第324話 最後の一仕事

 王妃様からのお願いは、レヴリオス公爵との決戦で味方を勝利に導くこと。


 勝利報酬は1人につき1000万ラドン。

 すなわち6人で6000万ラドンという破格の依頼だった。


 大金に釣られたお姉ちゃん達に説得された形だけど、ボクだって1000万に心が揺さぶられなかったわけではないのだ。


 王妃様がホクホクしながらボク達の部屋から出て行ったあと、みんなで敵を弱体化させる方法を議論しまくったのだった。




 ◇




 一夜明け、王家の正規軍に追いつくために、早朝のまだ少し暗い時間にグリフォンに乗って大空へ飛び立った。


 新選組の『諸士調役兼監察』でもあるレンクルを偵察に飛ばしてあったので、味方の軍勢を探す必要すら無く、真っ直ぐレンクル目指して突き進む。



「追いついたぞ!まだ戦闘前だ」


「やった!とりあえず追い抜いて、敵軍がどこまで迫ってるか見て来よう」


「「了解!!」」



 味方の軍勢を追い抜き1kmほど先へ進むと、マグロのおっちゃんが部下を二人連れて、身を低くして歩いているのを見つけた。


 そうか、諜報部隊だから斥候役をしてるんだ!

 でも話し掛けるのは後だ。まずは敵軍の位置を調べなきゃ。



 おっちゃんをスルーして先へ進むと、3kmほど先で敵の軍勢を発見。



「めっちゃ近いですやん!」


「激突寸前じゃねえか!!」


「よし、マグロのおっちゃんのとこまで引き返すよ!」



 グリフォンをUターンさせ、おっちゃんを見つけた場所まで戻って来た。



 バサッ バサッ バサバサバサッ!



「うおっ!何だ!?」

「魔物だ!!」

「いや違う!クーヤだ!!」


 グリフォンから降りると、マグロのおっちゃん達が駆け寄って来た。


「なぜこんな所まで来た?もしかして緊急事態か!?」

「首都に何かあったとかじゃないよ。王妃様に頼まれて、お手伝いに来たのです」

「お手伝いだと!?」

「じゃあ作戦を説明するので聞いてください。敵軍が3km先まで迫って来てるので、質問は一切受け付けません」

「3km先だと!?」


 目と鼻の先に敵軍が迫っていると聞き、彼らは慌てだした。


「マグロのおっちゃんの作戦は、行進で疲れている公爵軍を叩くことだよね?」

「その通りだ」

「でも歩き疲れている程度なら、全然戦えないってこともないですよね?」

「そりゃまあ、日頃から訓練しているわけだからな・・・」

「正直なところ、希望的観測を込めて五分五分って感じだと思うのです」

「いや、まあ、確かにその通りなんだが、それでもやらねばならんのだ!!」


 変なこと言ってごめんね。作戦にケチをつけに来たわけじゃないですから。


「そこでボクは思いました。行進で疲れてるくらいじゃ生ぬるいな~と」

「・・・は?」

「というわけで、敵軍の皆様には3kmを全力疾走してもらうことにしました!簡単に説明すると、敵軍の背後に怖いヤツらが出現するみたいです」


 察したマグロのおっちゃんの口端が上がった。


「マグロのおっちゃん達は今すぐ味方のところまで引き返し、兵士達を横並びにして左右に大きく広げ、身を低くして休ませておいてください!息を切らした敵軍が我先にと突っ込んで来るから、それをボコるだけの簡単なお仕事なのです!」


 そこまでお膳立てして負けるなど許されませんぞ?


「ふふっ、わーーーーーっはっはっはっはっはっはっは!聞いたなお前ら?この勝負もらったぞ!!」

「ほ、本当に勝てるのか!?」

「この土壇場で勝機が到来するとは!!」

「急げ、もう時間が無い!クーヤも気を抜くなよ!」

「あい!」



 タタタタタタタタタタッ


 斥候の三人が、一足お先に全力疾走していった。



「こっちも時間が無いから急ごう!」



 ポイッ


 ショタをグリフォンの背中に放り投げたタマねえが、素早い動きで自分のグリフォンに乗った。


 バサッ バサッ バサッ バサッ


 無駄のない完璧なコンビネーションで、再び大空に舞い上がった。



 そしてグリフォンに乗ったボク達は、敵の先頭集団を通り過ぎ、レヴリオス公爵軍の右後方の辺りまで来たところで、爆弾のようにトレントを投下していく。



 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! 



「な、何事だ!!」

「・・・大木がいっぱい空から降って来たんだが?」

「何だこりゃ!?意味が分からん!!」



 今度は左後方の辺りまで移動し、こっちにもトレントを投下。



 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!



「うわああああああああ!!」

「は??さっきまでこんな木あったか?」

「いや、空から降って来たぞ?」

「そんなわけねーだろ!!」

「いや、本当なんだって!!」



 これで前にしか逃げられなくなりました。


 そして敵軍の真後ろまで来たところで二枚の鉄板を地面に召喚。

 さらに後方まで移動してから、ようやくグリフォンを着陸させた、



「これくらい距離があれば大丈夫かな?新選組・総長部隊召喚!」



 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!」



 ハムちゃんズを横一列に並べた。



「新選組・一番隊召喚!二番隊召喚!三番隊召喚!四番隊召喚!」



 そしてハムちゃんズの後ろに、新選組の一番隊から八番隊までズラッと並べる。

 レヴリオス公爵軍はまだ気付いていない。


 人間の姿が見えないように、お姉ちゃん達にはハムちゃん達の後ろにしゃがんでもらった。



「新選組・九番隊召喚!」



 あえて召喚獣達の後ろの上空に召喚したゴーレム達が、空から降ってくる。



 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! 



 ざわっ



 ココからじゃ会話が聞こえないけど、敵軍が後ろを振り返り、突然魔物の大群が現れたことに驚き、指をさして大騒ぎしている。



「魔物の大群は分かるが、何で先頭にハムちゃんをいっぱい並べたんだ?」

「今は魔物の大群を見て驚いてるけど、覚悟を決めて魔物を倒しに来るかもしれないじゃないですか」

「来るかなあ?」

「いや、自殺行為だろ!」

「とにかく後ろに来られると困るのですよ。全力疾走させるのが目的なのですから!というわけで、今回まったく活躍できなかった総長部隊の軍事演習をします!」

「アハハハハハ!確かにアレを見たら、戦おうなんて一切思わなくなるね!」

「なるほど!ハムちゃんズのストレス解消にもなるし、一石二鳥だな!」

「ハムちゃん達ってそんなに凄いのですか?」

「地獄。タマでも逃げる」



 ドラちゃんを召喚すれば確実なのはわかっているのですが、ボクがドラゴンまで呼び出せることを王家に知られたくないんですよね。


 だからドラちゃんは使わずにいきたいと、昨日お姉ちゃん達に話しておきました。

 まあこれで敵が逃げないようなら、結局呼び出すしかないんだけどさ・・・。



「ペカチョウ総長!あの鉄板目掛けて一斉攻撃なのです!」



チューーーーーーーーーー!うてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!



 ボガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 ギョシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッ!!

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 ドゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!

 ゴッシャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー!

 ズガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!




 ハムちゃん達から放たれた超絶魔法により、視界が天変地異に包まれた。

 

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