第277話 話が大きくなってきました!

 ジャーキーの美味しさにやられたぺち子姉ちゃんが、『一生ついて行くにゃ!』と前にも聞いたセリフを放ったんだけど、今回の彼女は本気の目をしていた。


 しかし無断欠勤させるわけにはいかないので、とりあえずこの場は解散することにして、『また連絡するから』とだけ言い、帰り際に悪そうなお兄さんにジャーキーを一枚持たせた。


 アイリスお姉ちゃんとナナお姉ちゃんの二人は中央区で買い物をして帰る予定だったらしいので、彼女達とはそこでお別れし、残りのメンバー全員でパンダ工房へと向かった。



「クーヤに弟子入りだと?」



 真っ直ぐパンダ工房の社長室まで来たんだけど、今日はベイダーさんもライガーさんも揃っていた。



「ウチはジャーキー職人ににゃるにゃ!」

「ジャーキー職人?」

「何だそりゃ?しかし突然だな・・・」


 ぺち子姉ちゃんって、人に説明する能力が致命的に欠けているんだよな。

 しょうがないから手助けしてあげよう。


「野を越え、山を越え、幾度いくたびの困難を乗り越え、ボクはとうとう『ジャーキー』を完成させたのです!」


 ベイダーさんとライガーさんに、ジャーキーを一枚ずつ手渡した。


「こいつがジャーキーなのか?」

「干し肉だな」

「これはただの干し肉じゃにゃいにゃ!ジャーキーをあんにゃ雑魚と一緒にしてもらったら困るにゃ!」

「お、おう・・・」

「とにかく食ってみるとしよう」



 いつものように食べ方を説明すると、マッチョ二人がクチャクチャとジャーキーを食べ始めた。



「美味い!!」

「おおっ、ただの干し肉じゃないな!こりゃ本当に美味い!」


 ラン姉ちゃんやレオナねえ達も後ろでニヤニヤしながら見てるんだけど、とりあえず口を挟まず成り行きを見守ってる感じですね。


「ふ~~~、実に美味かった!」

「深みのある味わいだったな。ただ肉に味付けをして乾燥させたのではなく、もっと特殊な製法で作られているのではないか?」

「少し辛みを感じたから、香辛料も入っているとみた!」

「それはそうと一体何の肉だったんだ?」


 マッチョ二人がショタに視線を向けた。


「それはまだ内緒です!でもお土産に肉を渡すつもりだったから、自分の目で見て確認してください!」


「お土産だと!?」



 ペカチョウに、包装されたブロック肉を四つ出してもらった。


 ベイダーさん、ライガーさん、ぺち子姉ちゃん、ラン姉ちゃんの四人に、一つずつ渡していく。



「残念ながら従業員全員に渡せるほどの量は無いので、とりあえずお友達限定の大サービスです!すぐ開けて確認していいよ」


「え?私もいいの!?」

「これってデッカイ肉にゃんにゃ!?」

「この重さ・・・、絶対一人分って量じゃないだろ!」

「流石はクーヤだな。お土産の量が半端じゃねえ・・・」


 四人が包装紙を開けて中身を確認する。


「うおおおおお!本当に肉の塊じゃないか!」

「一体何の肉なのか、見てもサッパリ分からん・・・」

「わあ~~~~!家族みんなで食べられる量だ。これは嬉しい!ありがとう!!」

「ジャーキーじゃにゃいけど、同じ肉にゃら絶対美味いハズにゃ!!」


「じゃあヒント!そのお土産は、ココにいる人達とアイリスお姉ちゃんナナお姉ちゃんを加えたメンバーで狩って来た魔物の肉です!」


 ショタのヒントを聞いた二人のマッチョは、それでもピンと来ない様子。


「ムムム・・・、これ程までに美味い魔物なんていたか?」

「美味い魔物と言えば『メメトンゼロ』が有名だが、コイツは俺の知らない魔物のような気がする」


 そこでようやくレオナねえが口を開いた。


「ズバリ言うと、アタシらも初見の魔物だ。肉はこうして食材になったわけだから、魔物の名前も知らん状態だな。そのブロック肉をステーキにして食ったら、マジで美味くて驚くぜ?」


「なるほど・・・。確かにそれほどの肉ならば、ギルドに報告しない方がいいな」

「いい判断だ。素直に報告したとしても、他人に狩場を荒らされるだけで良い事なんて何一つ無いのだから、しばらく独占しておくべきだろう」


 そう言った後、ライガーさんがボク達全員の姿を見渡した。



「それはそうと、少し見ない間に全員の服装が変ってるじゃねえか!」



 遅っ!・・・っていうか、ツッコむ暇が無かっただけか。



「オシャレ装備だぜ!当然アタシらが思い付くわけねーし、クーヤがプリンアラートにドレスアーマーを着せたのが始まりだ!」


「やっぱり犯人はクーヤなのか!」

「相変わらず次から次へと変なことを始めるな・・・」


「はにゃしをジャーキーに戻していいにゃか?」



 お、ぺち子姉ちゃんナイス!話が遠のいて行くとこだった。



「ああ!そういやクーヤに弟子入りするとか言ってたな」

「ウチはジャーキー職人ににゃるんにゃ!」

「うーむ・・・、確かにそのジャーキーとやらは美味かったが・・・」


 ライガーさんが、顎に手を当てて何やら考えている。


「・・・いいかもしれん。なあクーヤ、当然そのジャーキーとやらで商売する気は無いんだろ?」


「無いです!ボクは食べるだけでいいです!」


「やはりか。だがパンダ工房でジャーキーを生産して販売すれば確実に儲かるだろう。もちろんクーヤには特許料を支払う」


 そうなるだろなーとは思ったけど、やっぱりライガーさんが食い付いたか!


「すなわちペチコを解雇するのではなく、ジャーキー職人見習いとして研修に行かせるということか?」

「うむ。だがペチコ一人ではかなり不安だ。ランもお供に付けるか・・・」



「な、なんですってーーーーー!?」



 ラン姉ちゃんが悲鳴をあげたが、マッチョ二人は気にせず会話を続けた。



「しかしペチコが抜けてしまうと、代わりの護衛を見つけなきゃならん」

「ランが抜けるのも正直痛い。だがそれ以上の見返りが期待出来ると思わんか?」

「確かに馬車一本で行くよりも商売の幅が広がるな。しかし魔物を狩るには冒険者を数人確保する必要があるぞ?」


 んーーーーー、それなら一石二鳥の案がありますな。


「ねえねえ!悪そうなお兄さんも商売に絡ませていい?」


 マッチョ二人がこっちを見た。


「悪そうなお兄さんってのは誰のことだ?」


貧民街スラムで1番大きな組織の幹部の人」


「「いや、ダメだろ!!」」


「大丈夫大丈夫!悪そうな顔してるけど、すごく良い人だから!」

「なるほど!ガイアを巻き込めば、問題はすべて解決するな!」

「うん。魔物狩りが出来る人材をすぐ揃えてくれると思うし、パンダ工房の警備にも人を派遣してくれると思う」

「流石は天使様!素晴らしいアイデアです!」

「さすクー」



 貧民街スラムの最大組織がパンダ工房のケツ持ちとなれば、変な揉め事が発生しても何とかしてくれるだろうし、彼らが表舞台に出るチャンス到来でもあるのだ。


 なんか、すごく面白いことになってきましたよ!

 

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