第323話 王妃様からの依頼

 

 ―――――事件が発生したのは、お風呂上りにアイテム召喚をした直後だった。



 大仕事を終えたボク達は、活躍を耳にした王家からのご褒美なのか、先日以上の豪華な夕食を頂き、いつもの8人部屋に戻ってお風呂に入った。


 そしてレオナねえに『眩しいって苦情が来ても知らんぞ?』と言われながらも、もったいない精神でアイテム召喚をした。


 出てきたアイテムは、まさかの『虎マスク』。

 アニマルマスクの虎じゃなく、プロレスラーが着用してたあの伝説のマスクだ!


 別に欲しいと思ったことは一度も無かったんだけど、ウェットティッシュで拭いてからさらに普通のタオルで拭き、どこぞのおっさんが着用した後でもこれなら安心だと、ようやくストックした。本物なのか偽物なのかは知らん!


 これを装着した自分の姿を想像すると勝手に顔がニヤけてきたので、すぐに虎マスクを再召喚し、自分で着用してみることにした。



「なんてこった・・・。大人用だからブカブカじゃないですか!」



 悲しいことに、目の位置も口の位置もズレまくりなのです!



「わはははは!クーヤには10年早かったようだな。ここはアタシに任せろ!」



 レオナねえが虎マスクを着用してみると、男性プロレスラー用なのでやっぱりブカブカだったけど、ボクよりは全然マシだった。



「どうよ!」


「ボクより似合っててムカツクのです!」

「アハハハハハハハ!なんだか強そうになったよ!」

「タマも負けていられない!」



 タマねえも馬マスクを着けて、虎マスクの隣に並んだ。



「「あーーーーーっはっはっはっはっはっはっは!!」」



 そんな風にみんなで盛り上がっていた時だった。



 トントントン



「誰か来たよ?」

「メルお姉ちゃんかな?」

「どうぞ~」



 ガチャッ




 ―――――王妃様だった。




 虎マスクと馬少女は完全にフリーズし、室内に冷たい風が吹く。



 しまった!!二日連続で部屋を光らせたから苦情を訴えに来たのかも!

 よく分からんけど誤魔化そう。



「王妃様じゃないですか!ボク達の部屋に遊びに来るとはビックリなのです!」



 バタン


 カツッ カツッ カツッ



「そう硬くなる必要はありませんわ。今日の活躍を労いに来たのですから。鮮やかにジグスレイドを打ち滅ぼした手際、本当にお見事でした!」



 苦情じゃなかったーーーーーーーーーー!!



「ありがとうなのです!」


「「あ、有難う御座います!」」



 お姉ちゃん達の方を見ると、いつの間にか虎マスクと馬少女が人間に戻っていた。

 どうやら重たい空気に耐え切れなかったもよう。



「これでリムディアースが火の海になる事態は避けられたでしょう。後はレヴリオス公爵めを叩き潰すだけです!」


 そこが一番重要なんですよね~。

 本隊が敗れればそのまま王都に攻め込んで来て、結局酷いことになるんだから。


「勝てそう?」


 ショタのその一言に、王妃様は眉間に皺を寄せた。


「公爵軍は何日にも及ぶ行進で疲労していますわ。此方は万全の状態で戦うのですから、そこに勝機はあります。しかし反乱に備えていた公爵軍と違い、此方は突然の出兵ですので、兵の数が倍程に違うのです」


 ・・・ヤバくね?


「長期戦になれば援軍が到着するので負けはしないでしょう。しかし公爵軍が撤退したとしても長い戦争になるのは必定。そんな面倒なのは御免ですわ!」


 それはすごく気持ち悪そうですわ!

 援軍が来たと思ったら実は敵に寝返っていたって可能性もありますわ!


「え~と・・・、結構厳しい感じっスかねえ?」


「劣勢ですわね。作戦が上手くいって、ようやく五分といったところかしら?」


 そう言った割には、王妃様の目は力強かった。


「でも我々には運がありました!この窮地に、心強い援軍がミミリア王国から駆けつけてくれたのですから!」


 なにィ!?ミミリア王国からの援軍だって!?


「それってボク達のことじゃないかーーーーーい!!」


「もう一暴れ、お願いしますわ!」


「いや、ボク達はハイドリムドに遊びに来ただけなので、人を殺しまくって帰るなんて絶対お断りなのです。ボク個人でも、人は殺さないって決めているのです!」


「・・・え?ジグスレイドを壊滅させたと聞いていますわよ?」


「全員半殺しの刑にしたのですよ。でも数万人規模になると難しいのです」


「そ、そんな・・・」



 まさか断られるとは思わなかったのでしょうね。

 王妃様がちょっと涙目になってます。



「お願いします!この戦いにはハイドリムドの未来が懸かっているのです!!ちなみに勝利報酬は1人1000万ラドンですわ!」



 スタッ


 王妃様が怖かったんだと思うけど、黙って後ろで話を聞いていたお姉ちゃんズが前へ出て来た。


 そしてレオナねえが、ボクの肩に右手を置いた。



「クーヤ。王妃様ともあろうお方が、これほどまでに必死にお願いしているんだ。力になってやろうぜ?」

「そうだよ!レヴリオス公爵に負けたら、結局首都が火の海になっちゃう!」

「やり方次第では殺さなくても何とかなるんじゃないかな?」

「手段は問わずですよね?とにかく味方を勝利に導けばいいのです!」

「クーヤなら出来る!」



 お姉ちゃん達・・・、1000万に釣られやがったな!?



「ん~、『敵を殺さずに味方を勝たせる』か・・・。味方を強くするのは無理だから、敵軍を弱体化させればいいわけだよね?」



 意外とチョロいような気がしてきた。

 二度のジグスレイド討伐を経て、ボクも成長していたみたいです。



「わかりました。いっちょ味方を勝たせてきますか~!!」



「「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 それを聞いた王妃様が、ぱあ~っと笑顔になった。

 そしてお姉ちゃん達の目が$マークになった。

 

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