第254話 黒眼鏡は何度でも驚愕する

 あひるポンチョアーマーを泣く泣く断念したショタ以外のメンバー全員がフル装備したことで、華やかさが天元突破したまま一行は店の外に出た。



「うおっ!!」

「何あれ?この街の冒険者?」

「嘘!あんな派手な恰好をした冒険者なんて初めて見た!」

「あの黒い人、背中に炎の絵が描いてあるぞ!カッケーーーーー!!」

「それよりも銀髪の人が凄くない?ドレスの鎧だよ!すごく綺麗~~~!」

「緑の服が可愛い!いいな~アレ欲しい!」



 道を挟んだ向こう側から話し声が聞こえてきた。

 お姉ちゃんズを見てすごく驚いたらしく、大声で話をしているから丸聞こえだ。


 見たところ少年少女って感じだから、学校帰りの中高生かな?

 もしかしたら、ティアナ姉ちゃんの同級生だったりするのかもしれないね。


 これは間違いなく学校で噂になりますぞ~。

 レオナねえの格好にキュピンときた人は中二病予備軍だから気を付けろ!


 話し声はお姉ちゃん達にも聞こえたようで、みんな口端が上がってます。



「一瞬で街中に知れ渡りそうですね。トナカイ6号まで召喚!」



 もう少し学生達に見せびらかしたいだろうけど、悪そうなお兄さんが待ってるから今日は遊んでる暇が無いのです。



「うわっ!馬がいっぱい出てきた!!」

「エエエエーーーーー!?どこから出てきたの?」

「テイマー?でもなんかあの馬、すごい角が生えてるけど・・・」

「いや、何も無いところから突然出てきたよな?」

「も、もしかして全部召喚サモンしたの!?」

「6体も!?この街にそんな凄腕の召喚士がいたんだ!!」

「でもマッチョがいないぞ?」



 今度はボクの召喚魔法に驚いてくれたので、ニヤニヤしそうになるのを我慢しながらトナカイに跨ったけど、みんなと同じように口端が上がってたかも!


 ボク達一行は、『騒がれ慣れてますので』といった顔でクールに立ち去った。




 ◇




「もうダメだ・・・。こうも注目されるとニヤけ顔が我慢できねえ!」

「我慢しなさい!平然としてなきゃ逆に格好悪くなるよ」

「ずっと見られてる中で平然を装うのって難しいよ!」

「注目されるの初めてだから、タマも我慢できない」

「ちょっと恥ずかしいですね!でもこれからずっとですから慣れないと・・・」

「この調子で目立って、服の売り上げに貢献して下さい!」



 歩く広告塔のおかげで、荒稼ぎのチャンス到来だーーーーー!

 でもまだ、売りに出す服の生産が追いついてないんですけどね。


 そうこうしている間にボク達は中央区を抜け、貧民街スラムに到着した。


 早速、入口の門に寄り掛かってる黒眼鏡を発見!

 たぶん結構前からココで待ってたんだと思うけど・・・、あ、こっちに気付いた!



「な、んだと・・・!?」



 レオナねえ達を見た悪そうなお兄さんが、口をあんぐりと開けた。

 でも安心して下さい。アナタもすぐ仲間入りしますから!



「よう!注文の品を届けに来たぜ!」

「いやいやいやいやいやいや!お前ら変わり過ぎだろ!!マジかよ・・・」

「凄いでしょ?これがオシャレ装備だよ!」

「あっ!よく見たらガイアさんも黒いズボンに黒いブーツだ!これならコートに合うんじゃない?」

「結構迷ったんだけどな。間違い無さそうな服を選んだつもりだ」

「レオナねえと同じ方向性だから、合わないわけがないです」


 レオナねえが、シェミールから預かっていた紙袋を悪そうなお兄さんに渡した。


「おお、なかなかの重量感だな!これは期待出来そうだ」


 ガサッ


 紙袋の中から死神コートを取り出した悪そうなお兄さんの口端が上がった。


「ヤバ過ぎだろこれ!!想像してた以上に格好良いぞ!!」

「アタシも今初めて見たけど、コイツぁマジでヤベーな!」

「うはっ!着る前から威圧感が半端ないね!」

「クリスお姉さん、本気出し過ぎだよ!!」


 本当に凄いなコレ!あえて暗い色の糸を使って死神を描いているので、受ける印象は派手さではなく、心に染み渡るような深さなのだ。


 ずっと鑑賞していてもしゃーないので、意を決した黒眼鏡がコートを纏った。



「「おおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!」」



 うん、何というか・・・。

 黒眼鏡を付けているのもあって、中二病というよりは殺し屋ですねコレ。


 ただ着ている本人には他人からどんな風に見えているか分からないと思うので、ペカチョウを呼び出してスタンドミラーを出した。


 アイテム召喚で1週間くらい前にゲットしたんだけど、150cmあるキャスター付きのヤツなので、これには家族全員が大喜びしてました!



「悪そうなお兄さん、鏡を出したよ!」

「お?マジか!!って、何だこの高級感極まりない鏡は・・・」

「そうそう!これスゲーだろ?例のアイテム召喚で最近出たんだよ!」

「ほう、こりゃ本当に大当たりだな!」



 そう言いながら鏡の前に立った殺し屋が固まった。



「こ、これは!」



 ボクから見たら殺し屋なんだけど、アウトロー目線だとカッコイイだろうな~。



「・・・暗くてよく見えん」



 全員ズッコケた。



「しゃーねえ。黒眼鏡は一旦外すか」



 黒眼鏡を外した悪そうなお兄さんがニヤリと笑った。

 そして後ろ向いて背中の死神を確認する。


 よし、自分の姿に夢中になってる今がチャンスだ!



「コレを作った職人って天才だろ!?死神がパーフェクト過ぎんぜ!」

「たぶん作ったのはアタシの姉貴だぞ」

「マジかよ!?レオナの姉貴って天才だったのか・・・」

「ん~、まあ一種の天才なんだろな。クーヤが出したオシャレ本が大きな転機になったとはいえ、シェミールをこの街一番の服屋に成長させたわけだし」

「やっぱりそのガキも一枚絡んでやがったか」


 そう言いながら、また正面を向いた。


「しかし黒い服に黒いブーツで来たのは英断だったな!死神コートにピッタリだろ。クーヤ、最強の服をデザインしてくれて本当に感謝するぞ!」

「気に入ってくれて良かったです!でも頼まれてた服はもう一着あるよ?ハイ!」

「あーそうだったな!」


 次の紙袋を受け取ろうとした悪そうなお兄さんが『ブホッ!』っと噴き出した。


「オイ!!なんでいきなりハゲてんだよ!!」

「最近よくハゲるようになりました」

「確かにしょっちゅうハゲてるな」

「クーヤがまたハゲてる」


 悪そうなお兄さんに、紙袋じゃなくてハゲヅラを取られた。


「ハゲのカツラかよ!!こんな物まで持ってるとは・・・」

「そっちじゃなくてこっちの紙袋でしょうが!」


 紙袋を渡してハゲヅラを取り返した。

 彼はショタをジト目で見た後、紙袋から革ジャンを取り出す。


「おおーーーーー!こっちも格好良いな!!ちょっとコートを預かってくれ」


 レオナねえに死神コートを渡してから、悪そうなお兄さんが革ジャンに着替えた。 


「全然アリだ!こっちも俺の予備にしたいくらいだぞ!」

「へーーーーー!思った以上にカッケーじゃん!」

「私の趣味じゃないけど、貧民街スラムで流行しそうな感じだね~」

「みんなコレを着てたら怖いんですけど!!」

「悪くない!」

「でも、どちらかと言えば悪者が喜びそうな服ですよね?」



 うん、『悪そうなお兄さん』から『すごく悪そうなお兄さん』に進化したね。

 なんか貧民街スラムの治安がさらに悪くなりそうな予感が・・・。


 またボク何かやっちゃいました?

 

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