第7話

 先日ひょんなことでこの杉原と知り合って、GW前からよく登校時に高校の正門あたりで鉢会うことが多いんだよな。確かこの子も一年のマル指の一人だとか?

 誰かが言っていたことをちょっと小耳に挟んだだけなんでよくわからんが、そう言われてみると杉原もけっこう可愛らしい顔立ちをしている。

 ただ背が一五〇センチぐらいしかないようで、かなりちっちゃく幼く感じる。俺と並ぶと余計に小ささが目立つが、もしかしたら本人が気にしているかもしれないので言わないように気をつけている。


 あとさっきから変なポーズをしていることから頭の方も幼いんじゃないかと俺は若干の不安を覚えたりしている。当然ながら口には出さないけど。


「まってない」


「ひどい! 今朝図書室に行くってアタシ言いましたよね? まさか忘れたとか? せんぱいはひどいっす!」


 ……うむ。確かに忘れていたことは間違いないけど、地団駄踏むみたいにドタドタとカウンターに身を乗り出してまで抗議する必要はないんじゃないか?


「ホント小学生みたいだよな……あ」


 思わずボソリと声が出てしまった。


「ひっどーい」


 杉原は頬を膨らませプンプン『怒っていますよ!』な感じでポカポカ俺の腕を叩く。痛くもなんともない。どちらかというと小さい頃の真奈美を思い出してほんわかする。


「おまえうちの妹みたいだな」

「え~せんぱい妹さんいるんですか? 何歳ですか?」


「ん? いま中三で四月生まれだからもう一五歳だな」

「アタシ三月生まれなんで妹さんと一月しか変わんないです! それならアタシもせんぱいの妹ですよ!」


 はぁ⁉ 違うだろ。どこをどうやったらおまえが妹になるんだよ?


 クイクイとブレザーの裾が引かれる。

 振り返るとこれがまた眉間にシワを寄せた超スーパーメガマックス不機嫌顔の美穂さんがいた。


「ちょといい? 施ヶ内くん」


 底冷えするような声で、俺は美穂にカウンター奥の図書準備室に呼ばれる。

 杉原には適当に本でも読んでいろと伝え、俺は準備室に美穂の後を追って入っていった。





 準備室のドアを閉めて中程にある椅子に座った美穂の正面に立つ。


「美穂、どうしたんだ?」

「……」


「なんか俺が間違ったことや美穂の嫌がることをしちゃったのか?」


 美穂は首を振るとも頷くともどっちとも取れない曖昧な動かし方で首を動かす。と同時に自分の制服のブレザーの裾を黙ったままギュッと握っていた。


「ねぇ」


 美穂はボソリとこぼす。。


「ん? なんだ」


 一度口をぐっと噤んで美穂の可愛い顔が俺を向く。その時の彼女はなんとも言えない複雑な表情をしていた。そしてまた俯いてしまう。



 暫く待つと意を決したように顔を上げて俺の目を見ながら話し出す。


「真司くんにとってあの娘はなに? 真司くんはああいうちっちゃい子が好みなの? 幼女趣味なの⁉ 胸もぺったんこだし――でも……たしかに彼女は可愛らしいよね。それに明るくてハキハキしていて……友達も多そうだし。それに比べると私は背がちょっと高いかもしれないけど……。胸も最近また大きくなってきたちゃったし、もうすぐCになりそうなんだもん……。それに友達だっていなくはないけど、上辺だけだし……でも、そういうのも構わないって真司くんは言っていたじゃない? あと、あと――」


「ちょちょちょちょ! 待って! 待って! え? Cなの? あ、違う! 待ってよ」


 さっきまで黙っていたのに一気に捲したてられる。余計なことまで言っている気がするが。


 気づかれなかったと思うけど俺の視線が美穂のお胸の方に向かってしまったのは男の子だから仕方ないと思います。あと俺は幼女趣味ではないぞ?


「ん~~~!」


 手のひらで美穂の口を無理やり塞いで静かにさせる。いよいよもって図書準備室という密室でやばいことやっている感が増してきたけどコレは不可抗力ってことで。


「ちょっ、待って。あの娘ってだれ? ちっちゃい子って杉原のこと? あいつはただの後輩だぞ? それ以上でもそれ以下でもない」


「……ほんとに?」


 ややおとなしくなった美穂が訝しげに尋ねてくる。


「本当だよ。俺はあいつの名前とクラスぐらいしか知らないし、それだって名札を見て知っただけだぞ?」


「それにしてはあの娘、真司くんにやたらとなついているし、今朝だって二人して楽しそうに正門のところで話していたの知っているんだからね! 真司くん、鼻の下びろ~んって伸ばして!」


 懐いているように見えるのはちょっと前にとあるコンビニの前で他校の男子生徒とトラブルになっているような感じだった杉原を助けてからだ。あのときも俺は特になにもせず『どうした? うちの学校のもんと何かあったか?』って聞いただけで相手の男子生徒が逃げていったから実質なにもやっていない。


「それってナンパ男撃退イベントじゃない‼ そんなことめったに起こらないとか言っておきながら私のときより先にしっかりイベントこなしているじゃない!」


「そうかな? 多分それは美穂の勘違いだとおもうけど? あれはナンパじゃないだろうし」


 あと今朝のも別にあいつが図書室に来るってだけの話だから、鼻の下は伸ばしてないと思うのだが。

 そもそも忘れていたぐらいだしさ。



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