第276話 黒眼鏡を逮捕する

 クーヤちゃんが朝から燻製マシーンの火力調整をし続け、何度もくじけそうになりながらも完成させた大量のジャーキー。


 それを見たお姉ちゃんズの喜び様といったらもう、オシャレ装備を手に入れた時以上でした。色気より食い気なお年頃なのかもしれません。


 前回は数が少なかったので遠慮したと思われるアイリスお姉ちゃんとナナお姉ちゃんとタマねえに家族の分のジャーキーをを持たせても、まだいっぱいストックがある状態にまでなりました!


 これなら知り合いにお裾分けもできますね~。


 でもやっぱり苦労した自分らが最優先なので、人数が半端ないパンダ工房や孤児院に大盤振る舞いってわけにはいかないけど。


 余裕をもってジャーキー200枚のストックができたとしても、今度はもう一枚食べたいって欲求が出るだろうし、今の生産ペースだとちょっと厳しいかな?


 それをするには、弟子をとる必要があるでしょうな。


 しかし今のところバッファローの存在自体がトップシークレットなので、よく知らない人とかはダメですね。


 情報漏れして狩場が荒らされるようなことにでもなったら、悔しさのあまりドラゴンを放牧してしまうかも・・・。



「ん?あれってガイアじゃね?」



 いつものようにグルミーダとバッファローの解体をした後、冒険者ギルドに寄って建物から出たところで、レオナねえが変なモノを発見したようだ。


 彼女の視線を辿ると、黒いコートを着た黒眼鏡が歩いているのが見えた。



「あんな格好をした人物は、この世に一人しか存在しませんぞ!」

「曲者だ!早く捕まえなきゃ!」

「絶対に逃がすな!!」



 ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!



「な、なんだ!?ってお前らかよ!!」



 黒眼鏡を現行犯で逮捕した。

 罪状は・・・えーと、『業務上過失どう見ても不審者だから罪』だ。



「怪しいヤツめ!今何を隠した!!」

「隠しても無駄」

「何も隠してねえよ!しかし相変わらず騒がしい奴らだな・・・」

「こんな所で会うなんて珍しいな。買い物にでも来たのか?」

「ん、まあそんな感じだ」



 当たらずとも遠からずって感じ?お金を下ろしに来たついでに買い物とかかな。

 あ、ちょうどいいや。アレを御馳走してあげよう!


 通行の邪魔になるので、少し場所を変えた。



「悪そうなお兄さんにご報告があります!なんとクーヤちゃんは『ジャーキー』を作ることに成功しました!」

「ジャーキー?何だそりゃ?」

「えーーーーーっ!?ジャーキーを知らない人がまだいたなんて!」

「ガイアは田舎もんなんだ。許してやってくれ」

「なんかムカツクな!俺が田舎もんなら、お前らだって田舎もんじゃねえか!」

「田舎もん同士で喧嘩はやめて!!」


 なぜか悪そうなお兄さんがいると、途端に騒がしくなりますな~。

 ツッコミのキレがいいから、つい構いたくなるんですよね。


 ペカチョウに手提げ鞄を出してもらい、ジャーキーを一枚取り出した。


「これがジャーキーだよ。一枚どうぞ!」


 悪そうなお兄さんにジャーキーを手渡した。


「干し肉・・・だよな?」

「チッチッチ、甘いな!ただの干し肉だと思ったら大間違いだぜ?」

「食べてみればわかるのです。カチカチだから、繊維に沿って細く引き裂いてから食べてみてください!」



 悪そうなお兄さんが、言われた通りにジャーキーを手で引き裂いて口に入れた。



 クチャ クチャ クチャ クチャ



「!?」



 クチャ クチャ クチャ クチャ



 ごくん



「うめえ!!何だこりゃ!?」

「気になる点数は?」

「余裕で200点だろ!しかし何の肉なのかさっぱり分からん・・・」

「おーーーーー!また200点だ!!」

「全員が200点は快挙ですよね~♪」



「あっ!ししょーにゃ!変にゃ黒眼鏡もいるにゃ!」



 ん?


 後ろから知ってる声が聞こえたので振り向くと、そこにいたのは、ぺち子姉ちゃんとラン姉ちゃんだった。


 二人ともハムちゃんを連れてるから、中央区まで買出しにでも来てたのかな?



「ちょっと!少し見ない間に、みんな凄い格好になってない!?」

「あ、ホントにゃ!それより、にゃんかイイ匂いがするにゃ!」


 お!?流石は猫獣人、すぐジャーキーの匂いに気付きましたね。

 そう言えば、パンダ工房の人達はまだオシャレ装備を見ていなかったか。


「とうとうボクは、あの伝説のジャーキーを作ることに成功したのです!ってことで悪そうなお兄さんに食べてもらってたとこなんだけど、いいタイミングで登場したラン姉ちゃんとぺち子姉ちゃんにもあげるね」

「伝説のジャーキーって何よ?そんなの初めて聞いたんだけど!」

「よくわからにゃいけど、流石ししょーにゃ!」



 二人にもジャーキーを手渡し、引き裂いて食べるよう説明した。

 なぜボク達はこんな街の中で試食会をやっているのだろう?



 クチャ クチャ クチャ クチャ



 ジャーキーを噛みしめていたラン姉ちゃんの目が大きく開いた。

 ぺち子姉ちゃんなんて目が血走ってませんかね!?



 クチャ クチャ クチャ クチャ



 ごくん



「なにこれ!メチャクチャ美味しい!!確かにコレは伝説かも!?」



 思った通りラン姉ちゃんは大喜びだ。しかし『もう一人の反応が無いぞ?』と、全員の視線がぺち子姉ちゃんに集まった。



 ―――――彼女は震えながら大粒の涙を流していた。



「神はココにいたにゃ・・・」



「「いや、神様は食っちゃダメだろ!」」



 思わず全員がツッコんだ。



「しかしコイツぁマジでうめーな」

「何の肉にどんな味付けをしたのか全然分からないけど、作るのに絶対手間暇かかってるよね?本当に癖になる美味しさだわ!」

「一応ナナとかウチの家族とかも協力はしてるけど、ほとんどクーヤが一人で作ったようなもんだ。かなり手間が掛かってるのは間違いねえな」

「私達も手伝えたらいいんだけど、今はまだちょっとね~」


 グルミーダ狩りが本命なのであって、ジャーキー作りはボクが暇だったから勝手に始めたことだしな~。本命の方を後回しにするわけにはいきません。


「ししょー!もう一枚食べたいにゃ!」


 ぺち子姉ちゃん、もう食べ終わったのか。


「ん~~~、もう一枚だけだよ?まだ食べてない人にもご馳走してあげたいから」

「にゃんですと!?あと一枚で終わりにゃか!?」

「ジャーキーは作るのに時間が掛かるし、肉を手に入れるのも大変だし、しかも干し肉にするとペッタンコになっちゃうからね~。ばら撒けるほど大量に作れないの」

「そ、そんにゃあ~~~~~~~~~~」



 本当にショックだったようで、ぺち子姉ちゃんの猫耳がへにゃっとなった。



「そんなに食いたいのなら、クーヤに弟子入りするしかねーな!」



 レオナねえのその一言に、ぺち子姉ちゃんの猫耳がピンと跳ね上がった。



「ししょーーーーー!一生ついて行くにゃ!!」

「いや、それだけは勘弁して下さい」

「一生は長すぎ。3日くらいでいい」

「じゃあ、・・・やっぱり一生ついて行くにゃ!!」


「「なにィ!?」」



 なんか前にもやったやり取りだけど、3日で妥協しないほど彼女は本気らしい。

 変な猫が弟子入りしそうな雰囲気だけど、パンダ工房の仕事はどうするのさ!?

 

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