第222話 ハゲるかと思ったわ!

 雄叫びをあげながら真っ直ぐ飛んで行ったおっさんコンビが、数百メートル先で大きく旋回して戻って来た。


 何も指示を出していないのに着陸してしまったグリフォンに話を聞いてみる。



『クルル』


「真っ直ぐ飛んでた時は重さもまったく問題なかったんだけどよぅ」



『クルル!』


「旋回したら背中にどえらい激痛が走って、ハゲるかと思ったわ!」



『『クルル!!』』


「マッチョ、ダメ、ゼッタイ!!」



 クーヤちゃん翻訳を聞いたレオナねえ達が噴き出した。



「わはははははははは!何でベテラン冒険者口調なんだよ!?」

「ベテランっていうか、Cランク冒険者って感じだね」

「最後の一言はカタコトだったよ!」


 だって彼らの苦情が、それっぽいニュアンスだったんですもの!


「くそッ!旋回する時に強く握り過ぎたか!」

「仕方あるまい。こっちも落ちまいと必死だったんだ」

「でも重さは大丈夫だったみたいだよ?」

「気を使っていたつもりでも、やはり毛を引っ張られるのだろうな・・・」

「レオナらは旋回も問題ないのか?」

「いや、ちょっと痛いって苦情が来たぞ!」

「負担を掛けないように気を付けてはいたんだけどね~」

「グリフォンが可哀相だから、あまり旋回しないように乗ってたんだよ!」

「タマには苦情来たことない!」



「にゃははははははははははははははは!!」



 ぺち子姉ちゃんが高笑いしながら、すぐ上空を通り過ぎて行った。



「まあそういうわけだから、グリフォンの鞍を作ってほしいんだ」

「フム・・・」

「馬の鞍を乗せると羽が広げられなくなるな」

「クーヤ、鳥達をその場で羽ばたかせてみてくれ」

「あい!」



 バサッ バサッ バサッ バサッ バサッ バサッ



 ライガーさんとベイダーさんが、羽ばたいてるグリフォンを四方八方から観察し始めた。ボク達も一緒になってグリフォンの周囲をクルクル回る。



「鞍を乗せるには身体に固定させる必要があるが、羽ばたきの邪魔をしないポイントって首回りくらいじゃないか?」

「そこしか見当たらんな。だったらよだれ掛けみたいにしちまうか?」

よだれ掛け?赤ちゃんのか?」

「失礼なマッチョ達ですね!グリフォンはもう赤ちゃんじゃないです!」

「いや、成体なのは見ればわかる!えーとだな・・・、ああ!よだれ掛けじゃなかった。クーヤが着ている服のような感じだ!」


 服って、あひるポンチョのこと??


「なるほど!頭から被せるタイプの鞍か!」


 想像してみると、確かにそれが一番良いような気がしてきた。

 流石は長年鍛冶屋をやってたベイダーさんだけあって、発想力が豊かですね!


「なるほど~、いいんじゃね!?」

「よし、決まりだな!」

「クーヤ、鞍を作るにしてもこれは特別製の鞍だ。このグリフォン?に合わせて作らなければならないから、工房に1体置いてってくれるか?」



 確かに実物に合わせながらじゃないと、鞍なんて作れないよね。



「ライガーさんとベイダーさんに、一つ提案があります!」

「提案?」

「作ってほしい鞍の数は10個なんだけど、その支払いはお金じゃなくて、グリフォン1体をパンダ工房に貸し出すってのはどう?」



「「な、なんだってーーーーーーーーーー!?」」



 パンダ工房ってメチャクチャ儲かってるから、お金よりも絶対こっちを選択した方がいいと思うんだよね!


 だって空を飛ぶ乗り物だよ?これを選ばない手はないっしょ!


 グリフォンは移動力だけじゃなく戦闘力もあるらしいから、パンダ工房の防衛面でも活躍してくれると思うんだ。


 っていうか単純に、ドラちゃんのもったいない精神のおかげでグリフォンがちょっと余ってる状態だから、パンダ工房に1体お裾分けみたいな?


 足りなくなったら、またリナルナまで捕獲しに行けばいいだけだし。


 ただ貸すと言って置いてくと、またボクに大きな借りができてしまうのが心に引っ掛かるだろうけど、これがグリフォンの鞍を作る対価となれば借りにはならない。



 ・・・さあ、マッチョ達の決断はいかに!?



「空飛ぶ乗り物なんて金で買えるような代物ではない!本当にグリフォンを選んでもいいのか?」

「二択になってねえぞ!10万ピリンと1億ピリンくらい開きがあるんだが?」

「いいよー!その代わり乗り心地最高の鞍を作ってね!」

「おお、勿論グリフォンを選択するぞ!鞍のことは任せておけ!」

「クーヤが出現すると、必ずとんでもないことになるな!」

「ならばこれは最優先事項だ!革職人を呼ぶか」

「いや、此処で作る必要はないだろう。工房の中でじっくり考えよう」


 にゃははははは!やっぱりグリフォンを選択するよね~。


「ところでクーヤ、ペチコねえは?」

「あ・・・、スッカリ忘れてた!!」



 一体どこまで飛んで行ってたのか、グリフォンを呼び戻すと、ぺち子姉ちゃんが戻って来るまで10分くらいかかった。




 ◇




 工房に入ると、カウンターの中にラン姉ちゃんがいた。



「大勢でどこに行ってたのよ?」

「飛んでたにゃ!」

「はい?」


 あ、そうだ!パンダ工房に時計を設置するんだった。


「ねえライガーさん、従業員のみんなが1番時計を確認する場所ってどこ?」

「1番確認する場所っていうと、やはり入り口にあるその時計じゃないか?」

「この時計ね?」


 ショタが何をするつもりなのか察したレオナねえが、工房の壁に飾ってあったこの世界の時計を外した。


「だから、それが1番確認する時計だって言ってんだろ!」


 ペカチョウを呼び出して、レミお姉ちゃんに作ってもらった時計を出してもらい、それをレオナねえに渡した。


「よし、これでバッチリだ!」


「バッチリじゃねえよ!何だこの意味不明な道具は!!」

「レミお姉ちゃんに作ってもらった最新型の時計だよ!」

「いや、まずそのレミお姉ちゃんって誰だ?」

「すごい天才なんだよ!」

「天才と言われてもな。聞きたかったのはそういうことではなく・・・」

「とにかく!1ヶ月も経ったらみんなこの時計が大好きになってるから、この時計の説明するね~」


 見る分には単純なのでざっと説明し、今はラン姉ちゃんがフロントを任されてるみたいだから、他の従業員達にも最新型時計の説明をするよう頼んでおいた。


「最新型はわかったけど、元の時計も置いてってよ?」

「ずっとココにいるなら1週間でクーヤ時計の虜になる」

「このヘンテコな時計を?御冗談を!アーーーーッハッハッハッハッハ!!」



 クーヤちゃんへの挑戦、しかと受け取りましたぞ!

 1週間後、元の時計に戻して絶望させてあげましょう!




  ◇◇◇




 ブックマーク・☆・💛、そしてコメントや誤字報告をしてくれた皆様。

 いつも本当に感謝しております!これからも応援宜しくお願いします。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る