女はジャンバーの男と一緒に交番を出て行った。どういうことなのか。僕はあの人を知らない。

「落とし主じゃないんですか、あの人」

「落とし主だよ」

 入口に立っているお巡りさんが少し強い口調で僕に言った。

「それに下着ドロボーの被害にあっている」

「ストーカーも」

 僕の向かいのパイプ椅子すわっていたお巡りさんも僕を責めるような口調でそう言う。

「やってませんよ」

「何かの間違いです」

「ちょっとリュックを調べさせてもらっていいかな」

 僕の向かいのお巡りさんが僕が抱えていたリュックを見てそう言った。

いくら調べてもらったってかまわない。折り畳み傘とか、タオルとか、ティッシュとか、そんなものしか入っていない。お巡りさんはリュックを開けて何やら底のほうを探っている。そして、ニヤリとして何かをリュックから取り出した。

「とにかく署まで来てもらおうか」

 さっき女と一緒に出て行った男が戻って来てにこやかに僕にそう言った。

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