第9話
明日登校すればまた土日で休みだからか
「お、真司! おまえも今帰りか? 紫崎さんもおつかれ」
普通じゃないのが一人。他人のことは言えないけどな!
「お疲れ様、三ヶ峯くん」
「あれ? 陽平も今か。毎日毎日部活ばっかりで疲れないのか?」
「そりゃ疲れるけどさ。やった分だけ上手くなるんだからやるっきゃないっしょ」
「勉強もそれくらい気合い入れてやれればいいんだけどな」
陽平の身体能力は高いけど勉強の方は今一つなんだよな。スポーツをやっていて一瞬の判断ができるんだから地頭は悪くないはずなんだけど……。授業中に爆睡してりゃ無理か?
「そこでお願いがあるんですよ! 真司センセイ!」
「まさか俺に勉強を教えてくれとか言わないよな?」
「真司~ お前は話が早くて助かるなっ! そういうことで今月末の中間考査に向けて勉強会をお願いしますよ!」
「え~三ヶ峯くんも調子がいいなぁ~ 自力で頑張んないとダメなんじゃないの?」
「いやっ、そんな意地悪言わないでよ、紫崎さん!」
からかっているだけなんだろうけどね。男子にはややそっけない美穂にそんな事言われると本気で言っているように聞こえるんだろうけど。それにしても美穂が俺の親友とはいえ他の男に自分から話を振るとは珍しい。機嫌がいいのかな?
「あ、あの。も、もしよかったらボクもその勉強会に参加させてもらえないかな?」
不意に後ろの方から声をかけられた。振り向くと背の高いこれまたかわいいポニーテールの女の子が立っていた。
「ん?」
「あ、真司。その子が前に話した岬だよ。女バスの子。レギュラーなんだぜ」
なるほど。彼女が五指に入っているのも当然かと思う可愛らしさだ。
「ボクもお勉強は苦手な方なんでお願いできたらなぁ~って思ったんだけど、ダメかな?」
おっと、これはこれは人生初のボクっ娘との出会い。感動だ!
「……仕方ないな、分かったよ。陽平一人に岬さんが加わっても大して変わんないからどうぞ。いいよな紫崎も」
「私は最初からダメなんて一言も言ってないですけど? 了解を求めるってことは私も仲間に入れてくれるんだよね? じゃあみんなで勉強会をしましょうね」
ということで、中間考査前の部活動停止期間は図書室で勉強会を開くことになった。
なんか忘れているかと思ったら正門前でほっぺをパンパンに膨らませたかなえにあまりにも遅すぎるとたっぷり怒られた。
怒られる筋合いは無いような気がするけど、可愛い妹(偽)のためだ甘んじて受けることにした。
陽平と岬さんは自転車通学なので正門のところで別れることになる。
「じゃあな!」
「さようなら!」
駅までの道すがらちっこい幼女チックなかなえはぴょんぴょん跳ねてスキップしながら歩いていく。俺たちはそれを見守る両親と言った感じで後ろをついていった。
っ⁉ 両親ってことは――。
そんなことを考えて一人悶絶していたらとなりを歩く美穂にすごく不審がられてしまった。
翌朝。今日一日過ごせばまた明日明後日は土日で学校は休みだ。土曜日はGW中には混んでいると思って行かなかった低山に登ろうかと思っている。
「おにい~ 明日暇でしょ? 付き合って!」
「兄妹では付き合えないんだぞ? マナはそんなことも知らないのか? ブラコンこじらせ過ぎだぞ」
「おにいこそ馬鹿なの? ウチと付き合ってじゃないから。ウチに付き合ってだからね。あとブラコンじゃないし……」
「はいはい。で、どこいくの?」
結局、妹に甘いのは俺のほうかもしれない。
「あのね。でっかい本屋さんに行きたいの。どこか知らない?」
そろそろ高校受験のための勉強を本格的に始めるのに参考書が欲しいとのこと。大きい本屋でどれがいいか見比べて、さらには俺にもアドバイスをしてほしいということだった。
「わかった。連れてってやるよ」
「わーい。じゃあ今日の朝ご飯はウチが作るよ! お礼の先渡しね!」
俺の作る飯を当たり前のように食うくせになにがお礼なんだか。まあいいけどね。
山はまた後でだな。山はどうせ逃げないし、いつだって行けるもんな。
『――そんな事が今朝あった。だから明日は無理なんだ。ごめん』
以前にアウトドアショップに寄った際、美穂も少しだけ登山に興味を持ったようでスニーカーでも登れる低山に行きたいと今朝言われたんだよ。
『そっかぁ~ 一歩誘うのが遅かったのかぁ~ でも仕方ないよね。可愛い妹ちゃんの頼みだもんね』
せっかく美穂との登山が叶うはずだったけど、真奈美との約束のほうが先だったので美穂の方は泣く泣く断った。日曜日も天候が微妙らしく登山には向かないので今回は仕方ない。
『またいつでも行けるから、今度は俺から誘うな』
『うん。お願いね、真司くん』
朝のHR中、となりの席同士でこっそりメッセージのやり取り。
こういうのもけっこう楽しいんだよな!
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