第3話

本日分最後。三話目です。

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 高校に入って初めての夏休みだけど俺はあまりにも暇なんで図書室の開放のために登校していたんだ。


 そんな夏休みに入って数日のある日、俺がなんの気なしに恋愛小説を手にしていつものように受付の席で読んでいたところ、紫崎が俺の手に持った小説に食いついてきた。

 そうそう、あの日は紫崎も何故か図書室に来ていたんだよね。


「ねえ、施ヶ内くん……。それ恋愛小説ですよね⁉ そういうのに興味あるの?」


「あ、まあ。たまにはいいかなって」


「うんうん。いいわよ! 恋愛小説‼ おすすめはね……ちょっとまってて!」


 俺の返事も聞かずに書架の方に駆けていった紫崎は戻ってきたときには両手いっぱいに恋愛小説を抱えて戻ってきていた。



 まあそんな感じで仲良くなってきていつの間にかお互いに名前呼びするようになっていたんだけど、地味な読書趣味で特に恋愛小説好きの嗜好を女友だちに知られて、実はアイドルにもファッションにもさほど興味がないと知られると面倒な美穂と美少女五指の美穂と仲がいいことを知られて嫉妬されたり仲を取り持ってくれだのとか言われたりするのが面倒な俺がいたので、図書室での会話はオフレコで誰にも内緒ということで決めていた。だから仲良くなった今でも二人きりの時以外は基本名字で呼び合っている。


 それなので、俺の親友の陽平もまさかGWにあの紫崎美穂と俺が一緒にお出かけしたなんて想像すらしていないと思う。


 だって、当の本人の俺だってびっくりなんだから。




***




 五月三日。ジェームス・ブラウンの誕生日だ、おめでとう。もうお亡くなりだけど。

 ここ日本では憲法記念日という祝日。日本国憲法の施行日だったかな? 単なる祝日としか俺は認識してないんで当たっているか自信はない。


 そんな休日の朝。まだ朝の六時だというのにすっかり目が覚めてしまいベッドから這い出す。昨夜はSSR級のキャラガチャを一発めで引くとかいう運の良さ、というよりも少しだけ運営に対して怪しさを感じながらも小躍りして気を紛らわしていたのだが、どうも緊張していたようで浅い眠りのまま朝を迎えてしまった。



 まだ家族の誰も起きてきていないようでしんと静まり返った家の中。


 腹が減ったのでとりあえずキッチンまで向かうことにする。どうせすぐには出かけないのだから顔を洗うのは歯磨きのときで構わないだろう。


「飯は……ないか。空っぽだな」

 炊飯器を覗くが中身は空っぽ。母さんは朝食用にご飯を炊いてはくれていない模様。休日だしな。


 冷蔵庫の冷凍室を開けるとコチコチに冷凍された食パンが数枚あるのを見つけた。


「これでいっか……。たまには甘いのもいいかもな」


 パンを二枚冷凍庫から取り出して、電子レンジで解凍。続いて冷蔵庫からバター、卵、牛乳を取り出していく。


 ボウルに卵に牛乳、それに砂糖を少々。あまり甘すぎるのは好きじゃないし、甘さがほしいならば後でハチミツをかけりゃいいと思っているんでな。バニラエッセンスも少々。これもほんとに少々でいい。


 解凍された食パンを卵液の入ったボウルに突っ込む。


 フレンチトーストには一家言を持つやつがいるらしいが、俺には細かい味の差なんてわかんない。うまけりゃいいんだよ、うまけりゃな。



 フライパンを熱してバターを一欠け投入。

 じゅ~っといい音がしてふんわりと焦がしバターのいい香り。


「おっと、これ以上は焦がしてなるものか。パン投入~」


 パンを焼いている間にコーヒーをいれる。いってもインスタントだから粉を入れてお湯を注ぐだけだけど。少し濃い目で苦くしておく。フレンチトーストが甘いからね。そこらへんの調和は大事。


 途中でパンをひっくり返すのも忘れない。


「もういいかな?」


 フライパンに乗せていた蓋を取るとなんとも言えない美味しそうな匂い。


 ぐ~ぐっぐ~


「ん?」

 今のは俺の腹の音ではないぞ?



 振り返るとダイニングテーブルに座って妹の真奈美がフォークとナイフを手に持ち待ち構えていた。


「おにい、早く。いつもより早く目が覚めたせいなのか、もうおなかがペコペコだよ」

「なんでおまえがいるんだよ?」


「ここウチんちだし」

「そういうことじゃないだろ? それにコレはおまえの分じゃない」


「え~いいじゃん⁉ おにいがこっそりウチのファッション誌を盗み見ていたのも、こっそり通販で洋服を買っていたのもお母さんたちに内緒にしておいてあげるからさ?」


「……」

 ぐ……。なんでバレているんだ? いやここで無言になっちゃ負けを認めるような――。


「あとさ。今日デート? 早起きだし、買った服はわざわざ一回洗濯してきれいに畳んでおにいの部屋に置いてあったよね? まさかあんな服を着て山登りに行くわけじゃないでしょ?」


「――で、デートではない。もちろん登山でもないがな。もう、うるさいな……。これでも食っておけ」


「わーい! いただきま~す!」


 もう一回イチからフレンチトーストを作り直す。冷凍パンが余分にあってよかった。あと、デートじゃないからな? ちょっと以前から気になっていた映画がたまたま同じだったから一緒に行こうかってなっただけだから……。


 誰に言い訳しているんだろう。もういいや……。


「あっ、焦げた」


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今回のみ一七時投稿で、以後零時投稿の予定です。


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