第4話
身支度を終えて何度も身だしなみチェックをしたのにまだ八時にもなっていない。
待ち合わせの時刻は十時で、場所は映画館のあるここら辺で一番大きなターミナル駅であるQ駅の構内広場だ。何やら猫の銅像があるらしい。今からゆっくりと家を出ても九時前には待ち合わせ場所に着いてしまう。
「あんまり早いと早く会いたくてソワソワしてたみたいに思われるよな?」
たしか恋愛小説の一節にそんなのがあったような気がする。だけど……。
「なんなんだよっ、真奈美!」
「ぐししし……。おにい、かっこいいよ? いつものだっさいアウトドアの服じゃなくてそういうの着ていればモテると思うよ?」
ドアの隙間からニヤニヤ顔の真奈美が覗いていた。ついでにいつの間にか起きてきた母さんも……。父さんは俺の気持ちを慮ってリビングにいてくれるようだ。
俺はもういたたまれなくなり出かけることにする。
「「いってらっしゃ~い!」」
いい顔してうちの女二人が見送ってくれた。あとで土産話がどうこうと聞こえたが無視してやったけどな。
最寄りのH駅まで歩き電車に乗る。どう考えても待ち合わせの一時間前には到着してしまいそうだ。
「そうか。言わなきゃ一時間前から来ているって美穂にはわかんないよな。なら大丈夫だ」
大事な事実に気づいて安心して電車に揺られる。
目的の駅に着いているにも関わらずふらついているのは何だし、待ち合わせ場所の構内広場まで脇目もふらずに一気に向かうことにする。銅像の前で、ウェブ小説でも読んでいれば時間が潰れるだろう。
改札を抜けてからその待ち合わせ場所の広場にあるという猫銅像までは普通に歩いても三分もあれば到着する。
で、改札を出て二分ほど歩いたところで
ちらりと左腕の腕時計を確認。父さんに誕生日プレゼントでもらった登山用のお高い時計だ。俺は高い山なんかにはほんとうに興味がないからもっと安いので良かったのに。
おっと。今はそんなことじゃない。時間の確認。
「間違いなく待ち合わせの一時間以上前だよな……ってことは?」
まあ気にしてもしょうがないし後で聞けばいいことなので、そのナンパに困っている美少女の下へと急ぐ。
「おう! 待たせたな、美穂」
「あ、真司くん!」
突然の俺の登場に何故か目をキラキラと輝かせる美穂。
「あ゛あん?」
チャラナンパ男が俺の方にイキって凄みながら振り向き――走って逃げてった。
「……へ?」
「ありがとう! 真司くん」
「あ、いや。俺なんにもしてねぇし」
チャラナンパ男は身長一八〇で荷物を背負ってのソロキャンプと登山――低山専門だけど縦走したりして一度山に入ったら半日以上歩き続けたりしている――を読書とは別の趣味にしている俺のガタイにビビって逃げたようだ。
「真司くんはいるだけで魔除けだよ。山で熊にあっても倒せるでしょ?」
倒せるわけ無いだろ?
「俺は登山していてもゆっくりと山頂で飯食いながら読書するのが好きなだけだぞ?」
「よく分かんないけどいい趣味だと思うわよ?」
あの達成感と爽快感を知らないとは残念だな。さてと。
「なんで美穂はこんな早くに来ているんだ?」
「う~ん。なんとなく真司くんも早く来るかなって。早くに目が覚めたしね」
それに、と続ける。
「まさかフィクションの世界だと思っていた『待ち合わせナンパから彼女を助ける』イベントを体験できるとは思わなかったわよ!」
「俺もまさかそんなことあるのかとは思ったけどな。彼女じゃないけど……」
「ん? 最後なんて言った? 混雑でうるさくて聞こえなかったけど?」
「いや。気にするな、大したことじゃない。あと俺は特に声をかけた以外は本当になにもしていないから」
本当なら『俺の彼女に何かようなのか?』ぐらいは言えたほうが良かったのかもしれない。彼女ではないけど……。
出かけに真奈美と母さんに散々いじられたせいで彼女とかデートとかを意識してしまう。
「そっか。そうしたら待ち合わせ回での最初のイベントの方もよろしくお願いできるかな?」
惚けようかと思ったけど待ち合わせ回云々言われては知らないは通せないし、俺自身の気持ち的にもちゃんと伝えておいたほうがいいような気もしなくもないので素直にここは応える。
「おお。いつもの制服姿と違って私服姿の美穂もかわいいな。よく似合っている。少しメイクもしているのか? 普段と違っていい感じだよ。ナンパされるのも仕方ないかもな。ホントに学年五指の可愛い子って言うのは伊達じゃないな」
とぎれとぎれだと余計に恥ずかしいので一気にまくしたてるように思っていたことを全部美穂に伝えてみた。
けど……。美穂はうつむいて、なんかプルプル震えているし耳まで真っ赤に染まって……。
あれ? 何か俺間違えたのか? 俺、美穂を怒らすようなこと言ったっけ?
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