第348話 ハイドリムドで一体何があったのか
どうやら悪そうなお兄さんは、ジグスレイドのことを知っていたらしい。
怪しい組織に所属しているので、その界隈では有名なのかもしれませんね。
「いやいやいやいや!ジグスレイドっつったら、ミミリア王国とセルパト連邦に幾多も存在する組織の中でも最大規模で、構成員の数が2000を超えているという噂もあるクソヤバイ組織だぞ!!」
それを聞いた黒眼鏡達や紫モヒカンのお兄さんが、ギョッとした顔になった。
「構成員が2000人も!?」
「マジっスか!?『ジグスレイド』って名前だけは聞いたことあるっスけど、いくら何でもデカ過ぎっスーーーーー!」
「・・・今、潰したとか言っていませんでしたか?」
悪そうなお兄さんと一緒に麻雀を打っていた3人が騒ぎ出した。
「いや、2000人どころか3000人超えてたぞ?」
「王都だけで2500人とかいたんだよね?」
「レパーナの街にも500人とかいたから、合わせると3000人超えだね~」
バチバチに戦闘をして内情を知っているお姉ちゃんズが数字を訂正した。
当然ながら1000人増えたことに場は騒然となる。
「構成員が3000も所属してる組織ってヤバ過ぎだろ!!」
「嘘だろ?そんなのウチの組織でも敵わねえぞ・・・」
「ハイドリムドの治安ってどうなってんだよ?」
そう言えば、治安が良いのか悪いのかよくわからない国でしたね。
ボク達は余所者だから絡まれたけど、現地の中高生は普通に暮らしてたし。
「実は3000人超えてたのかよ・・・。大量の召喚獣で『グロスメビロス』を滅ぼしたのを間近で見ていたから、相手が3000だろうがお前が本気を出せば潰せるのは想像できる。しかし街で魔物が暴れまくれば今度は軍隊が出て来ないか?」
おお、流石は新選組の参謀だけのことはありますね!
こんな悪そうな顔してるくせに、メッチャ切れ者なんですよ。
「それがですねえ、レパーナの街のジグスレイドのアジトを潰した時に、ヤツらが首都を火の海にしようと企んでいたことが判明したのです」
「王都を燃やすだと!?そんな事をしてどうする?」
「えーとな、実はハイドリムドの王の弟にあたるレヴリオス公爵がクーデターを起こす寸前だったんだよ。王弟の子飼い組織であるジグスレイドが王都を火の海にしたタイミングで、レヴリオス公爵軍が王城へと攻め込むって作戦だな」
「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
ちょっと面倒臭い内容だったので、レオナねえがサッと纏めて説明してくれた。
いきなり話が大きくなったので、部屋にいた黒眼鏡の全員が驚いている。
「その内容を王様に伝えたら、『軍隊も冒険者も邪魔しないから、好きなようにジグスレイドを潰してどうぞ!』って流れになったわけです」
「そりゃ王家からしたらむしろ願ったり叶ったりだわな・・・」
「こうして無事ジグスレイドは天に召されました!」
長い説明だったので、タマねえが額の汗を拭いてくれた。
「大幅にカットして話を
「肝心なクーデターの方はどうなったんスか!?」
せっかく綺麗に纏まったのに話をほじくり返すとは、無粋な黒眼鏡達ですね~。
そうこうしている間に、お姉ちゃん達が経緯を説明してくれた。
「王都の近くまで進軍していたレヴリオス軍をハイドリムドの正規軍が撃退しに行ったのですが、突然のクーデターですから王家も準備が出来ていなかったので、兵力にかなり差があったみたいです」
「それで『正規軍に協力して下さい!』って私達に依頼が来たんだよ!」
「たった1日で鮮やかにジグスレイドを征伐してみせたので、王妃様から信頼された感じ?本当はすごく疲れてたんだけどね~」
「報酬は一人1000万。味方を勝たせれば任務完了」
「タマちゃん、そこまで教えなくていいです」
ボク達の目的はジグスレイド討伐だけだったのにね~。
「いやいやいやいや!お前ら、思いっきり戦争に巻き込まれてるじゃねえか!!」
「心優しき王妃様の願いを断るなんて到底無理だった。ハイドリムドの窮地を救えるのはもうアタシ達しかいないんだ!この国が戦火にさらされるのを見過ごすなど出来るわけがない。痛む体に鞭を打ち、悪を滅ぼすために再び立ち上がったんだ!」
言うほど心優しき王妃様じゃないです。
「報酬は一人1000万だったか?」
「コイツら絶対報酬に釣られただろ」
レオナねえが、口を挟んだ黒眼鏡と紫モヒカンをビシッと指差した。
「そこ!!アタシらは正義の心で悪に立ち向かったんだ!」
「そうだよ!か弱き一般市民が辛い思いしないように頑張ったの!」
「そうだそうだ!!」
何も知らない青二才共から、いかにも庶民らしい貧相な憶測で言われた『お金に釣られた』という言葉に、お姉ちゃんズは激高した。
「んで結局正規軍は、レヴリオス軍を撃破したのか?」
「なぜか突然背後から魔物の群れに襲われたレヴリオス軍は、3kmの距離を全力疾走しましたので、正規軍にボコボコにされました!」
「なんだと!?進軍中に突然魔物の群れに襲われるとはレヴリオス公爵軍も不運だったな・・・。ってお前の仕業じゃねえか!!」
「にゃーーーーーっはっはっはっはっはっはっは!」
悪そうなお兄さんのノリツッコミがきました!!
「そういうわけで、ほんの数日でハイドリムドから悪者が一掃されたぜ!」
「すごく大変だったけど、ようやく平和になったから、王都でお土産をいっぱい買って帰って来たんだよ!」
「ほとんど遊べなかったけど、今にして思えば結構面白かったよね~♪」
「もうそれ旅行ってレベルじゃねえだろ。お前らは遊びに行ったんじゃなくて戦争をしに行ったんだ!」
「とにかく平和になったからボク達が行った甲斐はあったのです!・・・というわけで、そろそろお土産を渡しますよーーーーー!」
「ああ、話がぶっ飛び過ぎてて土産のことなどスッカリ忘れていたな。しかしハイドリムドの土産か~」
お土産ハムちゃんを2体召喚し、30畳もある部屋の手前と奥から同時にお土産を放出していく。
どんな結末になるかわかっているので、黒眼鏡達や紫モヒカンのお兄さんにケーキの箱を手渡してから、ボクとお姉ちゃん達は入り口のドアの方に避難した。
悪そうなお兄さんもボクのお土産の量が半端ないことは知ってたけど、そのすべてがスイーツだと気付いた頃には、すでに脱出不可能な状態となっていた。
「オイ、お前ら・・・、これってもしかして全て甘い菓子じゃねえのか?」
今頃気付くとは愚かな死神よのう。
「大正解なのです!」
「ハイドリムドのお土産といったら激甘スイーツに決まってるだろ!」
「私達の審査に通ったスイーツばかりだから、美味しさは保証するよ!」
「食べないと一歩も動けないから頑張ってね~!」
黒眼鏡達がボク達の方を見た。
「あーーーーーっ!だからアイツらドアの前に避難しやがったのか!」
「まさかこの広い部屋が、お菓子で埋め尽くされるとは・・・」
「ガイアの兄貴!これは罠っスよ!!」
「オイふざけんな!甘い物ばかりこんなに食えるか!!」
「いや~、スイーツで地獄に連れていかれるとは予想外でしたね~」
さてと、用事も済んだし帰ろっと!
「お前ら何帰ろうとしてやがる!せめて屋敷内から助っ人をかき集めて来い!」
「まあ確かに、室内にいる黒眼鏡がちょっと少なかったな。集めてくっか~」
「しょうがないですね~。帰り際に黒眼鏡達に声を掛けて助っ人を集めますけど、そっちも部屋の中央からスイーツを減らしておいてください!」
また仕事が増えてしまいましたが、部屋の外で黒眼鏡を見つけてはさっきの部屋まで送り込み、悪そうなお兄さん達が必死にスイーツを食べる姿を見て大笑いしてから黒眼鏡屋敷を後にしたのだった。
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