置き去りにされたもの

阿紋

 特に目的もなくブラブラと歩いていると、数メートル先のブロック塀の上にキラキラと光を反射しているものが見える。そのまま歩いて行って何気にその光っていたものを見ると輪っかのついたカギだった。何の鍵かわからないけれど何かの拍子でキーホルダーから落ちてしまったのかもしれない。

 塀の奥は駐車場になっていて道路よりも1メートルくらい高くなっている。多分落とし主が探しに来るだろうからそのままにしておいた方がいいだろう。僕はそう思った。あわてて探しに来てそこになかったらがっかりする。僕にも同じような経験があった。どこで失くしたかは何となくわかるものだ。ましてやここは、落とし主が契約している駐車場に違いない。

 このままにしておこう。そう思ったとき、僕はほんの少し先に交番があることを思い出してしまう。多分落とし主もこの先に交番があることを知っているだろう。やはりここは、交番に届けた方がいいだろうか。

 しばらく迷った末、僕は鍵を取り上げた。その時僕は、何か怪しげな視線を感じた。あたりを見渡しても誰もいない。別に僕は鍵を盗もうと思って取り上げたのではない。そもそも用途さえわからない、こんな鍵を盗んだところで僕に何の利益があるのか。

 早いところ交番に届けてしまおう。僕は早足で交番に急いだ。

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