第316話 お城に行くなんて聞いてない!
ハイドリムドの首都を目指して大空へ飛び立ったクーヤちゃん一行だったが、初フライトに挑んでいる新入り4人のために一度目の休憩を取った。
「ようやく飛ぶのにも慣れてきたが、これはしんどいな・・・」
「もう両手の握力が無いです!これ以上飛べません!」
初めての空の旅だから、緊張して手に力が入りすぎてるのかもね~。
悪者2人も地面に座り込んでぐったりしている。
「この程度でへこたれるなんて甘いぜ?アタシらが最初飛んだ時なんて鞍が無かったから、グリフォンの毛で輪っかを作ってそれに捕まって飛んでたんだぞ!」
「クーヤなんて空から2回落ちてる」
「「はあ!?」」
ボクのことはどーでもいいのです!
「安全ベルトを着けていれば天使様みたいに落下することはありませんので、もっと手の力を抜いて楽にハンドルを握るといいですよ」
「ハンドル以外にも鞍に何ヶ所か握れる所があるから、疲れたら握る場所を変えたりするのもオススメかな?」
「飛びながら握る場所を変えるのはまだちょっと怖いな・・・」
ホワ~ン
「あっ!なんか手が気持ち良いです!」
「これで少しは握力が回復すると思うよ!」
男三人はまだ余裕がありそうだから問題ないと思うけど、メルお姉ちゃんがへこたれていたので、白ハムちゃんに治癒魔法を掛けてもらいました。
簡易トイレで用を足してから、一行はまた空へと舞い上がった。
◇
何度も休憩を取って握力を回復させながら、首都目指して進んでいる時だった。
「何だ?人がいっぱい歩いてないか?」
「レヴリオス公爵軍です!」
「なにッ!?」
「そうか!公爵の城がある南からの進軍だと目立つから、東に大きく回り込んで移動しているのか!奴らに気付かれないよう、迂回してもらっていいか?」
「全員右に進路を変えろ!高度も上げるからな!」
「「了解!」」
上空から弟公爵の軍勢を見下ろしてるんだけど、かなり大規模なのは一目瞭然で、本気でクーデターを起こそうとしているのがわかった。
「おそらく全軍で来てやがるな・・・」
「何も知らずに、これほどの軍勢に攻め込まれたら危なかったですね」
「ああ、間に合って良かった!」
マグロのおっちゃんとメルお姉ちゃんが真剣に話してるのはともかく、なんでボク達は旅行に来てデカい内乱に巻き込まれているのでしょうか?
しかも王都を火の海にして混乱の渦にしようとしている敵の工作部隊を叩き潰すという、一番重要な任務を遂行することになってます。
何かご褒美でも貰えなきゃやってられなくないっスか?
まあクーデターとか関係なしにジグスレイドは潰すんだけどさ。
そんなことを考えてる間に軍隊の先頭を追い越したので、奴らに見つからない様に真っ直ぐスーーーッと飛び去った。
「かなり離れていたから見つかってはいないハズだ。まさか空に人がいるなどとは思わんだろうしな」
「もう少し進んだら進路を元に戻そう。方向が合ってるのか知らんけど」
「レヴリオス公爵軍は首都に向かって進んでいたのだから、方向はバッチリだ」
「あーそっか!」
しかし弟公爵の軍勢って何万人いたんだろな~。
軍隊の行進を見るのなんて初めてだから、圧巻すぎてドキドキしましたぞ!
公爵軍をかなり引き離した所で休憩を取り、ハムちゃんズに体力や握力なんかを癒してもらってから、力を振り絞ってフライトを再開した。
やっぱり丸一日飛ぶのはかなり地獄ですな・・・。
◇
「お!?街が見えてきたぞ!」
「あれがハイドリムドの首都『リムディアース』だ!」
「すごく大きい街だね~」
「門兵に見られたらまた面倒臭いことになるから、この辺に着陸してシャンクルに乗り換えるか?」
「いや、緊急事態だから真っ直ぐ城に向かうぞ!」
「「はい!?」」
なんか、城とか聞こえたんですけど?
「いやいやいや!アタシらはごく普通の一般人だぞ!城に連れて行かれても、作法なんか知らねえし!」
「それにグリフォン10体で城に突撃したら、兵士に囲まれちゃうよ!」
「俺とファリーが一緒だから大丈夫だ」
「メルです。いい加減覚えて下さい!」
「くっ、俺とメルな!これでいいんだろ!?」
だから怒られるって言ったのに。
ってかマジでボク達もお城に行くの!?いきなり王様と面会するとか勘弁してほしいんですけど!
混乱している間にグリフォンは門の上を通過し、街の上空を突き進んでいく。
結構上空を飛行してるとはいえ10体のグリフォンが固まって飛んでいるので、こっちを指差してる人とかいるけど大丈夫?
「お城まで来ちゃったよ・・・」
「もうどうなっても知らねえからな!」
「大丈夫だ!たぶん」
「今この人、『たぶん』って言った!」
―――――グリフォンがとうとう城門を突破した。
「よし、ここなら広いから大丈夫だ。着陸してくれ」
「グリフォン、全員着陸だよ~!」
バサバサッ バサッ バサバサッ バサッ バサバサッ
「大変だーーーーーーーーーー!空から魔物が入って来たぞ!!」
「嘘だろ!?し、至急兵士を集めろ!」
「待て!!騒ぐな、俺だ!マグナロックだ!!」
「はあ!?」
「いや、魔物が・・・、え?どういうことなんだ??」
「魔物が攻めて来たぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ドダドダドダドダドダドダドダドダドダドダ!!
全然大丈夫じゃないし!
やっぱり大騒ぎになったじゃないですか!!
しょうがないので、全員が降りたのを確認した瞬間グリフォンを消した。
そしてハムちゃんを連れて素早く鞍を回収していく。
「魔物が全部消えたぞ??」
「いや待て、そこに変な動物がいる!」
「意味が分からん・・・」
「こんな所で時間を取られている暇など無い!俺がマグナロックなのは見てわかるだろう?緊急事態なんだ。城に入るぞ!」
「メルです。此処にいる数名は我々の協力者なので、城に入れても問題無いと保証します!」
兵士達も王家の諜報部隊に所属しているお偉いさんくらい知ってるよね~。
でもボク達を取り囲んでいる兵士達は首を捻って考えている。
「「メル?」」
「おいファリー、それじゃ駄目だろ!」
「・・・あ。ファリーメルテです!」
あーーー!そういえば『メル』って呼び名が通用するのってボク達だけじゃん!
顔と名前が一致しないから、兵士達が変な顔してたのか!
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