第281話 ジャーキー職人は本当に大変なのです

 準備が整ったので、ペカチョウに燻製マシーンを出してもらい、横に3台並べた。

 そう、弟子のためにわざわざ燻製マシーン3号機を買って来たのだ。


 そして前面にある扉を開けてから、三人の弟子を配置につかせた。



「まずは上の段に干し肉をいっぱい並べます!寝かせて置くとあまり入らないので、こうやって立たせて並べるんだよ~」



 ペカチョウに出してもらった大量の干し肉を手に取り、2号機の中に並べていく。それを後ろから見ていた悪そうなお兄さんが口を開いた。



「ちょっと待て。コレってほとんど完成してねえか?」

「うん。でもここからが本番なの!」

「いや、そうじゃなくて!一番最初からやらねえとワケが分からんぞ」

「まあ本当は最初から教えた方がいいと思うんだけど、バッファローを倒して解体して肉を切って~ってのんきなことやってたら夕方になっちゃうよ?そんなの時間の無駄です!ちょっと順番はおかしいけど、燻製作りからやります!」

「なるほど、今のは俺が悪かった。言われてみると確かに時間の無駄だな」


 明日になればちゃんと繋がるんで、燻製作りから始めても問題はないでしょう。


「ぺち子姉ちゃんは1号機、悪そうなお兄さんは3号機に肉を並べてください!ラン姉ちゃんは後でボクと場所を交代するからね~」

「は~い」


 二人が肉を並べている間に、3台の燻製マシーンの横に木片をいっぱい出した。

 そういえばスモークチップ作りは、どのタイミングで教えようか・・・。


「干し肉はそんな感じでオーケーです!次は下の段にある皿の中に木片を入れるんだけど、炎が上がらず火が燻ぶるようにしなければなりません。ボクもまだ極めてないから一番良い配合を探しているところなのですが・・・」


 この前良い感じだった配合を思い出しながら、木っ端を拾って皿の中にどんどん投入していく。


「大体こんな感じかな?で、最後に炭を入れて火を点けます!」


 弟子たちは火の魔法が使えるハムちゃんを所持してませんので、火を点けることが出来る魔道具を三つ買って来ました!値段はそんなに高くなかったよ。


「これで後は2時間、ひらすら火力調節です!ではぺち子姉ちゃんと悪そうなお兄さんも、下の皿に木っ端を投入して火を点けてください。じゃあラン姉ちゃん、ボクと交代するよ~!」

「ムムムム!これはにゃかにゃか難しそうにゃ・・・」

「お前一人でこんな面倒臭いことやってたのか!普通に関心するわ」

「暑いわね・・・」



 やはり火力調節は難易度が高く、三人共かなり苦戦していた。



 ―――――そして2時間が経過。



「みなさん、時計に注目です!」



 三人が、後ろに置いてあった目覚まし時計を見た。


 本当はジリジリ鳴らせば楽なんだけど、グルミーダが逃げてしまうかもしれないので、狩場で目覚まし機能は使えないのだ。



「お!とうとう2時間経ったな!」

「終わったにゃか!?」

「や、やっと終わったの!?」



 こっちの世界での2時間だから、地球だと2時間20分ってことになりますね。

 火の後始末をしてから、完成したジャーキーを一枚だけ食べることを許可した。



「めちゃくちゃ美味え!!そうかなるほど。干し肉を燻製にすることで、深みのある香りと味わいになるのか・・・」

「さっき干し肉の匂いを嗅いでみたにゃが、もう今と全然違うにゃ!これこそ真のジャーキーにゃ!!」

「美味し過ぎる!!自分で作ったから、なおさら美味しく感じるのかも!!」


 みんな自分の手で作ったジャーキーに感動していますね!


「うん!美味しくなるのももちろんだけど、素人が作った干し肉ってお腹を壊す可能性があるの。でも燻製にすることで殺菌が出来るから、安心して食べられるようになるんだよ~」


「「へーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 一段落着いたところで、プリンお姉ちゃんがグルミーダを盾で防いでいる姿に、全員の視線が向いた。



「なんか光ってる小さな魔物が増えてねえか?」

「盾で防御だけしてるとどんどん増えてくの。あ、でももう終わるみたいだよ!」



 バリバリバリバリッ



 ペカチョウの電撃で、グルミーダが一網打尽にされた。


 倒れているグルミーダの数は5体かな?

 最近は大体これくらいの数で限界なのだ。むしろ多いくらいですね~。


 ペカチョウが慣れた手つきでグルミーダを回収した。


 護衛のタマねえとレグルスが倒した魔物は、討伐依頼の魔物じゃなかったのでボクがストックした。



「場所移動するよ~」

「ん?これで終わりじゃねえのか?」

「何言ってますか。まだ半分ですよ?今のをもう1回繰り返すのです。ジャーキー作りも、もう1回あるからね~」


「「な、なんだってーーーーーーーーーー!?」」



 ・・・とまあ、弟子たちはもう終わった気になってたみたいだけど、一連の流れをもう一度繰り返したところで今日のお仕事は終了。


 成果はグルミーダ12体とバッファローが1体だった。

 ただ今回は燻製マシーンが3台だったので、ジャーキーは大量にゲットしました!


 グリフォンでネジポイントまで帰って来てから近くの川まで移動し、悪そうなお兄さんとぺち子ねえちゃんも参加しての解体作業が始まった。



「良い具合に脂の乗った美味そうな肉だな!」

「この肉の量にゃら、ジャーキーがいっぱい作れそうにゃね」


「えーとね、残念ながら脂が多い部位はジャーキーに出来ないんだ~。いや出来ないことはないんだけど、脂がくどくてオエッてなるの。だから赤身の部分だけをジャーキーにして、それ以外は焼き肉用ってことにしています!」


「なるほど・・・。まあ焼き肉にしても美味いのならば、脂が多い部位は高級肉としてそのまま売った方がいいな」

「そうそう!肉を貰った後、部屋で焼いて食ったらめっちゃ美味かったにゃ!!」

「私も昨日家族と一緒にステーキにして食べたんだけど、本当に最高だったわ!」


 あ、しまった!まだ悪そうなお兄さんにブロック肉を渡してないんだった。


「あとで悪そうなお兄さんにも肉のブロックを渡すね。解体直後の肉はカチカチだから、一晩寝かせて柔らかくなったヤツだよ」


「おぉ、ありがたく頂戴するぞ!実際に食べてみれば、肉の使い道がハッキリするだろうし」



 何事もなく解体作業が終わったんだけど、今日はレオナねえ達だけで冒険者ギルドに行き、ボクは三人の弟子を連れて我が家へと直行することになった。



「はあ!?俺もクーヤの家に行かなきゃならんのか!」

「当たり前です!ここからの作業は家でやるんだよ。お母さんと一緒に、秘伝のタレの作り方を三人の弟子に伝授するのです!」

「にゃるほど!秘伝のタレこそが最重要にゃね!」

「一般家庭にお邪魔するなんて、生まれて初めての経験なんだが・・・」

「ププッ!ちょっと笑えるかも!!」



 殺し屋みたいなのが家に来たら、お母さんビックリしちゃいそうだな。

 そこでやる内容ってのが、お料理教室なのがクッソ笑えるけど!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る