第275話 ボクが一番忙しくないですかね!?

 翌日。


 忙しい1日になると思ったんだけど、仕込んだ肉は全部使い切ってしまっていたので、燻製職人としての仕事はお休みだった。


 というわけで狩りの出発時間を少し遅らせてもらって、ボクは秘伝のタレの大量生産に勤しんだ。


 これが完成してないと、お母さんとクリスお姉ちゃんがどれだけ肉を切ったところで、タレに漬け込むことが出来ないのだ。


 漬け込むのが夕食後からとかになってしまうと、1日かけてしっかり味を染み込ませると決めているので、ジャーキーの完成がそれだけ遅れてしまうのですよ。


 しかし、秘伝のタレを作るのに使った材料や分量はメモってあるんだけど、ジャーキーの大量生産となるとそう簡単にはいかなかった。


 焼き肉用として作った秘伝のタレは問題ないんだけど、ジャーキーの仕込み用として調整した時は咄嗟の思い付きだったものだから、自分のセンスを信じて香辛料をパパっと振りかけてしまったんだよね~。


 あの頃はまだ若かったから、ジャーキー職人としての覚悟が足りなかったのかもしれません。でも今日はしっかり分量をメモりながら『秘伝のタレ(ジャーキー用)』を完成させたので、次回からは苦労せずにサッと作れるハズです!


 というわけで完成したタレをお母さん達に託し、漬け込む時は切った肉の表裏全体に味を染み込ませるようお願いしてから、グルミーダの森へと出発しました。



「魔法で木を粉々にするのはちょっと難しいかも・・・。風の刃を何度もぶつけるのは非効率だと思うし、岩で圧し潰すにしても粉々まではいかない気がする」


 なるほど~。魔法なら楽勝なのかもって思ったんだけど、『粉々にする』となると意外と難しいのか。


「アタシが枝で岩を殴り続けたとしても、粉々まではいかねーだろな」

「割るとか切るとかなら、みんな得意なんだけどね~」

「そっか~。じゃあやっぱりフードプロセッサーでやってみるですよ。ナナお姉ちゃんは木の枝の乾燥だけお願いします!」

「今回は枝がいっぱいあるから、少し時間掛かるかも~」

「最初にスモークチップをいっぱい作っておけば、次回から楽が出来るのです!」



 とりあえずフードプロセッサーで適当にやってみようってことで、ナナお姉ちゃんに木の枝を何本も乾燥してもらいました。


 忙しいのもあって木の枝を使ってるけど、木の幹でスモークチップを作った方が良い香りが付くらしいから、余裕があったら本格的なのを作りたいですね。


 でもたしかスモークチップって、炭を使わないとすぐに火が消えてしまう弱点があったハズなので、そこは超粗挽きの木っ端を混ぜたりして、火がずっと燻ぶってる状態を維持させる配合技を編み出さなきゃだな~。


 あれ?思えばかなり昔に、アイテム召喚でノコギリを手に入れた気がするぞ?


 いや、手動じゃ大変すぎるか。グルミーダ狩りもあるから、レオナねえにギコギコさせてる暇も無いしな~。


 まあとにかく、今出来ることをがんばります!




 ◇




 うん、メチャクチャ大変でした!!

 何度くじけそうになったことだろう・・・。


 フードプロセッサーを破壊すること十数回。風ハムちゃんに木の枝を裂いてもらったりしながら、フードプロセッサーが壊れずに済む大きさを見極め、おがくず状態のモノやら超粗挽きの木っ端やらと、ごちゃ混ぜの木屑を大量にゲット!


 地獄作業過ぎて、正直こんなこと二度とやりたくないです。

 グルミーダ狩りをしているみんなよりも、ボクの方が絶対忙しかったと思う!


 おがくずを集めてスモークウッドを作るって手もあるけど、片栗粉みたいなので固めて型に流し込んで乾燥させたりと、アレはアレで作るのが大変だろうからなあ。


 一生ジャーキー職人をやるってんなら頑張るけど、そこまでの情熱は無いです。


 フム、弟子をとってジャーキー職人として商売させるのもアリかもしれんな。

 でも確実に儲かる商売だから信頼出来る人じゃないとダメか・・・。


 パンダ工房のマッチョや孤児院の年長者とかがいいのかな?でも動き始めると大きいプロジェクトになりそうだから、こういうのはやっぱライガーさんに相談だな。


 まあいつかは誰かに丸投げするけど、とりあえず今は自分達のジャーキーだ!


 ショタが木の枝と格闘している間にも仲間達は狩りを頑張っていて、グルミーダ14体とバッファロー1体をゲットしました。


 最初は結構な数のグルミーダを狩ることが出来たのに、どうやらアレは初回サービスだったみたいです。


 まあそれでも、もう少しで全員分の肘まで手袋が作れるようになるので、そこから先はバッファロー狩りの方にもう少し時間が割けるようになるのかな?


 いや・・・、みんな太ももに革を巻き付けているだけだったりと、結構防御力に不安がある状態だから、この機会にしっかり防御力を上げておくべきだろな。


 バッファロー騒動の前に、元々はそっちがメインだったからね~。


 ちなみに討伐依頼を受けた魔物はそのままギルドに丸投げしています。むしろ丸ごと提出した方がいい収入になるんだってさ。


 今までは持ち帰るのが大変だから解体してたのであって、ハムちゃんがいれば、重いからと泣く泣く放棄していた部位も持ち帰ることが出来るようになったわけです。



 家に帰ってお母さんとクリスお姉ちゃんに『肉はどうなったの?』と聞くと、赤身の部分はすべてジャーキー用として秘伝のタレに漬け込んだとのこと。


 冷蔵庫に入りきらなかったので、地下室に簡易冷蔵庫を作ってそこに置いてあるらしい。冷蔵庫ハムちゃんの氷魔法で囲んであるみたいだから肉は大丈夫でしょう!


 ボク達も冒険者ギルドからの帰り道で『燻製マシーン2号』を買って来たので、後はクーヤちゃんの頑張り次第ですな・・・。




 ◇




 狩りメンバー、そして家族全員の期待を一身に背負い、大量の肉の切り身と共にやって来ましたグルミーダの森。


 朝はちょっと忙しくて無理だったので、錆びたスプーンを埋めたポイントまで来たところで、家から持って来た水で肉の切り身を洗いながら、ナナお姉ちゃんの魔法で乾燥してもらった。


 そして前回と同じように、プリンお姉ちゃんがグルミーダを盾で弾き返したのを見てから燻製職人の戦いが始まる。



 やはり粉状態のスモークチップでは火が消えてしまうので、多めに買って来た炭の力を借りて、炎が上がらず火が燻ぶるように、投入する木屑の大きさを調整しながら、最適な配合を探し出す。


 2台の燻製マシーンを操るのが大変過ぎて、『ボクは剣と魔法の世界で、なぜ燻製職人をやっているのだろう?』という疑問が湧いてきたが、みんなの笑顔を思い浮かべながら自分を叱咤激励し、最後まで燻製作りをやり遂げた。


 次からはもっと上手にやれると思う。

 クーヤちゃんの燻製職人としての戦いは、まだ始まったばかりなのです!



「「ジャーキーうまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 なんて眩しい笑顔なんだろう・・・。

 この笑顔を守るため、ボクはジャーキーを作り続けるのだ。


 あ、そろそろ悪そうなお兄さんにもご馳走してあげようかな?

 

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