第192話 黒眼鏡の男、真実を知る

 悪そうなお兄さんが、どうしてボクとタマねえを追いかけて来たのか。

 それは、サングラスの製造・販売をしたいとボクに伝えるためでした。


 悪そうなお兄さんのスパイ容疑は晴れたので、今度はドラゴンのことを彼に詳しく説明しなければなりません。なんせ思いっきり巻き込んじゃったからね。


 ちなみにクーヤちゃんの脳内パロディーは前回で終了です。『同じネタを何度も繰り返すと唐突に寒くなる場合がある』って父さんが昔真顔で言っていたので。



「マジかよ・・・。ガキ共がドラゴンを倒してなけりゃ、オルガライドの街は滅んでいたということか」

「あの状況でドラゴンまで出現したら、真っ先に冒険者達が全滅しただろうな。その後は街の住民達の番だ」

「クーヤちゃんの話では、ドラゴンはただの通りすがりだったみたいだけど、街を襲撃して来た大量の魔物達は、みんなお腹が空いていたみたいだからね~」

「私達は小さな英雄達に命を救われたんだよ!」



 ボクもタマねえも厚かましい性格じゃないので、ヒーローみたいに言われると恥ずかしいだけだったりする。


 でもドラゴンが街まで来ていたら、十中八九レオナねえが言った通りの展開になっていたと思う。すでに満身創痍の状態でドラゴンなんか倒せるとも思えないし。



「そうか・・・、こうしてドラゴンを従えている以上、本当にあったことなんだろうな。街を救ってくれたことに感謝するぞ!」


 面と向かって感謝されるのはマジで恥ずかしい。


「すごく運が良かったんだ。ボクはドラゴンを倒せる伝説の武器を持ってたから」

「なんだそりゃ?伝説の武器だと!?お前はそんな凄まじい剣を持ってるのか!」

「「ぷぷぷっ!!」」

「ここじゃ狭いから見せられないけど、後で地上に降りた時に見せるね!」

「いや、なぜ後ろの三人は笑っている?」

「ハハハッ!残念ながら伝説の武器は剣じゃねえぞ」

「じゃあ槍なのか!?」

「槍でもねえな。アタシも最初は剣だと思ったんだが全然違った」

「剣でも槍でもないのか・・・」

「そもそもこんな子供が重い剣なんか振り回せないでしょ」

「考えても絶対わからないから、気にしない方がいいよ~」

「いや、伝説の武器とか言われたら気になるだろ!」

「クーヤは、存在そのものが伝説」



 そんなこんなで、悪そうなお兄さんの疑問はある程度解消された。

 続けてドラゴンの存在を隠さねばならない理由を説明した。



「・・・なるほど。お前らの読みはおそらく正解だ。兵の大半を失った状況で、貴族共がドラゴンという巨大戦力を見逃すハズが無い」

「もし情報が漏れるようなことがあれば、貴族共がどう動くかにもよるが、おそらく国相手に戦争を仕掛けることになる」

「冗談じゃねえぞ!魔物のスタンピードが終わったばかりなのに、また街が崩壊する大ピンチじゃねえか。このガキは単独でスタンピードを起こせるんだぞ!?」

「まあそういうことだ。この先も平穏に暮らしたいなら絶対秘密を漏らすなよ?」

「自分にまで被害が及ぶ案件だ。こんなん言えるわきゃねえだろ!ああ、これじゃあダメか。他では『ドラゴン』という単語すら口に出さないと誓おう」

「頭の切れる男で安心したぜ。クーヤと仲良くしてるだけあって精神もタフだ」

「ドラゴンのことは『ドラちゃん』って呼ぶといいよ!」

「いや、それはそれで抵抗があるんだが・・・。こんなデカい魔物に『ちゃん付け』すんなや!!」



 というわけで、悪そうなお兄さんの口止め完了です!

 しかしそんなものでは、大いなる謎に一歩踏み込んだだけに過ぎない。



「ふ~、まさかトイレまで完備しているとは思わなかったぜ。中に溜まったゴタゴタはどう処理するつもりなんだ?」

「飛びながらだとドラちゃんにかかっちゃうかもしれないから、地面に穴を掘ってその上にゴンドラを置くの。ボタンを押したら貯蔵タンクの底が開いてジャバーー!」

「へーーー!よくそんなもん作ったな。ところでアレは何だ?」


 悪そうなお兄さんが指差したのは目覚まし時計だった。ゴンドラ用のはまだ完成していないので、代わりにボクの目覚まし時計を壁に固定してあるのだ。


「時計だよ。ゴンドラ用のはまだ完成してないから、とりあえずボクのを使うことにしたの。ちょっと小さいけどね~」

「アレが時計だと?サッパリ分からん。説明してくれ」

「そのまんまだよ?短い針が1を指すと1時で、5を指すと5時。長い針がクルっと1周すれば1時間経過」

「ほ~~~。違和感バリバリだが、なぜそんな時計を採用した?」

「みんなあの時計が好きになったからだよ!そのうち悪そうなお兄さんも欲しくなるんじゃないかな?」

「あんなヘンテコな時計を好きになんてなるかぁ~?」

「なる。タマも最初は意味不明だったけど、今はあの時計の方が好き」


 好きになったら大きな時計をプレゼントしてあげよう。

 そのためにいっぱい注文したんだから。



「さて・・・。落ち着いたところで、このドラゴンが一体どこに向かっているのか説明してもらおうか?」



 ん?言ってなかったっけ?



「セルパト連邦だよ」

「はあ!?」

「だから、お隣の国に遊びに行くの」

「外国に向かってたのかよ!!いやいやいやいや、ドラゴ、いや、ドラちゃんがどれほど速いか知らんけど、それって絶対日帰り出来ねーだろ!」

「大体1週間で帰る予定だよ!」

「待て待てーーーーーーーーーーーーい!俺はそんなに暇じゃねえ!組織に一言も告げずに、1週間も旅行なんか出来るワケねーだろ!」

「旅行じゃない。冒険」

「いや、どっちでもいいわ!今すぐ引き返せ!!」

「それはもう無理です。えーと、組織に一言伝えれば大丈夫なの?」

「はあ?どうやって伝え、そうか!ハム吉か!」


 まさか『ハムちゃん通信』が活躍する場面がもう来るとはね~。


「じゃあ伝えたいことをこの紙に書いて下さい!」


 紙とボールペンを召喚し、悪そうなお兄さんの前にあるテーブルに置いた。


「いや待て。『クーヤがきた』って書くだけでも、ハム吉は苦労してたんだが?」

「ん~、時間を掛ければ大丈夫じゃない?出来るだけ短い文章にしてね!」

「うおおお、逆に難しいぞ。ハム吉が書ける範囲で纏めなきゃならんのか・・・」



 悪そうなお兄さんは、試行錯誤しながら何とか文章を簡潔に仕上げた。



「じゃあ作戦スタートです!」



 ハム吉に紙をペンを探してもらい、次に近くにいる人を連れて来させた。

 最初は、『ガイアだ。かみを10まいよういしろ』とだけ書いてもらう。


 そして紙が足りなくなったら追加の紙を持って来させたりして、なかなか苦労したけど、『1しゅうかんほど、もどらない』と部下に伝えることに成功した。



「クッソ疲れた・・・」

「お疲れさま~!『ハムちゃん通信』便利すぎる!」

「しかし召喚士って職業、話と違って滅茶苦茶有能じゃねえか?」

「ボクほどじゃなくても、召喚獣を使いこなしてる人はどこかにいそうだね」



 思えばライガーさんくらいしか召喚士を知らないんだよな~。

 冒険先での新しい出会いに期待しよう!

 

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