一〇~二〇分遅れるわ。すまん。岬が宿題やってなかったみたいで居残りで片付けさせられているみたいなんだよ。終わったら急いで連れて行くから帰らないで待っていてくれよ?」
やっぱり陽平と似たりよったりなんだな。陽平もよく宿題を忘れているしな。
「おう。帰りはしないけど遅れる分テスト勉強も遅れるんで頑張ってって言っておいてくれ」
「りょ!」
それだけ言うと陽平は教室を出ていってしまった。
なんだか岬さんのことだと陽平もフットワークが軽いような気もしないでもない。
「他人のことより自分のこと、だけどな」
ひとりごちて図書室に向かうことにする。今日は美穂が図書室の鍵を職員室に取りに行ってくれている。
「おつかれ~」
ガチャガチャと鍵を一生懸命開けようとしている美穂に声をかける。
「ねえ、ぜんぜん開かないんだけど? 前よりひどくなっていない?」
「コツがあるんだよ。貸してみ、ほら。開いた」
「なんかそのドヤ顔がむかつくわよね!」
「あはは」
図書室に入るまでは誰に見られるかわかんないから、いつもは静かにするんだけど今日の美穂はなんだかテンション高い。なんだろう? 勉強を教えるっていうのにイベント感を感じているのかもしれない。
「ねえねえ真司くん。友だちに勉強教えるのって小説にありそうなシチュエーションじゃない?」
なるほど。やっぱり気分が高揚していたんだな。
「そうだな。でもそういうのってだいたいカレカノ間での教えっこするものなんじゃないのか?」
「え~そうかな? 勉強できるカップルとできないカップルで勉強会ってよく見ない? まあ言われてみると友達同士の男女で一緒に勉強していたら、その後いい雰囲気になってやがてカレカノにっていうのも――」
「えっ?」
「あっ!」
自分の言った意味に気づいたのか、みるみるうちに首まで真っ赤になっていく美穂。
そしてあっという間に体が熱くなって変な汗が額を伝う俺。
「…………」
「…………」
お互い俯いてしまい顔を見ることも見せることもできない。初心かっ! 初心だよ! 悪いか⁉
いま美穂の言った勉強できるカップルって俺と美穂だよな? できないのはまあ陽平たち。
それにこのまえのビデオ通話しながらの宿題片付けは友達同士の男女で一緒の勉強会。
やっぱりからかわれても嬉し恥ずかしで?
「「あ、あの……」」
ふたり同時に声をかけてしまいまた黙り込んでしまった。
ものすごく意識してしまって息苦しささえ感じてしまう。ただこの苦しさを越えさえすればやがて――――
「遅れたー! すまない、真司~」
「ごめんなさい! ボクのせいで~ ってあれ? どうしたの? ふたりとも顔が真っ赤だよ⁉」
「「あ、いや、なんでもない!」」
同時に応えてしまう俺たち。
「息がぴったりだな、真司と紫崎さんて。ま、よろしくたのむよ」
「陽平くん! 『たのむよ』じゃなくてお願いします、だよ! ということでボクたちの勉強をお願いします」
なんか初っ端からいろいろ起きたけど、主に起こしたのは俺たちのほうだが、無事に勉強会が開催されることになってよかった。よかった?
なにか突っ込まれるかと思ったけど陽平からも岬さんからも何も追求されることはなかった。その時はね。
単に
けっきょく、あとから陽平にあのことをからかわれることになるのだが、代わりに岬さんのことを陽平に問えば彼はすぐに口をつぐむのであった。やっぱそうだよな。岬さんも練習とか好きそうだし陽平と気が合いそうだもんな。そうかそうか。
勉強を一緒にする男女の法則……か。
*
「真司、これわかんねぇよ」
「じゃあそれは美穂に聞いてくれよ」
「陽平くん、そこはそうじゃなくて、こうだよ」
「おっ、わかった。美穂ちゃんサンキュ。希海も聞いたほうがいいぞ!」
「あ、希海さんはここ間違っているよ」
「わ、ほんとだ。ありがとう真ちゃん」
「ねえ、真司くん、そろそろ締めない?」
「そうだな、外も暗くなってきたし。じゃ、美穂と希海さんはあっちを片付けてくれ」
「「はーい」」
毎日放課後に勉強をしていたらなんとなく四人とも名前呼びになっていた。美穂のことはいつも美穂と呼び捨てだったので特に違和感なく呼べていた。かわりに希海さんを名前呼びするのはかなり緊張したけどね。その希海さんになぜだか俺は真ちゃん呼びされているけどな。
あと俺たち四人が教室でも呼び方を変えなかったので、俺たち四人のお勉強会事情を知らないクラスメートたちは相当びっくりしていたようだ。別クラの希海さんがうちのクラスに休み時間とかよく顔を出すようになったから余計かもしれないな。
まあ二年生美少女五指の中の二人がイケメン陽平と、でかいだけの俺と仲良さそうに話していたんだから驚くのも無理ないかもな。なんで
余計なお世話としか言いようがないけどな! クラスの
俺は俺でいろいろ大変なんだからな。
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