第217話 ショタの華麗な技

 悪そうなお兄さんが借りているというアパートにやって来た。


 何のために借りているのかは知らないけど、テーブルとベッドくらいしかない殺風景な部屋だ。こんな場所にショタを連れ込んで、一体何をするつもりだ!?



 ・・・麻雀のお絵描きでしたね。



「麻雀卓は、そこのテーブルの前に出してくれ」

「あい!全自動麻雀卓召喚!」



 殺風景な部屋が雀荘にレベルアップした。



「あんがとな。しかし麻雀をするには専用テーブルも作る必要があるか。たぶん表面がツルツルしてたんじゃ打ちにくいだろ」

「うん。この緑色の敷物が結構重要なのです」

「布なんかで代用出来そうではあるが、テーブルにガッチリ貼り付けなきゃ、動いてイラつくことになりそうだ」

「専用テーブルを作るなら、この浅い段差も付けなきゃダメだよ」

「段差?」


 あーそっか!手積みしたことないから、段差の重要性がわからないのか。

 帰る前に、牌の積み方とか教えた方がいいね。


 ハムちゃんを呼び出して、椅子を四つ出してもらった。


「これから段差の説明をしますが、その前に一つ!全自動麻雀卓なんか作れるわけないので、まず悪そうなお兄さんは『手積み』を覚える必要があります!」

「まあそうだろな~。自分で並べるしかないだろう」

「ついでだからみんなに牌の積み方を伝授しますので、タマねえとプリンお姉ちゃんも麻雀卓を囲んで下さい!」


 四人で麻雀卓を囲んだ。


「もうすでに山が積まれている状態ですが、グチャグチャにかき混ぜます!」


 ジャララララララララララ


「それくらいでオッケーです!じゃあまずはボクがやるので見ててください!」


 チャカチャカチャカチャカチャカチャカ


 素早く麻雀牌を手前にかき集めて裏返しながら横一列に17個並べ、その奥にも牌を17個並べた。そして奥の17牌を少し前に出す。


「では、行きますぞ!」


 手前の17牌をショタの小っちゃい両手で掴み、美しいフォームから、力みを排除した軽やかな動きでヒョイと持ち上げ、前に出した1列目の17牌の上に乗せた。


「山の完成です!」


 我ながら上手くいったな!こういうの結構得意なんですよ。

 小っちゃなショタハンドだから不安はあったんだけど、やれば出来るもんだ。


「す、すげえ!!」

「クーヤ格好良い!!」

「なんと鮮やかな!天使様、今のってどうやったのですか!?」


 褒められた。

 ドヤ顔になってた気がするんで、ちょっと恥ずかしい。


「何度もやってればみんな出来るようになるので、まずはやってみましょう!牌をかき集めながら、さっき悪そうなお兄さんと話した段差のところに17牌並べるの」


 チャカチャカチャカチャカ


 みんな言われた通りに牌を並べ始めたんだけど、まだプリンお姉ちゃんは右手が使えないってことを思い出して、慌てて手伝いに行った。


「あーーー、そういうことか!段差が無いと一列に綺麗に並べられないわけだ」

「そうそう!でね、その奥にもう一列並べてから奥の列だけ前にスッと出すの。そしてボクがさっきやったように、手前の17牌を上から両手で軽く掴んで、奥に出した17牌の上に重ねます。大事なのは力じゃなくてバランスだよ!」


 プリンお姉ちゃんの膝の上に座ってるからちょっとやりにくかったけど、またもや17牌の牌を積み重ねることに成功した。


 ようやくみんな牌を並べ終わり、悪そうなお兄さんがセットポジションに入った。



 パーーーーーーーーン! グシャッ



「ああああああああああああああああっ!!」



 力が入っていたのだろう、牌が大噴火して飛び散った。



「最初は誰でも失敗するので、練習あるのみです!」



 ところがどっこい、タマねえが一発で17牌の牌を積み上げることに成功した。



「ぶっ!タマねえいきなり成功してるし!!」

「上手くいった!!」

「くそお!俺だけ失敗かよ・・・」

「あはははは!何だか面白いですね~」



 それを何度か繰り返すと、悪そうなお兄さんもコツを掴んだようで、綺麗に山を積むことが出来るようになった。



「一つの芸術だな!素早く裏返しながら山を積むまでの一連の流れに、美しさすら感じるぞ!」

「1日麻雀打ってるだけで、卓を囲んでる全員が当たり前のように出来るようになると思うよ。あとね、並べるのは17牌って教えたけど実は適当でいいんだ。大体それくらいの横幅にすればいいってだけ覚えといて!」

「そうなのか?」

「ボクが10牌しか積まなかったら、悪そうなお兄さんは24牌積まなきゃならなくなるでしょ?それが大変ってだけで、別に麻雀を打つのに支障はないんだ~」

「へーーーーー!とりあえず段差の重要性は理解したぜ!」


 あと伝えなきゃならないことは・・・、あっ!


「真ん中の箱って開けられる?中に入ってるサイコロを取ってほしいの!」

「ああ、あれか」


 悪そうなお兄さんが箱の開け方が分からず苦戦している。


「もう面倒だから、ぶっ壊しちゃっていいよ!」

「・・・あ?いや、ダメだろ!」

「大丈夫だよ。壊しても召喚し直せば勝手に元に戻るから」

「マジかよ!?ホントお前の召喚魔法って意味不明だな・・・」


 悪そうなお兄さんが箱を破壊して、強引にサイコロを取ってくれた。


「麻雀をするにはサイコロも絶対に必要だから、コレも正確に描き写してね。『一の裏は六』『二の裏は五』『三の裏は四』。サイコロは必ず表と裏の合計が『七』になるように作られてるの」

「・・・おお、本当だ!!」



 こんなもんかな?それにしても説明が長くなっちゃったな・・・。

 タマねえやプリンお姉ちゃんまで巻き込んでしまってごめんよ~。


 さすがにもう麻雀の説明は十分だと思うから、これで全て終了です!

 あとは悪そうなお兄さんが勝手に作って、麻雀を流行らせてくれるでしょう!


 ・・・あっ!


 ゴンドラで書き上げたルールブックを描き写さなきゃいかんのか・・・。

 いやもう面倒臭いです!レオナねえにやらせよっと!



「もう十分だと思うからボク達はそろそろ行くね!サングラスと麻雀セット作り、がんばってね~!」

「色々と細かく説明してもらって本当に助かったぜ!ああ、レオナ達にあのノートを俺の分も描き写すよう頼んどいてくれるか?」

「ボクももう書きたくないから、レオナねえに写させようと思ってました!悪そうなお兄さんの麻雀ノートが完成したら、また連絡するね!」

「んじゃ頼むわ」


「「頑張ってねーーーーーーーーーーーーーーー!」」



 ということで、本日のお仕事は終了です!

 でもまだお昼過ぎだから、プリンお姉ちゃんに街を案内する時間があるね。


 パンダ工房には明日行くとして、時計が出来てるかもしれないから、帰りにレミお姉ちゃんの家にでも寄ってみようかな?お土産も渡さなきゃね~!

 

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