第10話

 さて連休中日の金曜日の放課後の図書室。いつものように俺と美穂以外には誰もいない。

 ――はずだったんだけど、かなえがちょこんと読書テーブルで俺の選んでやった本を読んでいる。あいつ今後も毎日来るつもりなのか?


「大丈夫だよ、おにいちゃん。ふたりの逢瀬を邪魔したりしないから! アタシがここに来るのは週二回までです」


 かなえは他の日はアルバイトがあるので来ることはないそうだ。だけど――

 そんなこと大きい声で言うのはすぐやめるように!


 美穂なんて『と、トイレ行ってくる!』って言って図書室から出ていってしまったくらい。

 図書室でいつも二人なのが逢瀬だなんて思われたら美穂が気を悪くして二度と来てくれなくなるかもしれないだろ?


「それにしても明日妹さんとデートっすか? 仲がいいっすね、羨ましいですよ! 参考書ならJRのQ駅前の大型書店辺りですか?」


「まあそうだな。ここらで一番でかいのはあそこだろうからな。あとデートではない」


 一緒に行くのは実の妹だし、買い物は単なる付き添いだからな。それなのに何時ころ行くのかとか、なにを見に行くのかなどかなえにはどうでもいいことを聞かれていた。しばらくすると何事もなかったように美穂も戻ってきて、けっきょく三人で雑談に花を咲かせて下校時刻となってしまった。



「じゃ、おにいちゃんおねえちゃん。また明日っす! さようなら~」


 かなえは駅構内を抜けて反対のロータリーからバスに乗って帰るのでコンコースで別れた。美穂とも路線が違うので同じく別れることになる。美穂はJRの上り線に俺は他の私鉄の下り線に。


「かなえのやつ明日も学校のつもりか? また明日、なんて」

「そうなの? あ、私も乗る電車が来るから行くね! また明日! じゃあね!」


「お、おう! またなっ」

 だから明日は土曜日で休みだって! GWボケもいい加減直してくれよな。






 土曜日午前十時三十分。

 駅前書店の入り口に可愛く着飾っている妹の真奈美、パーカーにチノパン姿の俺。


 俺たちの目の前にはゴスロリワンピに身を包んだ杉原かなえ。


 そのとなりにはオトナめなカットソーにスキニーパンツ、足元はモカシンとちょっと近所までふらりと来ました風な格好をした紫崎美穂がいる。


「なんでおまえらがいるんだ?」


「あ、はじめましてウチ、杉原かなえっす。せんぱいの実の妹さんですよね? ウチもせんぱいの妹なんすよ!」

「おはようございます。真司くんの同級生の紫崎美穂です。このまえ真司くんとお出かけしたのは私です。真奈美ちゃん、よろしくおねがいしますね」


「おい、無視すんな!」

 かなえと美穂の二人は俺を差し置いて妹の真奈美に挨拶している。


 突然の美少女二人の登場と『妹』だの『お出かけした』だのと情報過多になったのか真奈美はすっかりフリーズしてしまっている。


「おい、マナ。彼女らの言うことは気にしなくていい。さっさと参考書を買いに行こうぜ」


 そう言って真奈美の手を引くがびくとも動かない。


「なあ、マナ――」

「おにいは黙ってて‼ おふたりとも、とりあえず落ち着いて話せる場所に移動しましょうか?」


 女三人で話はまとまったようなので、俺はそそくさとその場を離脱しようとするも失敗。三人に拘束されたまま、大型書店の裏手にあるこぢんまりした喫茶店に連れ込まれたしまった。



 喫茶店に入るとマスターに四人がけの席に通された。


 俺が奥に座りとなりには真奈美が来るかと思ったら何故か美穂が座った。俺の正面に真奈美、そのとなりにかなえという布陣。よく考えたら完全に俺の退路がないじゃん。腰を落ち着かせるまで全く気づかなかったよ……。


 真奈美がすごくニヤニヤしているのはホントむかつくけど、殺伐とした雰囲気になっているわけじゃないので若干の諦めの心境にもなるってもの。


「いらっしゃいませ……って。美穂に一年生の可愛子ちゃん? と謎の美少女としがない男。なにこれどうしたの?」


 おいこら店員! 俺はではない、施ヶ内せがうちだ!

 それにどうしたとはお前の接客の方だぞ? 言わないけど。


「えっと、美穂。この失礼な女店員は知り合いなのか?」

「え? 真司くんは知らないの? うちの高校の現生徒会長さんで三年生の美少女五指の一人眞田美雪ちゃんだよ?」


「……………すみません。知りませんでした。あとしがない男じゃなくて施ヶ内真司といいます。で、謎の美少女(笑)は俺の妹の真奈美です」


 生徒会長って女子生徒だったんだ。今はじめて知ったわ。それなんで一応自己紹介。


「入学して一月ちょっとのアタシでも生徒会長のことは知っているのにおにいちゃんっておねえちゃん以外の女の子に興味なさすぎっすよ」


 その通りなんだけどかなえも一々余計なことを言わないでくれるかな? ちらりと目の前を見るともうこれ以上無いニヤニヤ顔の真奈美がいて、右側を見るとこれまた見たこともないような真っ赤な顔した美穂がいる。恥ずかしいよね? ごめんな……。ただの友達なのに、な。



******

明日より更新は朝七時になります。

よろしくお願いいたします。

******

少しでもイイなと思っていただきましたら⭐を押してください!

ぜひとも感想と💖もよろしくおねがいします😻

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る