第347話 紫モヒカンの就職が内定する

 黒眼鏡達が跋扈ばっこするラグナスレインのお屋敷で、ようやく鏡で自分の姿を確認した紫モヒカンのお兄さんの悲鳴が室内に響き渡った。


 しかしモヒカンになった自分を見て驚いている紫モヒカンのお兄さんが意味不明すぎたせいで、彼の頭をこんな風にしたのがクーヤちゃんだったことが判明し、悪そうなお兄さんに犯人呼ばわりされることに・・・。


 場末のスナックでオープンしていた『ヘアーサロン・クーヤ』に駆けつけて、『俺を真のモヒカンにしてくれ!』と頼んで来たのはこの紫頭なのに、ボクが責められるなんて納得いきませんぞーーーーー!!



「犯人呼ばわりしないでください!ボクはお店に来たお客さんに『本物のモヒカンってヤツにしてくれ!』と頼まれたから髪を切ってあげただけなのですよ!」



 それを聞いた悪そうなお兄さんは紫モヒカンを見たが、やっぱりすぐこっちに視線を戻した。



「その『お店』ってのはどこにあるんだよ?」

「場末のスナックの中で、さっき突然オープンしたのです!」

「いつもの飲み屋だよ。カウンター席に座ったまま髪を切ってもらったんだ」


 悪そうなお兄さんは、頭が痛そうな仕草をしている。


「一気にどうでもよくなった。とにかくこの髪型が『モヒカン』なんだな?」

「ボクもまさか『モヒカンにしてくれ!』と頼まれるとは予想外でしたが、完璧な仕事が出来たので大満足なのです!あ、サングラスも超似合うハズですよ!」

「確かに似合いそうだ」


 悪そうなお兄さんが、死神コートの内ポケットからサングラスを取り出し、紫モヒカンのお兄さんの顔に装着した。


「死ぬほど似合ってるな!」

「視界が暗くなったんだが!あ、でも見えなくはないな・・・」

「トゲがいっぱい付いた肩当てを装備すると、もっと完璧になるのです!」

「棘がいっぱい付いた肩当てだと!?ちょっと絵に描いてみてくれ」



 なんか悪そうなお兄さんがその気になっているから、面倒臭がらずにむしろノリノリで、雑魚キャラがトゲトゲ肩パッドを装備している絵を描いた。



「ハハハッ!装備品としては棘なんてあっても無意味だろうけど、やたらと凶悪そうな見た目で面白いな!」

「なるほど!こいつぁ確かに強そうだ!!」

「うわははははは!クーヤがまた新装備を考え出したぞ!」

「なんか格好良い!」


 お絵描きに定評があるクーヤちゃんの新作ってことでレオナねえ達も集まって来たんだけど、あの漫画の雑魚キャラを描いただけなので、これはただのパクリです!


「おいロビン!ずっとその髪型と格好を維持するって条件でなら、組織に入れてやるだけじゃなく、ウチの若いのよりも給料を出してやってもいいぜ?」


「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」



 ぶはッ!半永久的に雑魚キャラになることで、ベテラン構成員並みの給料に!?

 さすがにこのピーキーな条件には、紫モヒカンのお兄さんも悩んでいる。


 貧民街スラムで良い暮らしをしたいなら一番強い組織に入るのがいいってのは間違いないだろうけど、雑魚キャラになるのが条件ってちょっとキツいよな~。



「わかった。ラグナスレインに入れてくれ!」



 うはっ!深く考えもせずに条件を飲んだし!!


 あ、そっか!あの漫画の雑魚キャラだってことを知ってるのはボクだけだから、メッチャ奇抜な格好ではあるけど許容範囲内なのかもね~。


 いや、みんなに褒められたことで、自分でも格好良いんじゃないかと思い始めたのかもしれない。少なくとも似合ってるのはギャラリー達の反応で証明されたし。



「ところで少し金を前借りしていいか?ツケが溜まってて、そろそろ払えってママに催促されてんだよ」

「いきなり前借りの要求だと!?コイツを入れたのは失敗だったか・・・。チッ、しゃーねえな。その代わり早速今日から働いてもらうぞ!」

「今日からかよ!!」

「あ、クーヤ。この棘装備って勝手に作っちまっても問題ねえか?」


 ん?


「装備品に特許なんて無いよね?っていうか、トゲトゲなんか付けても防御力が上がるわけでもないし、誰も真似しないんじゃない?」

「装備品に特許は無いハズだ。ただこの『棘の肩当て』はクーヤが考えたモノだから、一応確認をとっただけだな」

「好きにしていいですよ~」

「そうか、感謝する!」



 そう言ってもう一度絵の確認をした後、悪そうなお兄さんがボク達の方を見た。



「・・・ところでお前ら、此処へ何しに来たんだ?」



 そう言えばお土産を渡しに来たのに、紫モヒカンのお兄さんの就活で盛り上がったせいで、そのことをスッカリ忘れてました!



「最近セルパト連邦まで遊びに行ったから、そこで買ったお土産を渡しにやって来たのですよ!」

「またあっちに行ってたのかよ!」

「今回はハイドリムドって国に行って来たんだぜ?」

「ハイドリムド?」


 その名を聞いて、顎に手を当てて少し考えてた悪そうなお兄さんだったが、何かを思い出したようでハッとした顔になった。


「確か菓子が美味い国だとか聞いたことあるぞ!・・・ん?そういやハイドリムドっつったら、『ジグスレイド』って名のアホみたいにデカくてヤバイ組織がある国じゃねえか。そんな目立つ格好してよく絡まれなかったな?」


 おおおおおーーーーー!ジグスレイドを知ってるのか!


「いや、ハイドリムドの最初の街に入った瞬間絡まれたぞ?」

「しかも一度や二度じゃないからね!」

「本当にしつこかったよね~アイツら!」

「はあ!?いやいやいやいや!何度も絡まれてお前ら大丈夫だったのか!?」

「全然大丈夫じゃなかったですよ。煩かったので絡んで来る度に撃退していたのですが、隙を突かれて天使様が誘拐されてしまいました」

「何だと!?」



 さすがにあの時はちょっと焦りましたね~。

 その状況に適した召喚獣を呼び出すのをミスってしまいましたし。


 いきなりバイオレンスな話になったので、紫モヒカンのお兄さんだけじゃなく、室内にいた黒眼鏡達もこっちに注目している。



「お前また誘拐されたのか!」

「可愛いショタは悪者に狙われる運命なのですよ」

「・・・で、どうなったんだ?」

「ん?そんなの潰したに決まってるじゃないですか」

「クーヤを誘拐するなんて万死に値するから当然」



「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」」



 まあ今回戦った相手は、構成員が3000人とかいる組織ですからね~。

 『こいつらまたやったのか』くらいの感想で済むレベルの話じゃないかもです。

 

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