第292話 司祭様をわからせる
祝福の儀でまさかの『勇者』を授かったリリカちゃんでしたが、この世界にはそんな職業など存在していなかったのか、司祭様ですら困惑するようなレア職業だったみたいです。
・・・でもよく考えたら『ユウシャ』って日本語だよね?
グラディエーター、レンジャー、セージ、トリックスター、サモナー。
この流れでいくと、『ブレイブ』とか『ヒーロー』って名前の職業になりそうなもんだけど、どういうわけか勇者はそのまんまらしい。
まあボク的には『勇者』って響きが最高に格好良いと思ってるんで、これに文句を言うなんて絶対有り得ないですけどね!
けどまさかリリカちゃんが祝福の儀で、本当に『勇者リリカ』になるなんて、夢にも思わなかった!!
1年間学園に通ったり、ドラゴンに乗ったりしたけど、リリカちゃんの心に1番響いたのはクエクエでの大冒険だったってことなのかな?
そういえばクリアした時、感動して大泣きしてたもんな・・・。
感受性の強い子だから、毎日冒険をがんばって『りゅうまおー』を倒したあの感動が深く心に残っていて、『勇者』という職業を呼び寄せたのかもしれない。
「えーと・・・、君たちはあの『ユウシャ』という
ん?なんか司祭様に話し掛けられた。
「うん!クエクエ・・・じゃなくて、本で読んだから知ってるの!」
「本当ですか!?その本を見せてもらう事は出来ますか?」
しまった!ゲームのことを誤魔化そうとしたら面倒なことになったぞ。
仕方なかったとはいえ、ウソをつくといつも深みにはまるなあ・・・。
「ずっと前に、落ちてた本を読んだんだよ!山の中だったからもう無いかも」
「や、山の中ですか!?・・・えーと、君たちは『ユウシャ』の事をどこまで知っているのでしょうか?」
まいったな・・・、深入りすると面倒事の予感しかしない。
リリカちゃんに興味を持たれて良いことなんか何一つ無いだろうし、上っ面しか知らないって感じで、誤魔化した方がいいような気がする。
「あんまりわかんないよ?でもね、強いの!」
「ほうほうほう。おっと!まだ他の子が終わってなかった・・・。申し訳ないのですが、最後まで残って少しお話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」
どうしても司祭様は『勇者』の情報が欲しいみたいだな。
でもこの機を逃すと何も情報が無い職業になってしまうわけだから、そりゃ知りたいに決まってるか。
まあ、子供に聞いてるくらいだから深い話なんか期待してないだろうし、ただ強いって言ってれば満足してくれるでしょう。
「はい!」
「ありがとうございます。ではその時にリリカちゃんの
あっそうか!本来ならば、このタイミングで奥の部屋に呼ばれて職業を告げられるんだよな。タマねえと一緒にはしゃいじゃったせいで後回しにされちゃった!
みんなごめんね~。
そういうことになってしまったので、タマねえとリリカちゃんを連れて家族のいる所に戻った。
「ごめん、なんか最後になっちゃった。ここじゃ騒げないから話は外でいい?」
「そうだな。ツッコミ所満載で静かにしているなんて無理だ。一旦出よう」
というわけで、ゾロゾロと教会の外に出た。
「・・・さて。まずはリリカ、おめでとう!」
「「リリカちゃん、おめでとう!」」
「あ、ありがとーーーーーーーーーー!!」
こういうのって、不遇職でもおめでとうでいいのかな?
いや、いいに決まってるか。子供を悲しませる親なんて万死に値するよ。
「アタシらにも司祭様が『ゆうしゃ』って呟いたように聞こえたんだが、司祭様は初めて見たと言っていた」
「私もそんな
「うん。私も聞いたことないと思う」
「まあ誰も知らん
悪そうなお兄さんの一言に、全員の視線が突き刺さった。
「リリカとクーヤとタマの喜び様からいっても、やはり『ゆうしゃ』という
「その黄色いガキと絡んだ時点で何か起きるとは思っていたが、司祭ですら知らない
「実を言うとな、アタシも知ってるんだ。『ゆうしゃ』が何なのかを」
「「なんだってーーーーー!?」」
レオナねえ、ボク達がクエクエやってるのをボケーっと後ろで見てたもんね!
「あの三人ほどは詳しくはないけどな。でも『ゆうしゃリリカ』が剣と魔法を駆使して戦ってるのはこの目で見たぞ」
「はあ!?剣と魔法の両方を使えるのか!」
「ちょっとしか文字が読めねえから自信はないが、治癒魔法も使ってたような気がするんだよな~。クーヤが『回復ーーー!』とか叫んでたし」
「文字??あーそういや本とか言ってたな。物語の主人公なのか?」
「いや、本ってのはクーヤが誤魔化しただけだ。そもそもゲームが何なのかよく分かってねえから説明しにくいんだよ!」
レオナねえがこっちを見たし、そろそろ会話に参加しよう。
「ゲームに関してはボクも説明しにくいのです。司祭様に言ったって理解させるのが無理だと思ったので、本を読んだことにしたのですよ!」
「だろうな。クーヤの対応で正解だ。で、どこまで教える?」
「すごく強いって言うだけだよ?でもそれだけじゃ納得してくれないと思うから、剣が得意でもしかしたら魔法が使えるかもって言ってみる!」
「うん、それでいい。その程度ならリリカへの興味も最小限で済むだろう」
「すなわち他にも何かあるってことか・・・。しかし相変わらずよく回る頭だ」
とまあ、教会の外での話し合いは、神父様になんて説明するかの作戦タイムとなりました。まだ神父様が呟いた『ユウシャ?』って情報しか無いですからね~。
そして教会の中に戻ってからは大人しくイベントの進行を見守り、子供達全員が職業を授かるのを最後まで見届け、ようやく神父様との話合いが始まった。
「リリカちゃんの
よしッ!やっぱりリリカちゃんは『勇者』で確定です!
これは面白いことになって来ましたぞーーーーー!
「勇者はすごく強いんだよ!!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
「えーと、どういうことが出来る
「剣で悪い魔物をドーーーンってやっつけるの!」
「ほうほう!剣士なのですね?」
「でね、魔法で悪い魔物をドーーーンってやっつけるの!」
「はい!?剣だけじゃなく魔法も使えるのですか!?」
「うん!すごく強いんだよ!!」
「なるほど、剣と魔法の両方を使えるとしたら、とても素晴らしい
「あとね、子供たちに優しいの!村のみんなにも優しいの!」
「ほうほう!!もしかすると強い正義の心を持っているのが、
司祭様が本当に知りたがっていたのは、職業の危険性だと思うんだよね。
剣と魔法が使えて正義の心を持っている。おそらく説明はもう十分でしょう。
「他には何かありませんか?」
「ん~~~~~、強くて優しいのが勇者だよ!」
その言葉を聞いて、司祭様が一つ頷いた。
「なるほど、大体わかりました。ご家族の皆様、司祭である私から説明する事が出来ず、申し訳ありませんでした。しかしこの子がいてくれて本当に助かりました。最後まで残って頂き、誠に有難う御座います」
「いえ、此方こそ有難う御座いました!」
数少ないお父さんのセリフを最後に、ようやく祝福の儀は終了となった。
大したことはしていないんだけど、正直メチャクチャ疲れました!
教会の外に出てすぐにお母さんがリリカちゃんをそっと抱きしめ、『よかったね、リリカ』と優しく囁くと、リリカちゃんどころか家族全員の涙腺が崩壊した。
・・・これが祝福の儀なんだな。
悪そうなお兄さん達とはそこで別れ、ほっこりした気持ちのまま、ボク達は憩いの我が家へと帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます