第291話 リリカちゃんがとんでもない職業に!

 司祭様に名前を呼ばれた子供達が元気な声で返事をし、一人ずつ前へ出て行く。


 子供達はこちら向きに置かれた椅子に左から順に座らされているんだけど、アレはたぶん家族に顔がよく見えるようにしているんだと思う。


 人生が懸かってる重大な儀式とはいえ、当人だけじゃなく親御さん達も楽しませなければならないのでしょう。


 なんせ30万払ってますからね!!



「リリカちゃん、前へ」



 おっ、リリカちゃんの名前が呼ばれたぞ!!



「ほらリリカちゃん、名前を呼ばれたわよ?」


 お母さんに肩をポンポンと叩かれたリリカちゃんが、緊張で顔を真っ赤にしながらギギギッと動き出した。


「ちゃんと返事をしないとダメですよ」


 お父さんの一言で、自分が返事をしてなかったことに気付いたもよう。


「は、はい!!」



 緊張の極限に達しているリリカちゃんが、ロボットのような動きで前に出て行く。



「リリカちゃん。動物は置いてきて下さい」



 あっ、うさぎを抱えたままじゃん!

 慌てて彼女の側に駆け寄り、うさぎを受け取った。



「リリカちゃん、がんばってね!」



 彼女は少し涙目だったが、コクンと一つ頷き前へ歩いて行った。

 うん、何とか無事に椅子に座ることが出来たようだ。



 そして10人の子供達が席に着いた後、奥のドアからゴツイ鎧を着た騎士みたいなのが三人出て来た。・・・でも何で鎧の騎士が?


 あっ、そうか!


 祝福を受けた子供が、バーサーカーみたいな危険な職業を授かって、心が狂気に蝕まれてしまった時、あの騎士達が取り押さえなければならないんだ。


 そして最悪の場合、その場で殺処分されるんだな・・・。


 思わずタマねえの顔を見ると、当時のことを思い出したのか、彼女は苦々しい顔をしていた。


 でも『バーサーカー』という、危険極まりない職業を授かったのを伝えられた状態で、タマねえが狂気に打ち勝つまで殺さずに見守ってくれたわけだから、司祭様を含めてみんな優しい人達なのかもしれない。


 あの人達全員が、当時と同じ人なのかは知らないけどさ。



「これより祝福の儀を始めます」



 来たっ!!


 元々話し声なんてほとんど無かったけど、司祭様の一言で完全に静まり返った。



「アンソニーくん、起立して一歩前へ」

「はい!」



 向かって一番左に座っていた子が立ち上がり一歩前へ出た。

 そして、動作の全てが見える完璧なポジションに移動していた司祭様と向き合う。



「この世界の希望となる少年に、神の祝福を!!」



 司祭様が掲げた高そうな杖から、力の波動のようなモノを感じた。

 そして解き放たれた謎の力が、アンソニーくんを包み込む。


 ピカッ!


 おお!?アンソニーくんが一瞬光ったぞ!!

 今の光で祝福を授かったってことか。


 司祭様が、真剣な表情で少年の何かを見ている。

 おそらく祝福の儀で授かった職業を調べてるんだと思う。



「ほほう、良い職業クラスを授かりましたね」



 その言葉を聞いて、騎士達がホッとしたのがわかった。

 何気ない一言で、『危険な職業じゃなかったぞ』って知らせたのだろう。



「アンソニーくんの身内の方は、一緒に奥の部屋まで来て下さい」



 あの少年の家族らが椅子から立ち上がり、司祭様と一緒に奥の部屋へと入って行った。両親以外の大人も入って行ったから、関係者なら全員オーケーなのかも。


 なるほど!


 他の人がいっぱい見てるから、別室で身内にだけ職業を伝えるのか。

 もし授かったのが不遇職だったら、晒し者になっちゃうもんな。


 野次馬としては、ここにいる全員の職業が知りたいんですけどね!




『『おおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!』』



 ・・・ん?


 なんか奥から歓声が漏れ聞こえて来るんですけど!

 こっちが静まり返ってる状態だと、奥の部屋で発した大声が丸聞こえですな。


 おそらく本当に素晴らしい職業だったから盛り上がってるんだと思うけど、不遇職だったら静かに話さないとダメですね・・・。


 まあ何にしても、アンソニーくんおめでとう!


 しかし祝福を受けたら光るってのはナイスじゃない!?

 ボクって、光るのだけはメッチャ得意なんですよ!!



「ハゲヅラは禁止だぞ?」


 レオナねえに先読みされた。


「嫌だなあ。大事な日にかぶるわけないじゃないですか」

「すぐ答えたってことは、やっぱり考えてやがったな?」

「騒ぎになったら他の人が迷惑する」

「そうですね。普通にしていた方がいいと思いますよ」

「当日は大人しくしてます!」


 ボクはいいけど、他の子供達は一世一代の大勝負だもんな。

 アホなことして進行を遅らせたら可哀相だし、マジで大人しくしていよう。




 ◇




 それから何人もの子供達が祝福の儀で職業を授かっていき、とうとうリリカちゃんの順番になった。



「リリカちゃん、起立して一歩前へ」

「はい!!」



 待ち望んだ一世一代の大勝負に、後ろで見ているボクの方が緊張してきた。

 家族だけじゃなく、ライガーさんや悪そうなお兄さんも緊張しているようだ。


 神様、どうかリリカちゃんに素晴らしい職業を授けて下さい!!



「この世界の希望となる少女に、神の祝福を!!」



 司祭様が掲げた高そうな杖から力の波動が放たれ、リリカちゃんを包み込んだ。



 ピカッ!



 ちょっと強い光だった気もするけど、これはほとんど全員一緒だな。

 とにかく今の一瞬でリリカちゃんの職業が確定したんだ。




「・・・・・・・・・・・・・・・」




 ・・・なんか、結果発表まで妙に長くない?


 リリカちゃんを覗き込んでいた司祭様が固まって、まったく動かんのだ。


 レオナねえと目があったけど、わからんって顔をされた。

 さすがに他の人らも異変を察知したようだ。



「ユウシャ??」



 !?



「こんな職業、初めて見た・・・・・・」



 ちょっと待て!今、『ユウシャ』って言わなかったか!?


 バッ!


 振り返ってタマねえを見ると、彼女の顔が驚きから笑顔に変わる瞬間だった。



「「勇者リリカだ!!」」



 タタタタタタタッ


 居ても立っても居られず、タマねえと一緒に駆け出した。

 そしてリリカちゃんを力いっぱい抱きしめる。



「いま、ゆうしゃっていった!!うわーーーーーーーーーーん!!」



「「勇者ロロばんざい!勇者リリカばんざーーーーーい!」」



 嬉しさのあまり泣きじゃくるリリカちゃんと、謎のセリフを叫びながら大騒ぎしているボクとタマねえを見ながら、司祭様は頭に『?』を浮かべて困惑していた。

 

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