第190話 悪そうなお兄さんを拉致する

 白い犬と黒い狼を回収しに行った帰り道、お化け屋敷周辺で5匹のカブトムシを手に入れることに成功した。


 5発の弾丸と考えた場合、そう凄く感じないかもしれないけど、クーヤちゃんの弾丸には自動追尾機能が付いているし、しかも何度でもリロードが可能なのだ。


 今まで5発の弾丸をやり繰りしていたのが、10発同時に発射出来るようになったわけだから、間違いなく大幅な戦力アップと言えるでしょう。


 優しい家族に囲まれながらまったりした日々を送っているクーヤちゃんに、過剰な戦闘力など必要無いとは思いますが、まあ強くなって困るもんでもないですしね。


 それにこれから大冒険に繰り出すのだから、やっぱ仲間を守れる力が必要なのだ。



 ―――というわけで、これより『セルパト連邦』へと向かって出発します!



 家に残る家族のみんなには、『ラーニャンで適当に飛び回りながら、リリカ島みたいな楽しい場所を探して来まーす!』みたいな軽い感じで話したんだけど、意外とあっさり許可が出ました。


 ただし、お菓子の詰まった『サンタの袋』を置いてくのが条件でした!


 最初はリリカちゃんも行きたがってたんだけど、『祝福の儀』で職業についてからじゃないと危ないからとみんなに説得され、それでもごねていた彼女にお菓子を献上して、ようやく怒りを鎮めてもらったわけですよ・・・。


 やっぱり無力な幼女を連れ回すのは危ないし、リリカちゃんまでいなくなるとお母さんが寂しがるだろうからね。とはいえ今回は1週間程度で戻るつもりだけど。



 北門は貴族街にあるから庶民には使うことが出来ず、普段ボク達は西門を出て、オルガライドの北にある『ネジポイント』まで行ってるんだけど、久々に悪そうなお兄さんの顔が見たかったので、遠回りになるけど今回は東門を使うことにした。


 貧民街スラムの入り口まで来た時に、レオナねえ達がゴンドラのメンテナンスをしたいからと、先に『ネジポイント』に行って待っていることになり、ココに用事があるボクとタマねえは少し遅れて合流することとなった。


 そして貧民街スラムに入ったところで、また一つ進化してしまったボクは、裏技を使って悪そうなお兄さんを呼び寄せる作戦に出る。



「おい!突然ハム吉が字を書き出したから、ビックリしたじゃねえか!!」



 お、来た来た!召喚獣を使った呼び出しの成功です!


 ちなみに『ハム吉』ってのは、悪そうなお兄さんに貸しているハムちゃんの愛称で、そういうニュアンスで呼んでいたから勝手にそう翻訳しました。



「とうとうボクは、字を書けるようになったのです!」

「いや、ちょっと待て・・・。お前が字を書けるようになると、ハム吉も字を書くようになるのか?召喚獣意味不明すぎるだろ!」

「その辺にある紙とペンを見つけて『この字を書いてみて!』ってハム吉にお願いしたんだけど、ボクから見えるわけじゃないから字が汚くなかった?」

「歪んでて汚かったが、『クーヤがきた』って書いてあるようには見えたな。チュウチュウ煩かったから、まあお前絡みの案件だろうと思って此処へ来たわけだ」

「大きい字で書いてもらったのが大正解でしたね!」

「ああ、おかげで大事な書類がパーになった」

「アイヤー」


 おでこをペチっと叩いて誤魔化した。


「ところで要件は何だ?」

「別に何もないよ?」

「用事も無いのに俺を呼び寄せたのかよ!!」

「あ、そうだ!悪そうなお兄さんに似合いそうなアイテムがあるのですよ!」

「ん?」

「サングラスと手鏡を召喚!」


 前にアイテム召喚で出てきたんだけど、視界が暗くなるから家族には不評だったんだよね。悪そうなお兄さんはビジュアル重視だろうから、気に入ってくれるだろ。


「何だこりゃ?」

「簡単に説明すると、黒い眼鏡だよ!」

「眼鏡を掛けるほど俺の目は悪くねえぞ?」

「これを掛けると怖く見えるのですよ!サングラス姿が格好良いって思う人も絶対いるから、悪そうなお兄さんに超オススメなのです!」

「サングラス?格好良いのかコレ?不審者に思われそうな気もするが・・・」

「とにかくサングラスを掛けてみればわかるから!」


 悪そうなお兄さんがサングラスを装着して、もっと悪そうになった。


「おおおおおおおおおお!めちゃくちゃ似合ってる!!」

「おーーーーーーーーー!よくわかんないけど確かに格好良い!!」

「そ、そうか!?」


 タマねえも一緒になって褒め称えたので、少しその気になったようだ。

 悪そうなお兄さんに手鏡を渡して、自分の姿を確認させた。



「おおおおお!なるほど、少し視界が暗いがコイツぁ悪くねえぞ・・・」



 悪そうなお兄さんも喜んでるみたいだし、そろそろ出発しよっと。


「んじゃボク達は用事があるんで、そろそろ行くね!その手鏡はしばらく持ってていいよ。後でテキトーに回収するから」

「じゃあまた」


「ん?ああ、よく分からんがサンキューな!今度使ってみた感想を言うわ」



 レオナねえ達を待たせるといけないので、手を振りながら東門へと向かった。






 ************************************************************




 ―――――サングラスにご満悦の、悪そうなお兄さん視点―――――




 マジでコイツぁ良いモンを貰っちまった気がするぞ・・・。

 眼鏡を真っ黒にするだけで、こうも威圧感が出せるようになるとはな!


 しかもガキ共が言うように、マジで惚れ惚れするほど格好良い。

 男前度が10パーセントアップしたと言わざるを得ないだろう。


 正直、今の俺に落とせない女など皆無と言っても過言では無い。


 ・・・いや待て!


 俺がそう思うってことは、他の奴が見ても羨ましく感じるハズだ。

 そして真似をする者が必ず現れるだろう。なんせ眼鏡を黒くするだけだからな。


 そうか!コイツを売れば大儲けすることも可能ってわけだ。


 しかし貰ったばかりの物を勝手に量産して売りに出したりしては、これを俺にくれたガキに申し訳ない。


 ・・・ならばだ。あのガキに特許を取らせて、俺んとこで製造販売する形を取れば、両方が勝者となるから問題ないよな?


 よし、あのガキと交渉だ!たぶんまだその辺にいるだろ。




 ◇




 ガキ共はすぐに見つかった。

 しかしなぜかあの二人は西区に帰らず、東門から街の外に出た。



 ・・・一体どこに行くつもりだ?まったく意味が分からない。



 気になったので気配を消して尾行してみると、あのガキがメルドアジェンダを召喚し、続けて黒いメルドアジェンダまで召喚しやがった!


 あんな魔物がまだ存在したのかよ!!


 なぜか知らんけど、走りもせず普通にトコトコ歩いているので尾行を続けた。

 街の北部に出て、向かう先は未開の地だ。



 ・・・なぜそんな場所に向かっている??



 しばらく歩くと、森の開けた場所に変な物体が置かれているのが見えた。

 ガキ共が近付くと、変な物体の中から見知った女が三人出てきた。


 確かあのガキの姉貴と、その友達だったか?


 そして次の瞬間、あのガキはとんでもないモノを召喚する。



「ドラちゃん召喚!」



 目の前に、全長が20メートルを超えるほどの化け物が出現した。



「ド、ドラゴンだと!?」



 バッ!


 驚愕する俺の声を聞いた全員が、こっちを振り向いた。



「うぇええええええええ!!なんで悪そうなお兄さんがココにいるのさ!?」

「もしかして尾行されてた!?」

「なんてこったーーーーー!こうなったらもう連れてくしかないね!」

「曲者だ!捕らえろ!!」

「「アイアイサー!!」」



 そして俺はワケの分からぬまま捕らえられ、変な物体の中に連れて行かれた。



 ・・・いや、マジで何なんだよ!?



 

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