第201話 ローグザライア騒動
ここはリナルナ国の北東に位置する『イルプシア』の街だそうだ。
昨日宿屋の女将さんに教えてもらった。
最初に変な酔っ払いと遭遇したけど、街並みも結構綺麗だし、思ったほど治安も悪くない街だと思う。
門兵のおっちゃんも良い人だったし、初めて来た外国としては当たりかな?
そしてリナルナの冒険者ギルドも、内装はオルガライドの冒険者ギルドとさほど変わらない感じですね。
「一つ聞きたいんだが、ミミリア王国のギルドカードって使えるか?」
「ミミリア王国から来たのですか!申し訳ありませんがミミリア王国の冒険者カードは使用できません。でも新たに登録申請をすれば、セルパト連邦の全ての国で使用可能となります。冒険者カードを作成しますか?50000ラドン必要ですが」
「こっちでは『ギルドカード』じゃなくて『冒険者カード』と呼ぶのか・・・。父さーーーん、金を貸してくれ!!」
「だから俺は父さんじゃねえ!えーと、三人共登録すんのか?」
「どうせだから、子供ら以外全員カードを作っといた方がいいだろ」
「しかし50000ラドンか・・・。ミミリアは確か20000ピリンだったよな」
「セルパト連邦の全ての国で使えるんだから、そう考えると安い方なんじゃね?」
「そんなもんかあ?まあ今なら金もあるし、俺も作っとくか」
それがあれば通行料を払わなくてよくなるんだから、おそらくセルパト連邦を網羅するボク達にとってはかなりお得だと思う。子供二人は毎回お金を取られるけどね。
レオナねえ・悪そうなお兄さん・アイリスお姉ちゃん・ナナお姉ちゃんの四人は、場所を変えて申請書に記入を始めた。
「クーヤチャンってどれっスか?見た感じ一番強そうなのは背の高い男かな?」
「おい馬鹿!その名を口にすんじゃねえ!!」
「そいつを黙らせろ!」
「このバカタレがあ!!」
名前が呼ばれた気がしたので振り向くと、見たような顔触れが料理の置かれたテーブルに着いていた。
・・・ああ、この前の酔っ払いじゃん!
てくてくてくてくてくてく
「呼んだ?」
近くまで歩いて行って酔っ払い達を見上げると、何人かが露骨に目を逸らした。
「いや全然呼んでないです。あっ、そうそう!『クーミョン』という料理を注文しただけなんですよ!そういえばクーヤちゃんと名前が似てますね、はははっ!」
クーミョン?そんな料理があるのか。ちょっと気になるな。
「はあ?・・・ひょっとして『クーヤチャン』ってのは、このガキンチョのことなんスか!?」
テーブルの横に立っていた茶髪の若い男がこっちを指差した。
ボゴッ!
「あ痛ッ!ちょ、なんでいきなり殴るんスか!」
「お前は少し黙れ!!すみませんクーヤちゃん、気を悪くしないで下さい!コイツには後でキツく言い聞かせますんで!」
「え?何で3歳くらいの子供に敬語使ってるんスか?あ、もしかして『クーヤチャン』じゃなくて『クーヤ』ちゃん?」
失礼な!クーヤちゃんはこう見えて、3歳どころかもう7歳になったんだぞ!!
ガンッ!
「いってェ!!」
「黙れっつってんだろ!!」
「おーーーい、クーヤ!さっき狩った獲物を出してくれ!」
あ、レオナねえがお呼びだ。
とててててててて
「えーと、どこに出すの?」
「その辺の空いたスペースでいい。このおっちゃんが信用しねえんだよ」
「いや、だからどう見てもお前ら手ぶらだろう!懐に入るような小さな虫なんか、わざわざ奥の部屋に持っていく必要などない!」
「虫じゃねえって言ってるだろ!どうなっても知らねーからな?」
ここであんなのを出したら大騒ぎになると思うんだけど・・・。
まあいいか。レオナねえの言うことをまったく信じないおっちゃんが悪いのです。
ハムちゃんを召喚し、すぐ後ろに出してもらおうと思ったんだけど、ちょっと空きスペースに不安があったので、『ゴーメンナサイヨー』と言いながら場所を空けてもらった。
「じゃあハムちゃん、この空いたスペースにアイツを出して下さい!」
『チュウ!』
「おい!何だその可愛いらしい動物は!」
中年ギルド職員がそう言ったと同時に、ギルド内のど真ん中に馬鹿デカい熊の魔物の死体が出現した。
「「うわあああああああああッッッッッッッ!!」」
漆黒の巨体に赤い体毛が入り混じった、獰猛さしか感じないその姿に、ギルドにいた冒険者達が悲鳴をあげた。
「動かない・・・、死んでいるのか!?」
「おい、コレってもしかして」
「ローグザライアだ・・・」
あっ!今しゃべったのって、さっきクーヤちゃんを3歳とか言った失礼な男だ。
「嘘だろオイ!こんな虫がいたとは!」
「どう見ても虫じゃねえだろ!いい加減認めろや!!」
「すまん、まさかこんなのが出てくるとは思いもしなかったのでな・・・。しかし『ローグザライア』だと?コイツを狩ってきた冒険者なんて初めてだぞ!」
「そうなのか?まあ、うん、結構強かったしな!」
初めてとか言ってるくらいなんだから、相当強い魔物ってことだよね?
やっぱストックするべきだったのかもしれない・・・。
「で、ギルドはコレをいくらで買い取ってくれるんだ?」
「・・・こんなの俺には査定不可能だ。ギルドマスターを呼んで来る」
そう言った中年ギルド職員は、急いで奥の部屋に入って行った。
「ギルマスまで来んのかよ。こりゃ時間がかかるかもしれん」
「冒険者カードが出来るまでどうせ待たなきゃいけないんだし、丁度良かったんじゃない?」
「買い物する時間あるかなあ?」
「いや、さすがにそこまで時間かからんだろ」
「いくらで売れると思う?」
「タマの読みでは100万ラドン!」
「そんなに貰えるの?だとしたら、悪そうなお兄さんにお金返しても結構余るよ!」
お金持ちになったら、香辛料を爆買いしてやるぜ!
「うおッ!本当に『ローグザライア』じゃねえか!!誰が討伐に成功したんだ?」
「ミミリア王国のAランク冒険者達だ。でも今ウチでカードを作っている所だから、『リナルナ』の冒険者とも言えるな!」
「Aランク冒険者だと!?」
お?あのヒゲを生やしたおっちゃんがギルドマスターかな?
ギルマスが『ローグザライア』に近寄って、査定を始めた。
「傷がこれしか無いのか!もしや槍の一突きで倒したのか!?いや、数ヶ所小さな穴があるな。待てよ?これは運ぶ時に付いた傷か・・・」
「頭部を一切傷つけないで倒すとは、実に鮮やかな手際だ。素材評価は10点で構わないよな?」
「もちろん満点以外有り得ん」
なんかめっちゃ高評価っぽくない!?
ドラちゃんに狩り名人の称号を授けよう!
「いやいやいやいや、ローグザライアなんて無理に決まってるだろ!見つかった時点で逃げの一手しかねえよ!」
「どこで倒したんだろ?ニコロ山には『ミグズ』もウジャウジャいるから、同時に襲われたら逃げるのも無理だね」
「素材評価10点とか聞こえたんだけど!すなわち余裕でローグザライアを倒したってことだよな?どんだけ強えーんだよ!!」
「っていうかさ、あの大きいのをどこから出したんだ?」
「「それな!!」」
ちょっと鼻高々に冒険者達のひそひそ話を聞いていると、ギルドマスターによる査定が終わった。
「終わったのか?」
「うむ、素材評価が10点だったからな。悩むまでもない」
「10点か。ま、まあそんなもんかな・・・」
「初物としての価値をプラスして、1000万ラドンの値を付けさせてもらった」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
1000万キマシターーーーーーーーーーーーーーー!!
・・・え?マジで1000万!?
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