第238話 裏切り

 我が家の庭で、プリンお姉ちゃんが真剣な表情で剣を上段に構えた。


 

 ビュンッ!



 大きな風切り音が鳴り響き、それだけで女騎士の剣速が相当なモノだということがわかる。



「よしッ!剣を落とさなかった!!」



 シャッ ビュン ボヒュッ シュシュッ ブン! 



「よしッ、よしッ、よしッ!」

「もうバッチシだろ!よくそこまで回復したな~」

「女神の湯、そして天使様とタマちゃんのおかげです!」



 プリンお姉ちゃんが、ボク達に向かって深々と頭を下げた。



「毎日続けて良かったー!やっぱり女神の湯って、凄い効果があったんだね~」

「もう湯治は終了?」


「いえ、剣は振れるようになりましたが、完全に治ったわけではないので、湯治はもう少しだけ続けたいと思っています」


「ボクもまだ続けた方ががいいと思う。少しでも違和感があるのにやめちゃったら、何かあった時に絶対後悔すると思うし」

「じゃあ今日も丸洗い頑張る!」


「あ、いや、湯治は続けますけど、もう丸洗いはしなくても大丈夫です!!たぶん自分で身体を洗えると思いますので・・・」


 剣が振れるくらいだしね~。

 背中を洗うのに苦労するかもしれないけど、あとはもう普通に洗えるかな?



「ところで前から気になってたんだが、どうして『丸洗い』って言い方をするんだ?それって普通に身体を洗うのと何か違いがあるのか?」



 今の会話を隣で聞いていたレオナねえが、『丸洗い』って単語に反応した。

 これはもしかして、丸洗い師への挑戦でしょうか?



「お客様の潜在意識を汲み取り、普段自分がやってる洗い方の更にもう一段階上位の洗い方をプロの手によって施すのが『丸洗い』で御座います」

「その辺の雑魚と一緒にしないでほしい」


「ほう、自らプロと言い張るからには相当自信があるということか・・・。決めた!今日の湯治にはアタシも参加するぞ!その『丸洗い』とやらを試してやる」


 レオナねえの一言に真っ先に反応したのはプリンお姉ちゃんだった。


「ええええええええええええ!?や、やめた方がいいと思いますよ!クリスティーネさんも危険だって言ってましたし・・・」

「なにィ!?クリスねえも体験済みだったのか!!」

「確かドレスアーマーを注文しに行った日だったと思います」


 あああーーー!そうだ、忘れてた!!


「そう言えば、ドレスアーマーが完成したって昨日言ってたよね!?剣が振れるようになったんだし、『シェミール』まで受け取りに行こうよ!」

「あっ、言ってた!」


 それを聞いたプリンお姉ちゃんが、ぱあっと笑顔になった。


「行きましょう!」

「あ、そういやなんか言ってたなーーーーー!アタシもついて行くかな?」


「じゃあみんなで行こう!」



 というわけで、野次馬レオナねえも一緒に行くことになりました。






 ************************************************************






 ―――――『シェミール』を見上げる。



 額から汗が一滴ツツーッと垂れた。


 なんという禍々しいオーラを放っているのだろう・・・。

 この中に一歩足を踏み入れた途端、魑魅魍魎ちみもうりょうが一斉に襲い掛かって来るのだ。



「クーヤ、いつまでそうしてるの?」

「前回もそこで難しい顔をしていましたよね!?」

「店の前で立ち止まって何やってんだよ?とっとと中に入るぞ!」

「レオナねえには、この禍々しさがわからないのですか!!」

「何言ってんだこいつ。ただの服屋じゃねえか」

「わかってないのはレオナねえの方。クーヤにとって『シェミール』は魔境」

「魔境だあ?」



 しかしここで悩んでいてもしょうがないのは事実だ。

 話し合いの結果、フォーメーションCで行くことに決定した。



 ガチャン



「「いらっしゃいませ~!」」



 レオナねえの後ろにピッタリ貼り付いたまま店内に侵入。


 クーヤちゃんの左にタマねえ、右にプリンお姉ちゃんを置き、これによって店員さんがショタの姿を見つけ出すのは完全に不可能となった。


 しかし予想通り、店員さんはエミリーお姉ちゃんだったか・・・。



「クリスねえいる?」

「あっ、レオナちゃんじゃない!」

「レオナちゃん言うなし!もう学生じゃねえんだから」

「それにしても適当な服装ねえ?もっとお洒落しなさいよ」

「アタシはいいんだよこれで!」



 おいチミ達、ナニ話し込んでいるのかね!ここは危険なんだって!!

 早く話を進めろと、レオナねえのお尻をポコポコ叩いた。



「うおっ!おいクーヤ!アタシのケツを叩くんじゃねえ!!」


「・・・クーヤ?」



 ―――――エミリーお姉ちゃんが目を細めてこっちを見ている。



「あーーーーーーーーーーっ!クーヤちゃんが隠れてた!!」


 ヒョイッ


「「あっ!」」


 前回と同じくエミリーお姉ちゃんに抱きかかえられ、盛大にぺろぺろされた。



「あそこを見て!」

「この前の可愛い子じゃないの!」

「行くわよッ!!」



 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!



「き、き、き、来たあああああああッッッ!タマねえ!プリンお姉ちゃん!」



 我が義姉、『関羽』と『張飛』が群れの前に立ち塞がる。



「「うわーーーーー!」」



 案の定、関羽と張飛は一瞬にしてマダムの群れに飲まれて視界から消えた。



 だがしかし!今日は『趙雲』も連れて来ているのだ!

 いや、あんまり趙雲っぽくないな。どちらかと言えば『呂布』かな?



「レオナねえ!」



 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!



「いや無理だろコレ」



 ヒョイッ


 レオナねえがエミリーお姉ちゃんからショタを奪い、マダム達に献上した。



「呂布め、裏切りおったーーーーーーーーーーーーーーー!!」




 ―――――それから1時間もの間、ショタはマダム達にぺろぺろされ続けた。




 レオナねえなんて連れて来るんじゃなかった!!

 

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