第191話 逆転クーヤちゃん

 4月中旬チャッチャッ 午前3時47分チャッチャッチャッ ドラゴン裁判所チャッチャッチャッチャ ゴンドラ控室チャッチャッチャッチャ



 はぅ~、緊張するなあ。

 どうしてこうなったのかは説明しにくいが、成り行きとしか言いようがない。



 ―――ボクはクーヤちゃん、新米弁護士だ。



 今日が初めての法廷だというのに、その内容はスパイ事件。

 新人が請け負うには、少し荷が重いと言わざるを得ないだろう。


 しかしボクには彼の弁護を断ることなどできなかった。

 なぜなら・・・。



「んなことよりもドラゴンだろ!先に質問したいのは俺の方だ!」


「怪しい奴に国家機密級の情報を漏らせるわけがないだろ!」

「何なんですかアナタは!変な黒眼鏡なんかして!」

「クーヤを尾行する怪しい男」

「どう見ても不審者です。まずは離陸して逃げ道を絶つ必要がありますね」


「おいクーヤ、話が違うぞ!やっぱり不審者と思われてるじゃねえか!」



 ご覧の通り、ゴンドラ内に彼の味方など一人もいないのです。

 せめてボクが弁護をしてあげなければ!



 ―――彼の名は、悪そうなお兄さん。ボクの初めての依頼人だ。



 ドラゴンの召喚現場をグーゼン目撃してしまったため、不幸にもスパイ容疑をかけられてしまったという。


 悪そうなお兄さんという名前だけど、おそらく彼は悪くない。

 ただひたすら運が悪いだけ。


 ・・・いい奴だってことは、誰よりもこのボクが知っている。



『チュウ!』


「!!」



 ―――ペカチョウさん。



 ボクの所属する、アルペジーラ法律事務所の所長だ。

 水色ストライプハムちゃんは、連れて行かれたら困ると言われて家に置いてきた。


『チュウ』


 初めての法廷に緊張しているボクの心配をしてくれているが、大丈夫。

 依頼を受けた時の必死な訴えを聞いて直感した。あの人は無実だ!


 弁護士は依頼人の無実を信じるのみ。

 助けてやるんだ、絶対に!ボクはやれる、やってやるぞ!



「まあ話を聞くのは移動しながらでも出来るか。とりあえず出発するぞ!みんな壁にくっつけ」

「「アイアイサー!」」


「意味が分からん。何でお前ら壁にへばりついてんだ?」


「ほら、悪そうなお兄さんも早く!」

「ハァ!?俺もやんのかよ!」



「「舞い上がれ、空高く!この大空は、お前のもの!!」」



『ギュア!』



 ドラちゃんが翼を広げ、大空へと舞い上がった。



「うおっ!!」

「ほら、急いでソファーに移動だよ!」


 悪そうなお兄さんの手を引き、初フライトってことで前のソファーに座らせて、手前に設置してある手すりに掴まってもらう。ボクを挟んで右側にはタマねえだ。


「もしかしてドラゴンが飛んだのか!?」

「慣れるまでしゃべらない方がいいよ。舌噛むから」



 ドラちゃんに指示を出し、地上から見上げても鳥と勘違いするくらいまで高度を上げてもらった。もう何度も練習をしたことなので、ドラちゃんも慣れたものだ。


 落ち着いたところで速度を上げていく。



「す、すげえ・・・。空から見た景色ってこんな感じなのか!」

「感動するよね~!」

「タマもこっち方面に来るのは初めてだから感動」


 どこまで進めば隣の国に入るのかはさっぱりわからないけど、まあ一晩で隣の国に辿り着けるほどミミリア王国は狭くないと思うから、しばらくは遊んでても問題無いでしょう。おっと!遊びじゃなくて大事な裁判だった。


「さて、そこの怪しい男。なぜクーヤとタマを誘拐しようとした?」

「誘拐しようとなんかしてねーよ!!こんな凶悪コンビを狙ったって、逆に半殺しにされるだけじゃねえか!!」

「じゃあなぜクーヤ達を尾行したんだ?」

「あ~、それはだな・・・」



 ―――――【証言開始】―――――



「まず貧民街スラムに入ってすぐの辺りに来るよう、クーヤに呼び出されたんだよ。当然ながら俺は『要件は何だ?』と聞いた。するとこのガキは『別に何もないよ?』とか言いやがったんだ」


 ちょっと待ちなさい!裁判長が『これより悪そうなお兄さんの法廷を開廷する』ってまだ言ってないじゃん。証言はその後だろ!


「ふむ、クーヤの呼び出しなんてそんなもんだ。で、続きは?」

「えーと確か、『あ、そうだ!悪そうなお兄さんに似合いそうなアイテムがあるのですよ!』とか言って、この黒眼鏡を渡されたんだよ」

「それで不審者みたいな顔になっていたのか・・・」

「くっ!俺も最初そう思ったから否定はしないが、よく見りゃ格好良いだろ?」


 レオナねえ、あまり不審者言わんでください!

 やっと本人がその気になったってのに。


「ゴホン、それはまあいい。んで黒眼鏡を渡したガキ共はすぐいなくなったんだが、一人になった時に少し考えたワケよ。この黒眼鏡姿で街を歩けば、格好良い俺の姿に憧れた者達が真似をするんじゃないかってな」

「確かに見た目が特殊だから、格好良いと思うヤツはいるかもな~」

「だろ!?」


 いいぞ、レオナねえ!もっと格好良いって言ってやるんだ!


「そこでだ!どうせ真似をされるのならば、ガキに黒眼鏡の特許を取らせて俺んとこで製造・販売すりゃ、両方が金儲け出来ると思ってな。その交渉をしようと思って、ガキ共を追いかけて来たってワケよ」


 あーーー、それでこんな所までついて来ちゃったのか!


「ガキ共はすぐ見つかったんだが、なぜか東門を出て北へ向かって行ったのが気になってな。そのまま未開の地に入ったと思ったら、まさかのドラゴンだ!!」


「なんだ、そういうことだったのかよ!」

「だから黒眼鏡なんか掛けてたんだ」

「謎は全て解けたね~」


「待った!!尋問フェーズは!?ボクの出番が来るのをずっと待ってたのに、弁護する前に閉廷しちゃってるじゃん!!」


「またクーヤが意味わからないこと言ってる」



 クソガー!完璧に舞台を整えたってのに、悪そうなお兄さんの説明が上手すぎて全て台無しだ。っていうか、そもそも弁護士を必要としていなかった!?



「さて、コッチはもういいだろ?次は俺の質問に答えてもらうぞ!」

「うぇえええええ!?ボクの方が尋問されるの?話が違う!異議あり!!」

「ホント意味分かんねえガキだなオイ!!」

「クーヤは謎の生き物だから」



 ペカチョウを所長にまで設定したボクの努力が~~~~~!!

 

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