第215話 『女神の湯』は名前だけじゃないのだ!
家族のみんなから一歩も動けないというクレームが入ったので、お土産ハムちゃんに頼んでリビングの中央に道を作ってもらった。
とある古い映画で『モーゼ』とかいうおっさんが海を割るシーンがあるんだけど、ハムちゃんが『お土産の海』を割る姿も神々しかったと言わざるを得ないだろう。
・・・歩きながらモグモグしてただけですけど。
そしてようやく動けるようになったお母さん達が、完成したばかりの王者の道を歩いて行き、気になった物を手に取り始めた。
「どれもミミリア王国に無い物ばかり!本当にすごいわ~!」
「筆記用具からお菓子まで何でも揃ってて、お店で買い物してる気分だよ!」
「セルパト連邦では、こういう服が売られてるのね!」
「あーーーーーっ!おかーさん、あのおかしとって!!」
「はいは~い!」
「これ全部みんなのお土産なんだから、好きなのを取っていいんだからね?というか、持ってってくれないとずっと部屋が狭いままだよ!」
「多すぎて持ちきれないよ!私達のハムちゃんを連れて来ないと!」
「とりあえず、食材は全部お母さんのハムちゃんに預けない?」
「この鳥の丸焼きは、夕食に頂きましょうか~!」
・・・とまあ、帰って早々にてんやわんやな状態から始まったけど、それぞれの専属ハムちゃんに気に入ったものをポイポイ渡していくことで、ようやく床を埋め尽くしていたお土産が全部消え去った。
リリカちゃんがお菓子を独り占めしないかだけ心配だったけど、目移りしまくったおかげで全員に分配されたようで良かった。
正直、家族だけで消費出来るような量じゃないので、ご近所さんや、会社の同僚や、学校の友達なんかに渡って行くかもですね。
物をくれる人ってのは確実に良い印象を持たれるので、ボクはそういう使い方も全然アリだと思ってます。っていうか、むしろみんなに推奨したくらいだし。
『自分が貰った物だから』といつまでも大事にするような貴重な一品物とかじゃなく、とんでもない物量ですからね~。全然ばら撒きOKです!
「天使様!あそこにいる大きな動物は一体何なのですか?」
「ウチのペットのパンダちゃんだよ」
「いや、大き過ぎません!?」
「帰って来たばかりだから今日はまだ呼んでないけど、いつもはメルドアもリビングで遊んでるんで、明日からもうちょっと賑やかになるかも?」
「メルドアって、・・・え?もしかしてあの大きいのも召喚獣なのですか!?」
「うん!可愛いでしょ?」
「確かに可愛いですね!ちょっと大き過ぎるってだけで・・・」
お風呂から上がったら存分にモフらせてあげよう。
「クーヤくん、そろそろその人を紹介してもらっていいかな?」
「あ、そうだね。レオナねえ達はお風呂中だけど、いなくても問題はないか。えーとね、彼女はセルパト連邦で冒険者をやってるプリンお姉ちゃんだよ!」
プリンお姉ちゃんが数歩前に出て振り返り、お母さん達と向かい合った。
「初めまして、プリンアラートといいます!盗賊との戦闘で重傷を負った所を天使様達に助けられ、その時の怪我を癒す為に此処での湯治を勧められたので、旅に同行させて頂きました!」
「「天使様!?」」
「はい!そこにいる黄色い天使様です!」
家族の視線がショタにザクザクと突き刺さる。
「ん~~~~?可愛いけど、言うほど天使かなあ?」
「湯治って聞こえたような気がするけど、それって女神の湯のことだよね?」
「そうそう!夕食の後、女神の湯で湯治するの!怪我を癒すのが目的なので、たぶん2時間くらい入ると思うから、ボク達は一番最後でいいです」
「あらあら~、クーヤちゃんが付きっきりで介護するのね~!」
「そうなのです!プリンお姉ちゃんの身体を癒すのがボクの使命なのです!」
「なるほど、これは確かに天使様だ!!」
続けてお母さん達も一人ずつ自己紹介をした後、湯治のためにしばらくプリンお姉ちゃんがタマねえの家から通うことを了承してもらった。
そしてようやく一段落したので、今日はボクが買って来た食材で夕食を作ることにしたんだけど、すでに美味そうなデッカイ鳥の丸焼きが三つもあるので、あとはサラダを作るくらいで良さそうですね。
食後のデザートや飲み物なんかも腐るほど買って来たから、バンバン消費しなきゃいつまで経っても無くならないのだ!
「おっ!?あの宿屋ほどじゃないけど、コレも結構美味いんじゃね?」
「スパイシーながらも甘い味付けだね!私が好きな味付けかも!!」
「このお肉も美味しいですね。えーと、イルプシアで買ったのでしたか?」
「うん。確かこの鳥の丸焼きって2000ラドンとか書いてあった気がするよ。高いのか安いのかよく分からないけど、値段分の価値はあったね!」
「その『ラドン』ってのが向こうの通貨なの?」
「そそ。為替レートはピリンとほとんど一緒だった」
「へーーーーー!分かり易くていいね!」
「治安はどうだったの?」
「良い国だったよ~!首都に向かう途中で盗賊は出たけど、ミミリア王国だって盗賊に襲われたりするからね」
「ただ私達が行ったのはセルパト連邦の『リナルナ』って国だけだから、それ以外の国は全然わかんない」
「なるほど~!連邦国だから他にも国がいっぱいあるのね~」
とまあ、旅の話をしながらと食卓は大盛り上がりでした!
夕食後、すぐにアイリスお姉ちゃんとナナお姉ちゃんが自分ちに帰って行った。
もうすでに眠気の限界なので、少しでも寛いだら寝ちゃいそうだからって。
それにボクがお土産まみれにして家族を驚かせたのが面白かったらしく、『私も帰ったらやるんだ!』って二人とも張り切ってました。
なんせボクがお土産大臣でしたからね。タマねえや彼女達のハムちゃんにもエグイほどお土産を詰め込んであるのですよ!
一発芸に近いモノがあるけど、実用的な内容だから貰って困るような物はほぼ無いし、みんな何だかんだ喜んでくれると思います!
そしてお母さんとリリカちゃんがお風呂に入った後、プリンお姉ちゃんを『女神の湯』に連れて行き、帰宅してからの目的だった湯治を開始した。
「う、うぅ~、またあんな所まで洗われて・・・。左手は普通に使えるのですから、自分で洗えますのに!」
「ダメです。プリンお姉ちゃんの身体を癒すのがボクの使命なのです!完全に治るまで毎日ボクがピッカピカに洗います!」
「ま、毎日ですか!?」
「でも人に洗ってもらうと気持ちいいでしょ?」
「それはもちろんそうなのですが、違う意味で気持ち良すぎて・・・。天使様から離れられなくなったらどうしよう・・・」
「プリンお姉ちゃんも、ずっと一緒にこの街で暮らそうよ!」
そんな会話をしながら転ばないように手を引き、二人で『女神の湯』に入った。
カポーン
「はぁ~~~、なんだかとても気持ちいいお湯ですね~」
「普通のお湯じゃないからね~」
「・・・普通のお湯じゃない?えーと、何か入ってるのですか?」
「これもドラちゃんに匹敵するほどの国家機密なんだけど、水色ストライプハムちゃんが出す水には癒し効果があるのですよ!」
「水色のハムちゃんですか?」
「それともう一つすごい効能があるんだけど、それはお風呂から上がった時に気付くと思うから今は内緒!」
「ほうほうほう、よく分かりませんが凄いハムちゃんなんですね!」
そんなまったりした会話をしながらゆっくり2時間かけて湯治をし、脱衣所の鏡の前でプリンお姉ちゃんの綺麗な銀髪をドライヤーで乾かす。
ブオーーーーー
「はふぅ~、気持ち良くて眠くなっちゃいます。・・・・・・あれ?」
プリンお姉ちゃんが、鏡に映る自分の姿をガン見した。
そして顔をペタペタ触った後、左手の甲を見たままフリーズした。
「これって夢じゃないですよね?私の肌に艶が!!」
やっぱりすぐ気が付いた!
癒しよりもむしろ、コッチの効能が凄まじいから国家機密なんですよお嬢さん。
もうね、パァーーーーーーっと笑顔になって目がキラキラしてます!
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