第202話 ハムちゃん特戦隊

 ギルドマスター自らが査定した『ローグザライア』の金額は、驚愕の1000万ラドンだった。



 突然ぶっ飛んだ金額を提示されたもんだから全員固まっているな。

 昨日ココへ来た時は無一文だったのに、いきなり1000万ですってよ!!



「とはいえ『ルナレギン』でオークションに出せば、ひょっとすると倍の金額になる可能性だってあるわけだからな。売るかどうかは話し合って決めてくれ」


「・・・ルナレギン?」


 お?レオナねえの意識が戻った。


「ん?あぁ、そういやミミリア王国から来た冒険者だったな。『ルナレギン』というのはリナルナの首都だ。そこで1ヶ月後くらいにオークションがあるんだよ」


 なんだ1ヶ月後かい!じゃあ全然ダメじゃん。


「面倒だ。此処で構わん」

「良いのか?ルナレギンで査定してもらえば、もう少し値がつくかもしれんぞ?」

「そう言うからには適正な金額だったってことだろ?ギルマスを信じるぜ!」

「勿論、精一杯色を付けた金額を提示したつもりだ」


 レオナねえのハッタリが半端ねえっス!『面倒だ』とか余裕ぶってるし。

 本当は1ヶ月も滞在する予定ではないってだけなのに。


「ああ、またすぐに『ローグザライア』を狩って来られても、おそらく買取金額は半額以下になるからな。素材価値が不明だからこそ1000万の値を付けたんだ」

「わかっている。狩るなら素材価値が高騰してからにしろって言いたいんだろ?」

「そういうことだ!金はどうする?それぞれのカードに均等に振り分けるか?」

「あ~~~、1000万も持ち歩くのはマズいか・・・」


 レオナねえがこっちを見た。


「クーヤ、どうする?」


 え?クーヤちゃんに決めさせるんですか!?

 ショタが1000万も持ち歩いてたら絶対誘拐されるじゃん!


「均等に山分けでいいよ。あ、でもボクとタマねえはカード持ってない!」

「いや、それはダメだ!あの魔物は・・・、おっと!」


 メッチャ注目を浴びてるから話しにくいな。



「ところでさっき『ローグザライア』をどこから出したんだ?」



 金の受け取りで困っていると、ギルマスが話題を変えた。



「ん?クーヤのハムちゃんからだぞ」

「何だそのハムちゃんってのは?」

「そこにいるだろ」


 レオナねえが指を差すと、『しましまハムちゃん』がプイッと目を逸らした。


「そのかわいい動物がどうしたんだ?」

「だからハムちゃんが運んで来たんだよ」

「いやいやいやいや!大きさ的におかしいだろ!!」

「ハムちゃんなめんなよ?クーヤ、やっておしまい!」


 こんな大勢の前でガッツリ見せても大丈夫なのかな?

 いや、もうすでに大勢の前で巨大熊を出してるんだけどさ。



「ハムちゃん、あのクマを収納してください!」


『チュウ!』



 冒険者ギルドの床からローグザライアが消えた。



 ざわっ



「はッ!?まさか一瞬で食っちまったのか!?」


 そういえばハムちゃんって、収納する時モグモグと食べる仕草をするんだよね。


「食ってるように見えるが食ってはいない。またすぐ出せるぞ?」

「何だそりゃ!!その動物ってローグザライアより凄いんじゃねえのか!?」


「き、消えた・・・」

「アレめっちゃ欲しいんですけど!!」

「あの動物ってどこに売ってるんだ!?」

「ミミリア王国の冒険者なんだから、ミミリア王国じゃねえの?」

「うおおおおお!捕まえに行くしかねえだろ!!」


 あ、マズイ!変な冒険者がミミリア王国に来ちゃうかも・・・。


「ハムちゃんを捕まえに行くのはやめた方がいいぜ?絶対死ぬから」


「は?何でだよ!!自分らだけで独占するつもりなのか?」


「チッ、冒険者共に見せたのは失敗だったな。しゃーねえ、死ぬって証拠を見せてやっか。なあギルマス、近くに広い空き地とかねえか?」

「ん?空き地ならすぐ裏にあるぞ」

「そこに案内してくれ。ギルマスにもハムちゃんの恐ろしさを見せてやるから、コイツらがミミリア王国に来ないよう、後で説得してほしい」

「恐ろしさって、このかわいい動物の恐ろしさをか?意味が分からん・・・」



 無駄に面倒臭いことになったなーと思いながら、大勢の冒険者共を引き連れ、裏の空き地まで移動した。



「クーヤ、今からハムちゃんと遭遇した時のシーンを再現するぞ!」

「え?またナナお姉ちゃんの魔法で防御するの?」

「いや、ハムちゃん強化され過ぎ問題があるから、アレを再現したら全滅するだろ!ハムちゃんを大量に召喚して、魔法の一斉攻撃を見せるだけでいい」

「ああ、それならいいよ!ボクも魔法部隊の強さを一回見てみたかったの!」



 レオナねえが数歩前に出て振り返り、ハムちゃん初見殺しの説明を始めた。



「ハムちゃんって魔物はだな、森の奥でひっそりと集落を作って生活してるんだ」


「あの可愛い動物の集落ですって!見てみたいわね~」

「いや、今確か魔物って言ったぞ?」


「しかしその集落に冒険者などが侵入したりすると、一斉に魔法攻撃を仕掛けてくるんだ。その魔法攻撃は本当に苛烈で、侵入者はまず生きて帰れない」


「いや、アンタら生きてるじゃねえか!」

「生還したからハムちゃんを手に入れたんじゃないの?」


「そこで、ハムちゃんの魔法攻撃がどれほど苛烈なのか、この空き地で再現しよう。向こうの壁が破壊されなきゃいいが・・・」


「いや、此処は魔法の訓練などに使われているから、向こうの壁は対魔法強化してあるぞ。それに結構距離もあるし大丈夫だろう」

「集落とか言ってたよな?ハムちゃん一匹でどう再現すんだよ!」


「じゃあクーヤ、その辺にハムちゃんを出してくれ!」


「アイアイサー!」


 たぶん空き地がメチャメチャになると思うんだけど、いいのかな?



「ハムちゃん特戦隊、召喚!」



 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!



 ハムちゃん特戦隊が、横一列にズラリと並んだ。



「「なんだこりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



 空き地に来る途中でフォルダ分けした魔法部隊なんだけど、名前は適当です!



「もう始めてもいいの?」

「嫌な予感がするから、魔法の威力は控え目にするよう指示を出してくれ」

「ハムちゃんの皆さん、手加減しながらの一斉攻撃です!」


『チュウ?』


「ああ、そっか!的が無いと、どこを狙っていいかわからないよね」



 とてててててててて



 空き地の真ん中まで走って行き、鉄板を2枚並べて戻って来た。



「攻撃目標はあの鉄板です!」


『『チュウ!』』



「撃てーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 ボガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 ギョシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッ!!

 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 ドゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!

 ゴッシャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー!

 ズガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



 ハムちゃん達から放たれた魔法により、視界があの時以上の天変地異に包まれた。



「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」



 そして魔法攻撃が止むと、それなりに綺麗だった空き地は地獄絵図と化していた。



「・・・ゴホン。とまあ、この様に悲惨な姿となるから、ハムちゃんを捕まえに行くなんて考えない方がいいぞ」



 冒険者達は皆放心状態だったが、ギルマスが一言だけ呟いた。



「後で説得するも何も、もう誰一人この魔物を捕まえようなんて思わねえよ」




 デスヨネー。

 

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