第6話

 こんなふうに陽平には絶対に言えないようなことがGW中にあったんだが、彼には黙って上手くスルーできたと安心していたら、今度は朝イチ当事者の美穂にあれはデートだと言われてしまえば心臓バクバクで連休明けにはちょっとハードすぎる内容の一日になってしまった。授業も長いし……。


「そもそも、なんでいきなりデートとかいい出したんだろう?」


 一緒にでかけた日の夜も翌日以降もメッセージのやり取りは美穂としていた。なんなら五日の日は出されていた宿題のことを二人してすっかり忘れていたので、美穂と二人でビデオ通話をつなげて不得意分野の教えっこまでしていたりする。


 そこまでしていても、一緒に見た映画のこともハグのことも、あまつさえ一緒にでかけたことさえも話題にならなかったというのに……。

 俺的にはなんでハグされたのかとかいろいろ聞きたかったけど、聞く勇気がなかったのと美穂が話題を避けているような気がしたので余計に話をしづらかったんだよな。


 それがなんで、藪から棒に今朝、あれをデートとか美穂は言い出したのだろうか? 実は俺、美穂は俺とのあれを黒歴史として闇に葬ったのかと思っていたくらいだったんだよね。


「わかんないなぁ~ 聞けないしなぁ~」


 俺は図書室の解錠しにくい古い鍵をガチャガチャと開けながらぼやく。


 朝から昼休み終了までは教師が鍵を開けてくれるし受付も誰かしら先生がやってくれるが、昼休み明けには鍵がかけられ、こうやって当番が開けない限り図書室は開放されない。なんでだか知らないけど、うちの高校の図書室はそういう運用ルールだった。どうでもいいけどね。


「わっ‼」

「うぉっ!」


 急に背後から大声をかけられて飛び上がって驚いてしまった。

 振り向くと美穂がニヤニヤと笑いながら立っていた。


「ちょっと驚きすぎじゃない?」

「しょうがないだろ、考え事してたんだから無防備だったんだよ」


「え~、真司くんはなにかお悩みかな?」


 貴女のことですよ、とは言えないので適当にごまかしておいた。いくら周りに誰もいないからって廊下で名前呼びされるとドキッとするので止めていただきたい。



 図書室に入るといつものように開室の準備に取り掛かる。

 大した用意はないんだけどな。照明をつけて、二枚重ねてあるカーテンの遮光の方を開ける、窓を開け空気を入れ替える、あとは出入り口の扉にぶら下げてある看板を開室中に変える、ぐらい。


 終わったら俺と美穂は各々勝手に書架から適当な本を取ってきては受付の席について読み耽るだけ。で、読書の合間に二人でおしゃべりするのが楽しみだったりする。


 でも今日の美穂は書架には近寄らず、すぐに受付の席ついて隣の席をポンポンと叩いている。俺も座れってことか? ポンポンポンポポンっとリズミカルに催促されたので素直に俺も席につく。


「どうした?」

 一冊の本も書架から取ってこずに先に座れと言うには理由もあろうと聞いてみた。


「いいから」

 なにがどういいのかはわかんないけど、どうも横に座ることが重要らしい。


「なんだか美穂は今朝から少し変だぞ? 何かあったのか?」


 教室や他の生徒がいるような場面では、いつも他人とまでは言わないが親友という感じではなくあくまでクラスメートな体での会話しかしなかったし、メッセージだってそうそうやり取りはしていなかったはずなのに。今日は朝からあんなメッセージは入れてくるわ、授業中でも休み時間でもやたらと話しかけられたりメッセージが飛んできたりしていた。


「……な、なんでもないよ。でも――」


 ガラガラッ。


 美穂がなにか言いかけた途端珍しいことに図書室に生徒が入ってきた。

 当然、俺と美穂は口をつぐみ、会話は事務的に変わる。


(おい! やっと美穂が話そうとしてくれてんのになんで今来るんだよ⁉ ああん?)


 何の罪もない多分三年生と思われる男子生徒に向かって悪態をつく。


 その後もパラパラと三年生の男女生徒が図書室を訪れてきたので、ぜんぜん美穂と話ができず悶々とした時間を過ごした。どうも三年の一部でなにかの課題が出され資料が必要になった模様だった。余計なことをする教師もいたもんだと、これまた無意味に憤慨していた。


 怒涛の来客ラッシュ――いっても一〇人未満――をこなしてやっと落ち着いた。


「びっくりしたね。週に五人でも多いのに一気に一〇人くらい図書室に来るなんてね」

「そうだな。ホント迷惑だ」


 自己中ここに極めたり。


「そんな事言わないの……。でね、さっきの続きなんだけど――」


 ガラッ!


 またか! 出入り口の扉が勢いよく開くとそこには小学生かと見間違えるようなチンマイ女子生徒が立っていた。


「あ~せんぱい! おまたせしましたっす! 来ましたよ! 杉原参上っす!」


 ビシッと音が聞こえそうな変なポーズをとっているのは我が校の一年生の杉原かなえだった。


 図書室ではお静かに!



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