第273話 ジャーキー職人

 昨日は雨が降っていたので、グルミーダ狩りはお休みでした。


 でも今日は朝起きると快晴だったので、朝からティアナ姉ちゃんに肉を乾燥してもらってから、準備万端でグルミーダの森までやって来ました!


 秘伝のタレに浸してあったバッファロー肉は、ちゃんと水洗いしてから乾燥させたので、食べる時に手がベタベタしないハズ。



「これくらいあれば十分かな?」

「たぶん余るくらいです!」



 この世界にも燻製はあるので、街で燻製マシーンを買って来たんだけど、燻製に適した木ってのがあるので、森に入ったところでその木を探し、枝を何本か折ってナナお姉ちゃんの魔法で乾燥してもらいました。


 この乾燥魔法ってすごく便利だな~。


 でもウチのハムちゃんは火力に命を懸けてるから、こういう繊細な魔法は使えないでしょうな。これに関してはナナお姉ちゃんの圧勝です!


 技の多彩さでは人間に適わないってことですね~。とはいえナナお姉ちゃんはハム水を出すことができないので、ハムちゃんはハムちゃんで奥が深いのだ。


 とにかくこれで準備は整いました!


 みんなが狩りをしている間って、ぶっちゃけものすごく暇なので、ボクは燻製職人をがんばりますよ!


 当然みんなに何を作るのか聞かれたけど、『ビーフジャーキーを作るのです!』と言ったら頭に『?』をいっぱい浮かべていました。まあ食べてみてのお楽しみってことで!



 いつものように二手に分かれて森を進み、プリンお姉ちゃんが盾でグルミーダを弾き返したところで燻製作りを開始。


 燻製マシーンの上の段に乾燥した肉を並べていき、一番下に乾燥した木の枝をセット。火の魔法が使えるハムちゃんに火を点けてもらった。


 あとは蓋を閉めて2時間くらい待つだけです。スモークウッドとかじゃないから、定期的に火が消えてないか確認しなきゃだけどね。



 ―――――そして苦節の2時間が経過。



 乾燥させただけの枝では火力調整が思ったようにいかず、風ハムちゃんに枝を切り刻んでもらったりと試行錯誤しながらも、何とか最後までやり遂げました!


 次からはもっと上手くやれると思うけど、いや~本当に大変だったな。スモークウッドとかスモークチップなんかを作ったほうがいいのかもしれない。


 よし、さっそく食べてみよう!上手くいってるといいんだけど・・・。


 ショタのパワーだとビーフジャーキーを引き裂くのも一苦労だ。

 しかしめっちゃ良い匂いがしますぞ!



 パクッ!


 クチャ クチャ クチャ



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 クチャ クチャ クチャ


 ごくん。



「うんまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 ショタの魂の叫びに、タマねえがこっちを見た。



「良い匂いがする!クーヤ何食べてるの?」


「ビーフジャーキーが完成したのです!でもこれはただの試食だから、狩りが終わってからみんなに御馳走するね!」


「ん、わかった」



 今のやり方でイケるということが判明したので、燻製マシーンにビーフジャーキー第二陣をセットした。




 ◇




 そしていつものように日本時間の午後2時くらいで狩りを終了し、グルミーダの森の入り口まで戻って来た。



「とっととドラ、いや、ネジポイントに帰って解体すっか~」


 普段から気を付けてないと誰に聞かれているかわからないから、あの場所はやっぱり『ネジポイント』と呼ぶことにしたのだ。


 っていうか、今こそジャーキーの出番でしょ!


「その前にご報告があります!クーヤちゃんがとうとうビーフジャーキーを完成させました!」


 その言葉に、全員がショタに注目した。


「あ~、朝言ってたヤツか?」

「帰る前に、みんなにご馳走するのです!」

「あの良い匂いがするヤツだ!」


 ペカチョウにビーフジャーキーを出してもらった。


「ん?それって、干し肉・・・だよな?」

「干し肉に見えますね。でも何だかすごく良い匂いがしません?」

「たしかに干し肉で半分正解ですが、これはビーフジャーキーなのです」


 みんなに一枚ずつビーフジャーキーを手渡した。

 ちなみに今回は食べ応えを重視したので、少し厚みのあるジャーキーです。


「カチカチなので、繊維に沿って引き裂いて、少しずつ食べてみてください!」


 手本を見せると、全員がショタの動きをトレースするように、ビーフジャーキーを細く裂いてから口に入れた。



 クチャ クチャ クチャ クチャ



 そして肉を噛みしめていたみんなの表情が変わった。



 クチャ クチャ クチャ クチャ



「うっま!!」

「何これ!めちゃくちゃ美味しくない??」

「噛めば噛むほど美味しくなっていくよ!!」

「凄いですねコレ・・・。深くて複雑でとても癖になる味です!」

「クーヤ、これすごく好きかも!!」



 作った自分で言うのもなんだけどさ、マジでこれ最強じゃない?あのバッファロー自体が激うまだから、ジャーキーのレベルもワンランク上なのだ。



「えーと、何点くらいでしょうか?」



「「200点!!」」



 よっしゃ!満場一致の200点きましたーーーーー!!



「コレって昨日食ったバッファローの肉だよな?」

「そうだよ」


 まだあの魔物の名前は判明してないんだけど、ショタがそう呼んでるので、みんなアイツをバッファローと呼んでます。


「やっぱりそうか!あのステーキも最強だったけど、コイツは食事時以外でも気軽に食えるのがいいな。しかもメチャうまだ!こんなの量産するしねえだろ!!」

「でもね、赤身のとこじゃないとダメなの。脂身が多いと、乾燥させても白い脂の塊が残って食べても美味しくないし、たぶん腐りやすくなるし、食べる時にも油で手がベトベトになっちゃうんじゃないかなあ?」


 ボクもそこまで詳しくはないんだけど、赤身が最適だってのは、昔ビーフジャーキーを作った時に調べたから知ってるのだ。


「へーーーーー!そういや干し肉って脂身がねえもんな。なるほど・・・そういうちゃんとした理由があったのか!」

「クーヤちゃんがやたらと干し肉に詳しい件」

「なんでそんなことまで知ってるんだろ・・・」

「天使様ってこんなに小さいのに教養がありますよね~」

「クーヤは脂身かわいい」


 ぶッ!脂身かわいいってなんじゃい!!丸々と太ってるみたいに言うなし!!

 むしろ少食だからちょっと痩せ気味なくらいなのに。


「でも逆にいいかもしれねえぞ?ステーキにして食うなら脂の乗ってる部位の方が美味いじゃん。だから脂身の多い方を焼き肉用にしてさ、赤身を全部ジャーキー?にしちまえば完璧だろ!」


 クチャ クチャ クチャ


「いいね!やっぱコレすごく美味しいもん!大量生産するべきだよ」

「干したらペッタンコになるから、思ったより少なくなっちゃうけどね~」

「それはしょうがないよ~」

「私もビーフジャキー?にするのは大賛成です!」

「えーと『ビーフジャーキー』って名前なんだけど、少し長いから『ジャーキー』でいいよ!」


 言うほど『ビーフ』じゃないしな。バッファロー風のナニカだし。


「ジャーキー美味しい!チョコと同じくらい好き!」

「じゃあ決まりだな!今日手に入れたバッファロー肉の赤身は全部クーヤに渡して、『ジャーキー』を作ってもらうってことでいいな?」


「「異議なし!」」



 というわけで、狩りの間一人だけ退屈だったクーヤちゃんは、『ジャーキー職人』になることが決定しました!


 みんな喜んでくれるからやり甲斐はあるけど、地味に大変かもです。

 

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