第232話 とうとうマッチョ達も三種の神器と対面する

 すでにいつでも飛び立つ準備が出来ていたボクとレオナねえは、呼吸をシンクロさせて同時に飛び立つようなこともせず、バラバラに空へ舞い上がった。



 バサッ バサッ バサッ バサッ バサッ



「メチャメチャ乗りやすい!!」


「うっひょーーーーーーーーーー!鞍があると全然違うな!!」



 今までの苦労は何だったの?ってくらいの快適な乗り心地に、心の底から感動しましたですよ!


 落ちる心配が無いからリラックスして乗っていられるので、手も足も腰も首も全然疲れないのだ。


 操縦士がリラックスすることでグリフォンの飛行も安定し、彼らの持つポテンシャルを最大限発揮出来るようになったと言ってもいいだろう。


 鞍によって状況がかなり変化してしまったので、ボク以外の人達も一人で操縦出来るように、飛びながらグリフォンと相談して、進路変更や高度の上げ下げなどの合図を色々と決め直した。


 ボクはテレパシー的な何かで伝えられるんだけど、他のみんなには乗り手の意思を伝えるための合図が必要なんですよね。


 というわけで、レオナねえのグリフォンに資材置き場に戻るようテレパシー的な何かで命令し、一緒に最初の位置まで戻って来た。



「・・・って感じで、グリフォンと相談して合図を決めました!」


「そいつは話が早くて助かる!あとでクーヤに頼もうと思っていたんだ」

「なるほど。シャンクルと違って空を飛ぶから、高度を上げ下げする合図なんかも必要なわけか」

「今まで全部クーヤちゃんの命令で動いてくれていたけど、グリフォンへの伝達方法があれば、私一人で自由に空を飛び回ったり出来るようになるんだね~」

「タマは毛の引っ張り方で意思を伝えてたけど、こっちの方が簡単!」

「ありがたい!グリフォンの首をポンと叩いて方向転換は何とか伝えられたが、着陸命令を伝えるのにずっと苦労してたんだよ!」


 もっと早く決めておくんだったーーーーー!

 気が利かないばっかりに、ライガーさん達に変な苦労をさせてしまった。


「あ、そうだ。やっぱりプリンお姉ちゃんの鞍の調整もお願いしていい?怪我が治るまで飛べないけど、鞍の準備だけでもしておけばいつでも飛べるよね」

「私、もですか!?」

「もちろん構わんぞ」


 今、『私も飛ぶのですか!?』って言いかけたと思うんだけど、口裏を合わせてあったので堪えてくれた。


 セルパト連邦からグリフォンで飛んで来たことになっているので、ライガーさん達の前で迂闊なことは言えないのだ。



 そしてプリンお姉ちゃんの鞍の調整をしながら全員が空を飛び回り、グリフォンの鞍の出来栄えに満足して帰って来た。


 取り決めた合図を試すために、ライガーさんとベイダーさんもグリフォン10号に乗って空を舞い、自由自在に操れたことに感動していました!




 ◇




 テスト飛行が終わって工房の中に帰って来ると、なぜかラン姉ちゃんが綺麗な土下座をしていた。



「クーヤ様、あの時計を返して頂けないでしょうか?」

「いや、そこまでしなくてもよい。おもてを上げい」

「ハハーーーッ!」


 ラン姉ちゃんと謎の殿様ごっこをした後、レオナねえに頼んで時計を付け替えてもらった。


「良かったーーー!従業員が通るたびに苦情がきて大変だったのよ!」

「ってことは、もうすでにパンダ工房全体にあの時計の良さが認知された!?」

「どうだろう?半分くらいじゃない?」

「まだ1週間ちょいで半分なら大成功じゃねえか?」

「だね!!」

「ねえねえ!あの時計ってどこに売ってるの?私の家にも一つ欲しいんだけど!」

「残念ながらまだ非売品なのです」

「エーーーーーーーーーーーーーー!!」

「でもラン姉ちゃんの土下座がとても見事だったので、時計屋さんに頼んで作ってもらってあげるよ!」

「やった!!」


 よし、時計信者を一人ゲットや!


「ちょっと待て!それなら社長室に置く分も頼んでいいか?」

「俺も一つ欲しいぞ。いくらで買える?」

「えええ!?ベイダーさん達もあの時計が気に入ってたのか!」

「最初は意味不明だったのだが、慣れてくるとこっちの時計の方が楽なんだ。パッと一瞥しただけで時間が分かるのが素晴らしいな!」

「そうそう!なぜ10時間分しか数字が無いのか最初は分からなかったが、慣れると頭の中で勝手に『もう13時か』と連想されるから全然問題なかった」


 知り合いの分だけならプレゼントしてもいいんだけど、この先注文がどんどん増えたらボクが破産してしまうな。


 ラン姉ちゃんの分だけプレゼントにして、あとは普通に購入してもらおう。


「この時計を作れる人は、この世界にたった1人しかいないので、今はまだちょっと高いですよ?お友達価格でも1個4万ピリンするのです」

「よ、4万!?ちょっと高いわね・・・」

「ボクの知り合いの家に限り、お一人様1個限定で配ってるから、ラン姉ちゃんの家に置く分はボクがプレゼントするのですよ!」

「やったーーーーーーーーーー!」

「でもパンダ工房にはすでに1個設置したので、ここから先の注文は普通に自腹で購入してもらうことになります」

「4万か・・・。少し高いが、作れる職人が1人しかいないのならばしょうがあるまい。それで構わんから注文してくれ」

「確かに少し高いな。しかしそれでも欲しいから俺も注文しよう」

「毎度有難う御座います!あ、そうだ。予約特典として美味しい物を食べさせてあげるから、ラン姉ちゃんも一緒に社長室に来てください!」

「美味しい物!?」



 フロント業務を他の女の子に交代してもらい、ラン姉ちゃんを連れて社長室に移動した。



 社長室にある大きなテーブルの上に、寿司・牛丼・味噌ラーメンといった秘蔵の三点セット、通称:クーヤちゃんの三種の神器を並べた。


 実はまだ、パンダ工房で味噌ラーメンを披露してなかったのですよ。



「オイオイオイ!見たことのない料理が沢山出てきたぞ!!」

「一体どこから出した?意味が分からん!」

「美味しい料理は嬉しいけど、すごく半端な時間だからあとでお腹空きそう」

「大丈夫だよ!ボクの召喚獣だから、消した途端にまたすぐお腹が空いて、食堂に行くことになるハズ!」

「「はあ!?召喚獣だって!?」」


 マッチョ二人はこってりした物がベストと判断し、ベイダーさんが牛丼、ライガーさんが味噌ラーメン、ラン姉ちゃんがお寿司を食べることになった。


「よく分からんが食ってみるか・・・」

「どうやって食うんだ?これは」

「しょうがねえな~、ラーメンマスターのアタシが直々に教えてやる」

「ねえクーヤ、これって生魚じゃないの?」

「正解です!」

「いや、お腹壊すから!!」

「大丈夫だよ。職人さんが一切の妥協を許さない完璧な匠の業で捌いてるから、どれだけ食べても絶対お腹を壊さないのです。それに食べ終わったら消すし?」

「その『消す』ってのが、一番ワケ分からないのよ!!」


 お寿司も食べ方がちょっと特殊なので、小皿に醤油を入れたりしてあげた。



 そして実食。



「む!?これは・・・」

「何の肉か知らんが、柔らかくて美味いな!!」

「あれ?意外と美味しい!」


 珍しくも美味しい料理に、三人共ガツガツと一気に食べ尽くした。

 寿司5人前はラン姉ちゃん1人じゃ無理なので、ボク達もお手伝いしたけど。


「じゃあ消すよ!」


 空っぽの器を消して、また新品の料理を呼び出した。

 次はベイダーさんがラーメン、ライガーさんがお寿司、ラン姉ちゃんが牛丼だ。


「また作り立ての新品に戻ったぞ・・・」

「満腹だったのに、一瞬でお腹が引っ込んだんですけど!!」

「いや、いくら何でもこれはおかしいだろ!!」



 すごいツッコミの嵐だったけど、結局何だかんだ言いながらもマッチョ二人とつるぺたは三種の神器を食べ比べた。


 口だけ疲れ果てて変な感じだけど、とても美味しかったそうだ。

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