第282話 黒眼鏡、一般家庭にお邪魔する

 

「「ただいまーーーーーーーーーー!」」



 帰って来る時間が早かったせいか、『誰だろう?』とスリッパをパタパタさせて玄関に出て来たお母さんが、黒眼鏡の死神を見て固まった。



「・・・えーと、クーヤちゃんのお友達かしら~?」


「いや、大きなお友達ってどうなんだ!?あぁ、えーと、クーヤにジャーキーの作り方を教わりに来たんだ。お邪魔させてもらうけど構わないだろうか?」

「ぷぷっ!大きなお友達だって!!」

「お邪魔するにゃ~!」


「あらあら~!ジャーキーを作りたいのね~」


「うん!秘伝のタレの作り方も教えなきゃなので、ボク達だけ早く帰って来たの。いきなり弟子が3人も出来ちゃったから、お母さんも教えるの手伝って!」


「はいは~い♪」



 というわけで、謎の集団がぞろぞろとリビングに入って行った。



「おお、これが一般家庭か・・・」



 部屋を見渡す悪そうなお兄さんと、パンダちゃんの目が合った。



『ブモ?』



「いやいやいやいや!パンダ工房の社長が何でココにいるんだよ!?」

「そこにいるのはパンダ社長じゃないよ?ちょっとだけ似てるけど」

「全然ちょっとじゃねえだろ!まったく同じじゃねえか!」



 バタン


「あははははははははははははははは!!」



 ウサギを抱えながら頭にモルモットを乗せたリリカちゃんが洗面所から出て来て、目の前を通り過ぎて行った。


 ドアを閉めたピンクハムちゃんが、その後ろからトテトテと追いかけて行く。



「・・・・・・・・・・・・・・・」



 そしていつもの位置に陣取ってから、リモコンでテレビのスイッチを入れ、ファミファミを起動させる。今日は久々に『ママッピー』で遊ぶようだ。


 だが彼女も慣れたもの。


 すぐにはスタートせず、タイトル画面のままサンタの袋から『たぬきのマーチ』を取り出し箱を開けた。そしてお菓子を一粒口に入れてからゲームスタート。



 ♪ズンテンテケテケテーテー



「・・・・・・・・・・・・・・・」



 ゲーム画面を見ながら悪そうなお兄さんが固まっている。



「そろそろ始めるよ?」



 声を掛けると、ようやくフリーズが解除された。



「・・・違う」


「なにが?」


 悪そうなお兄さんがこっちを見た。


「こんなの一般家庭じゃねえ!」

「エエエエエッ!?」

「パンダ社長がいる時点で変だとは思ったが、ココは動物王国なのか!?それにピコピコ音が鳴っているアレは一体何だ?間違いなくガキの仕業だろ!!」

「パンダ社長じゃなくて、パンダちゃんだよ!!」

「どっちでもいいわ!!」


 言われてみると、確かに他の家とはちょっとだけ違うかもしれないな。

 ボクも他の家ってほとんど知らないから何とも言えんけど。


 とにかくこのままじゃ話が進まないので、弟子達を台所に連れて行き、お母さんに地下室から野菜をいっぱい持って来てもらった。



「じゃあ秘伝のタレ作りを始めるよ!三人とも包丁を持ってそこに並んで、お母さんの指示通りに野菜を切ってください」


「秘伝のタレって野菜で作られていたのか!!」

「なんかすごく種類が多くない?」

「凄いにゃ!ジャーキーって、にゃんて奥が深いんにゃ!」



 前にハンバーガーを作った時に本格的なソース作りをやったわけだけど、実はその時にあまりソースっぽくないサラサラの醤油みたいなのが完成したことがあって、秘伝のタレはそれをベースに作られているのだ。


 かなり気合を入れて完璧なソースを完成させようとしていたおかげで、使う野菜の種類や量をしっかりとメモってあったのが功を奏しました。


 リナルナ産の香辛料まで使っているので、秘伝のタレってのは名前だけじゃなく、マジで秘伝のタレなのですよ!



 必要な野菜をすべて切り終えたので、鍋にぶち込んで水を入れてから、コトコトと煮込み始めた。



「3時間近く煮詰めるので、その間に肉を切ってもらいます!」


「本格的にも程がある・・・」

「こんなに手間が掛かっていたなんて驚きね!」

「だからあんにゃに美味いんにゃ!ジャーキーを食べただけで真似出来ると思ったら大間違いにゃね!」



 お母さんに、ジャーキーに使える赤身の部位を教えてもらいながら、三人の弟子が地下室から肉のブロックを持って来た。


 そして指示通りの大きさにカットしていく。


 とまあ世間話をしながら色々やっている間に醤油風サラサラソースが完成したので、少しだけ小皿に入れて味見させてから、最後にボクの指示通りに香辛料を追加し、完成した秘伝のタレを味見してもらった。



「美味いな。しかしリナルナの香辛料まで使っていたとは・・・」

「そりゃあ美味しいわよね~、ここまでやってるんだから!」

「あのステーキに秘伝のタレをかけたらメッチャ美味そうにゃね!」


 タレは余るくらいの量があるし、三人に少しプレゼントしてあげようかな。



「次で最後なのよ~♪切ったお肉を秘伝のタレに漬け込むの!」



 ジャーキーのために用意してあった箱に秘伝のタレを流し込み、その上にバッファローの肉を並べていき、さらに秘伝のタレをかけていく。


 それを地下室に持って行き、簡易冷蔵庫で丸一日放置すれば完成だ。


 みんなで台所に戻り、丸一日漬け込んで味を染み込ませた肉を最後に軽く水で洗ってから魔法で乾燥させると説明した。



「そいつを今日やったように燻製にすれば完成というわけだな」

「料理ってココまで手間を掛けるモノなの!?」

「正直ウチもビックリにゃ!でもあの美味さを考えたら、そこまでする価値が十分あるにゃ!」


 ただこれを毎日ってのは結構な地獄だと思うので、どんどんジャーキー職人を増やしていく必要があるでしょうね。後ろで指示を出しているだけなら楽ちんだし!


「一応明日、魔法で肉を乾燥させるところも見せるね!ウチでやるんじゃなくて、あの森に入る前にナナお姉ちゃんにやってもらうから」


「そしてまた灼熱の燻製作りをやるわけか」

「えええええーーーーー!!またアレをやるの!?」

「それがジャーキー職人の宿命にゃ!」


 それで一周したことになるね。あ、もう一つ大事なのがあった!


「あとね、明日は燻製作りに使う木片も作るからね~」


「あーーー、そうか!あの木片も自作する必要があったか」

「アンタ、よくそんな面倒臭いこと一人でやってたわね・・・」

「ジャーキーのためにゃ!やるしかにゃいんにゃ!」



 そういや、ボクは壊れるのを前提にフードプロセッサーを酷使してたけど、ずっと弟子の面倒なんか見てられないし、何か別の手段を考える必要があるのか・・・。

 

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