第216話 悪そうなお兄さんと役所デート

 風呂上がりでニコニコ顔のプリンお姉ちゃんを見た家族全員がその理由を察したようで、当然ながら女性達は女神の湯の話でこれ以上無いほど盛り上がり、プリンお姉ちゃんは一瞬にしてウチの家族と打ち解けた。


 その後、興味津々でパンダを見つめていたので、お腹に抱きつかせてあげると、キリッとした顔が一瞬で蕩けて、30分近く夢の世界から帰って来なかった。


 この一件で、これからも気軽に召喚獣をモフれるようになったんじゃないかな?


 そして問題の癒し効果だけど、やっぱり湯治によって少し調子が良くなったみたいだった。何がどう効いてるのかは健康なボク達にはわからないけど、プリンお姉ちゃんの表情を見た限りでは本当に効果があったんだと思う。


 というわけで、しばらく湯治を続けてみます!また剣が振れるようになるかはわからないけど、日常生活に支障が出ないくらいまでは回復させたいですね!


 ただ徹夜明けで瀕死だったレオナねえは、夕食後すぐに自室に戻って寝てしまったようで、面白い話に参加できなかったから、朝起きた時に残念がるかも。



 んでプリンお姉ちゃんの寝床なんだけど、こんな夜にタマねえの家に行くのもどうかと思ったので、今日はボクのベッドで一緒に寝ることにしました。


 ウチはちょっと人が多いから、タマねえの家で寝泊まりするってことにはなってるけど、定期的にウチに泊まったっていいよね?



 じゃあ疲れたのでそろそろ寝ます。おやすみなさーい!






 ************************************************************






 瞼を開くと、すぐ目の前にプリンお姉ちゃんの顔があって少し驚いた。

 部屋を見渡し、久しぶりに自分の部屋で寝たことを思い出す。


 目覚まし時計を見ると2時10分前くらい。

 日本時間で言うと朝8時だ。疲れていたのかちょっと寝過ごしたらしい。


「ん・・・」


 プリンお姉ちゃんも起きたみたいだ。


「おはよーーーーー!」

「あ、天使様おはようございます。・・・え~と、此処は?」

「ボクの部屋だよ!」


 その言葉を聞いて、プリンお姉ちゃんがキョロキョロと部屋を見回した。


「そうでした!とうとうミミリア王国に到着したのでしたね」

「とりあえずボクの部屋で寝てもらったけど、隣のタマねえの家にプリンお姉ちゃんの部屋を用意してもらってるから、今夜からそこで寝泊まりする感じになります」

「色々良くして下さり、ありがとうございます!ご家族の皆様もお友達の方達もみんな良い人ばかりで、本当に素敵な街ですね!」


 おそらくプリンお姉ちゃんは、人間不信期間が長くて愛情に飢えている。幸いボクの周りは良い人ばかりだから、身体だけじゃなく心も癒さなきゃですね!


「今日ボクは悪そうなお兄さんと役所に行かなきゃいけないんだけど、プリンお姉ちゃんも一緒に行く?たぶんタマねえも一緒だと思うけど」

「ああ、特許がどうとか言ってましたね。私も街の中を見て回りたいと思っていましたので、一緒に行きます!」

「とりあえず顔を洗ってから朝食にしよう!でも悪そうなお兄さんは徹夜明け状態だったから、まだ眠ってるかもしれない。ってことでゆっくり出発するからね~」

「了解しました!」



 ボク達が起きて来るのが遅かったのもあり、リビングに行くと、クリスお姉ちゃんもティアナ姉ちゃんもすでにいなかった。


 案の定レオナねえはまだ眠ってるみたいなので、お母さんとリリカちゃんにだけ朝の挨拶をし、ゆっくり身支度を済ませてから悪そうなお兄さんに連絡を入れた。


 そうこうしているうちにタマねえがウチに遊びに来たので、2体のトナカイを呼び出して役所へと出発した。もちろんプリンお姉ちゃんはボクと相乗りです!




 ◇




 役所に到着すると、悪そうなお兄さんが壁に寄り掛かって待っていた。

 まだ特許の出願前なので黒眼鏡は装着していない。



「よう」


「悪そうなお兄さん、おはよーーーーー!」

「おはよー」

「おはようございます」


 トナカイを全部消した。


「特許の申請するのにサングラスを預ける必要があるから、最後にもう一度装着して、明るさとか透過具合のチェックをした方がいいよ」

「それは此処に来る前に何度もやった。要は眼鏡を黒く塗るのではなく、ガラスに黒い塗料を混ぜ合わせてレンズの形にすりゃいいって感じだろ?」

「たぶん大体あってる!レンズをほんのり茶色にしたヤツとかもオシャレだよ!」

「ほほう!色々試してみるしかねえな」

「作ったことないから、ボクからアドバイスできるのはサングラスの形状くらいだねえ。色が濃すぎると視界が悪くなるってのは想像つくけど」

「まあそうだろな~。とにかくサングラスが手元から無くなっても問題ないから、とっとと特許の申請すっぞ」

「アイアイサーーーーー!!」



 というわけで、四人は役所の中に突入した。


 受付のお姉さんに特許の出願をすると、前回と同じ担当者が出て来たので、ボクのことを知ってる分話が早かった。


 トントン拍子に手続きは進んでいき、最後に実際に使用している所を見せるため、別室にぞろぞろと移動した。



「視界が暗いですね」

「それが重要なポイントなのです!日差しなどの強い光から眼を守るための保護眼鏡なの!」

「ほうほうほうほう!確かにコレを着けていると、光の刺激みたいのを防いでくれているのが体感できます!」

「そういう効果もあるわけだが、要は『黒い眼鏡』で特許を取りたいんだ」

「おそらく問題ないでしょう。黒い眼鏡で特許を申請した人がいるなど、今まで聞いた事がありませんから」

「ちょっと待って!『色付き眼鏡』で申請していい?レンズが茶色の眼鏡も売りに出すつもりだから」

「なるほど。確かに色の一つ一つに特許が発生するとややこしくなりますね。では『色付き眼鏡』で特許の出願をしましょう」

「よろしくおねがいしまーーす!」

「宜しく頼む!」



 物が単純だったので、前回同様10日~30日くらいで結果が出るとのこと。

 10日後に結果を聞きに来るってことになり、役所の外に出た。



「あとは審査待ちだね!」

「もう黒眼鏡は作り始めるけどな」

「そなの?」

「『色付き眼鏡』は無理でも『黒い眼鏡』でなら通るって話だったから、もう作り始めても大丈夫だろ。もしすでに誰かに特許を取られていたとしても、そいつに金を払えばいいだけだしな。その場合、お前に金が入って来ないことになるが」

「すでに取られてたんならしょうがないよ!」


 よし、ミッションコンプリート!

 このままどこかで遊びに行こうかな?


「もう一つ頼みがあるんだがいいか?」

「ん?」

「麻雀牌を見せてほしいんだよ。本当は麻雀の特許も取ってほしかったんだが、アレを役所に渡してしまうとレオナらが遊べなくなるだろ?だから模造品を作ってから、そいつを役所に渡す作戦にしようと思ってな」

「なるほど!レオナねえ達のことまで考えるなんて優しいね!」

「・・・あ、いやまあ、コレは俺の我儘みたいなもんだからな。作って一儲けしたいっつーよりも、組織の連中と麻雀を打ちてえだけなんだわ!」


 にゃははは、優しいって言ったら照れてる!


「わかったー!どこかで全自動麻雀卓を出して、それを描き写すんだよね?」

「正解だ!この近くに部屋を借りているから、そこまでついて来てくれ。麻雀卓を呼び出したらそのまま帰ってくれて構わん。離れていても消したり出来るんだろ?」

「いつでも消せるよ。10時に消すってことにしておく?」

「その時間なら余裕で写し終わってるな。よし、それで頼む!」



 というわけで、悪そうなお兄さんに全自動麻雀卓を貸すことになりました!

 なんか、貧民街スラムで麻雀がメッチャ流行りそうな予感がしますね・・・。

 

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