第278話 悪そうなお兄さんの野望

 一夜明け、ジャーキー大作戦が大規模なモノになるだろうといった理由から、グルミーダ狩りは1日休むことにし、悪そうなお兄さんをライガーさん&ベイダーさんに会わせるためにパンダ工房へと向かった。


 当然のことながら、こんな面白そうなイベントは見逃せないと、レオナねえ、タマねえ、プリンお姉ちゃんもボク達と一緒にパンダ工房へ。


 フロントで合流した、ジャーキー大作戦の中心人物となる予定のぺち子姉ちゃんとラン姉ちゃんも引き連れ、社長室へと入る。



「悪そうなお兄さんを連れて来たよ!」



 彼を連れて来るのは昨日話し合っていたことなので、ライガーさんとベイダーさんは来客用ソファーの向かいの席に座っていた。



「うお!なんか凄いのが来たな!とりあえずそこに座ってくれ」


「ああ」



 悪そうなお兄さんがマッチョ二人の向かいのソファーに腰掛け、ボク達野次馬勢はソファーを取り囲んだ。


 ラン姉ちゃんがお茶を出したところで、ライガーさんが交渉を開始する。



「すでにある程度聞いているだろうが、ジャーキーを製作・販売する為に色々話し合っていたところ、クーヤが『悪そうなお兄さんも商売に絡ませていい?』と言い出したのが事の発端だ。わざわざ西区まで出向いてもらって感謝する!」

貧民街スラムに呼ぶわけにもいかんから、此方から出向くしかあるまいよ。クーヤから聞いてはいたが素晴らしい工房だな!ああ、俺のことは『ガイア』と呼んでくれ」

「話が纏まれば一蓮托生となるわけだから、堅苦しいのも『さん付け』もナシでいこう。俺はパンダ工房の副社長をやっているライガーだ」

「同じく副社長のベイダーだ、宜しく頼む」

「二人とも副社長だと?えーと、社長は此処にいないのか?」


「社長ならそこにいるぞ」



 ライガーさんとベイダーさんがパンダ社長を指差した。



「動物じゃねえか!!」



『ブモ?』



 自分が注目されたことに気付いたパンダ社長が返事をした。



「わはははは!最初は『ベイダー工房』だったんだが、クーヤが『パンダ工房』に改名しやがったんだよ!しかもアレを社長に就任させたんだ」

「今となっては『パンダ』が社長をやっているという噂が広まって、物珍しさから売り上げに大きく貢献しているがな!」

「やっぱりガキの仕業かよ!まさか動物を社長にするとは・・・。相変わらず次から次へと面白いことをポンポン考えつくヤツだな!ちなみにこの死神コートも黒眼鏡もクーヤのアイデアだ」


「「その格好もクーヤの仕業だったのか!!」」



 今度はボクが注目されたので、恥ずかしくてクルっと後ろを向いた。

 でもツッコミの応酬で、いきなり打ち解けた感じですね!



「今回のジャーキーにしてもクーヤが作り始めたのが発端だしな。とはいえガキ絡みの案件は全て良い方向に進んでいるのも事実だ。感謝はしているぞ」

「パンダ工房がここまで大きくなったのもクーヤのおかげだ。その代わり仕事が増えまくって死ぬ思いをしたけどな!しかしまあ、同じ被害者だという事がわかって話しやすくなったな。というわけでそろそろ本題に入ろう」



 よくわからんけど褒められた。苦情も入ったような気がするけど!

 とにかくこうして、ジャーキー大作戦の話し合いが始まった。




 ◇




「なるほど・・・。ウチから欲しいのはパンダ工房の護衛と魔物狩りの人員か。そしてそこにいる二人がクーヤに弟子入りして、ジャーキーの作り方を学ぶと」

「ペチコがジャーキー職人になると言い始めたのが切っ掛けで、だったらジャーキーを製造・販売しようとなったわけだ」

「ペチコってそっちの獣人だよな?前にいきなり襲い掛かって来て、派手に戦った記憶があるんだが?」



 ―――――室内に冷たい空気が流れた。



「あの頃は若かったにゃ。ししょーの友達だって知らにゃかったんにゃ」

「・・・まあそれはいい。だがあまり頭が良いようには見えん。大丈夫なのか?」

「にゃにおう!?」

「もちろん俺達もペチコを信用などしとらん。かなり適当な性格をしているからな。だからお供にランを付けることにした」

「にゃにおう!?」

「巻き添えとか勘弁してほしいんですけど!!」

「なるほど。こっちは頭が良さそうに見えるが、それでも少し心配だな。俺も付いて行ってジャーキーの作り方を知っておくべきか・・・」



 なんか弟子が全員イロモノ過ぎて不安しかない件。



「つーか魔物の強さも知っておいた方がいいから、ガイアが来るのは絶対だろ!ただし狩場を荒らされたくないから秘密厳守だ」


 たしかにレオナねえのおっしゃる通り、自分の目でバッファローを見ておかなきゃダメだよね。


「あー、狩場にも行く必要があったか。よし!何日かお前らに付いて行って、一連の流れを実際に見てから判断するか。秘密も漏らさないと約束しよう」

「俺達も一緒に行けば話が早いのだが、今はちょっと本業の方で手が離せないんだ。とりあえずガイアに任せて構わないか?」

「了解した。ジャーキーの話はその後でまたということにしよう。・・・それとは別に一つ相談があるんだがいいか?」


「相談?」



 悪そうなお兄さんがライガーさん達に相談ですって!?天変地異が起きてしまうじゃないですか!明日猛吹雪になったりしたら嫌なんですけど!!



「黒眼鏡の生産工場に貧民街スラムの住人を十数人雇用したんだが、職に就けない者がまだまだ大勢いる。これを何とかしたいと思っているんだが・・・」



 それを聞いた全員がほっこりした。



「な?良いヤツだろ?」

「良い奴だな」

「うむ。良い奴だ」

「あら?思ったより良い人じゃない!」

「意外と優しいにゃ!」

「見た目は悪そうだけど良い人なのですよ!」

「これは良い黒眼鏡」

「素晴らしい考えだと思います!」



 当然ながら、みんなに良い奴と言われた悪そうなお兄さんは慌てた。



「そうじゃねえ!ウチは貧民街スラム最大の組織だから、少しでも街を良くする責任があるんだよ!そこを勘違いすんな!」


「「良い奴だ!」」


「違うっつってんだろ!!」



 いえ、アナタは間違いなく良い人です!

 

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