交番から僕に電話があった。僕はすぐにあの鍵のことだと思った。交番のお巡りさんには僕が拾った正確な場所を伝え、案内してもいいと言ったのだけれど、場所はわかったからとやんわりと拒否された。すぐそこなのに。歩いても1分とかからない。

 書類は時間をかけてきっちり書いてきた。電話で落とし主が見つかったのかと聞いたのだけれど、お巡りさんははっきりと答えなかった。声の感じからあの時対応してくれたお巡りさんと違う人のような気がした。お礼とかはどうなるのか聞きたかったけれどよく考えてみれば僕にはかかわりのないこと。もちろん僕はお礼なんて断るつもりでいたけれど。ただ、どうしてもと言うのであれば快く好意を受けるのもやぶさかではない。

 僕が交番に行くと待ち受けていたお巡りさんが僕の名前を確認し、奥のイスをすすめられた。

 僕はその椅子に座る。いつの間にか交番の入口にもう一人のおまわりさんが立っている。この人もあの時対応してくれたお巡りさんではない。落とし主は来ていないのかな。僕はそう思いながら椅子に座っていた。

 誰も話そうとしない。書類か何かを確認するとか記入するとかはしなくていいのだろうか。少しばかり重苦しい雰囲気の中僕は交番の中の様子をキョロキョロと見てしまう。すると交番の奥の部屋から女が出てきた。落とし主だろうか。年齢は30歳ぐらいに見えた。もしかするともう少し若いかもしれないし、もっと上かもしれない。「この人に間違いないですか」

 くたびれたズボンにジャンバーを着た男がその女性の陰から出て来てそう言った。「間違いありません」

 女は鋭い目で僕を見ながらそう答える。

 えっ、なに。僕は心の中でつぶやいた。

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