第188話 最強クラスの魔獣同士の闘い
昔ボクが住んでいた『お化け屋敷』の裏にある森の中で、あのゴリラくんですら震え上がるような戦闘が繰り広げられていた。
ジャキン! ドゴッ! キンッ! ガシュッ!
多少開けた場所だったとはいえ、森の中であることに変わりはなく、ただでさえ俊敏な機動力を持つ魔獣同士の闘いなのに、樹々が邪魔でほとんど姿が見えん。
「タマねえ、見える?」
「何とか見えるけど、樹がすごく邪魔くさい」
「メルドアが強いのは知ってたけどさあ、あの黒いのもめっちゃ強いよね!」
「見たところ全くの互角。本気のタマでもアレを倒すのは難しい」
「そんなに!?」
とはいえ、タマねえはまだ小学校を卒業したばかりの年齢だからね。
冒険者としての活動も未経験だし、強くなるのはこれからだ。
「あれほどの強さだからこそ、街の人達はこの森に入るのを禁じられてた」
「あーーー!そういえば、レオナねえもこの森だけは避けてたみたいだね!」
「それなのに一人で森に入ってメルドアを召喚獣にしたクーヤは、ちょっと頭がおかしい」
「酷いこと言いますね!!」
「さすがクーヤ!普通の人にできない事を平然とやってのける。そこにシビれる!あこがれる!」
「何も知らずに森に入っただけだし、本当にメチャクチャ運が良かっただけですけどね!ってか、そのセリフをなぜ知ってる!?」
「前にクーヤに貰った漫画の本」
「ん?・・・ああ、アレか!!」
前にアイテム召喚で、とある有名な漫画の本をゲットしたんだけど、リリカちゃんとタマねえが漢字が読めないって言うから、頑張って翻訳したのを思い出した。
すごく気に入ってたみたいだから、無限化してタマねえに渡したんだっけ。ちゃんと意味が分かって使ってるってことは、バイリンガルとして育ってますな~。
『グルルルルルルルルルルルルル!』
ギンッ! バキッ!
『グアアアアアアアアアアアアア!』
ジャキン! ドガガガガガッ!
魔獣達の壮絶な死闘はまったく終わりが見えず、タマねえはともかくボクには目で追うことすらできないので、気ばかりが焦って精神的に疲弊しまくっていた。
しかし開戦から1時間が過ぎた頃、闘いは唐突に終わりを迎えた。
―――――黒い獣の魔力が枯渇したのだ。
◇
『オオォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!』
メルドアが勝利の雄叫びをあげる。
「メルドアお疲れ様!!これでもう魔獣界最強といってもいいね!」
「すごく格好良かった!!」
ボク達の祝福の言葉を聞き、これにはメルドアも大満悦だ。
しかしそこで倒れている黒い魔獣を、このまま放っておくこともできん。
危険な魔物とはいえ、動物の死体なんて見ていて気分の良いモノではない。
黒い獣の側までトコトコ近寄って行く。
「ウチのメルドアと互角にやり合うとは天晴です!ストック!」
『オゴァッ!?』
『ストック』という単語を聞き、メルドアが
シュッ
黒い魔獣の姿が消えたと同時にメルドアが駆け寄って来る。
『オンオンオンオン!!』
「え?コイツはいらないって?」
『オン!!』
「でもメチャクチャ強かったから、召喚獣にすれば凄い戦力アップだよ?それにもうストックしちゃったし~」
『オオオオオオオオオォォォ・・・』
もう手遅れだと知り、メルドアは『orz』のポーズで打ちひしがれている。
「メルドアが嫌がってるの?」
「そうみたい。本当に心の底から嫌いだったんだね・・・」
「でも仲間になれば考えを改め直すかも?」
「同じ召喚獣になったわけだしね!」
召喚獣リストを見ると、『レグルスギアラース』という召喚獣が追加されていた。
・レグルス [レグルスギアラース]
長かったので短くしたけど、『レグルス』って星座か何かで聞いたことあるような気がする。でもなんか格好良いし、これでいいだろ!
ちなみに名前の後の空白は、綺麗にリストに並べるためにやっております。
「レグルス召喚!」
シュッ
目の前に、最初見た時よりも毛並みがフカフカになった黒い魔獣が出現した。
大きさはメルドアと同じくらいなんだけど、よく見ると造形が結構違っていて、真っ黒だと思ってた体毛にも青い模様があったりで、第一印象よりも数段格好良い。
メルドアが『犬』なら、レグルスは『狼』って感じかな?
とはいえ、犬とも狼とも違った異世界特有の魔獣なんだけどさ。
こりゃあ、良いモノを手に入れてしまいましたよ?
メルドアには悪いけど。
「初めましてレグルス!キミみたいな強者をただ死なせるのも忍びないので、召喚獣としてスカウトさせていただきました。これからは仲間としてよろしくね!」
「えーと、レグルス?思ってたよりも格好良い!よろしく!」
『ガウ?』
レグルスは意味が分からず混乱しているけど、ボクらへの敵対心はゼロだ。
召喚獣になった時点で、神の力によって強引に主従関係が確立されるんだよね。
・・・しかしメルドアの姿を見た瞬間、憤怒の感情が流れ込んで来た。
「おっと、召喚獣同士での喧嘩はダメだよ?」
『ガウガウガウ!ガウガウガウガウ!!』
「なんかメルドアに抗議してる?」
「えーとねえ、『何だこの溢れ出す魔力は!?オマエだけこんな恵まれた状態だったのかよ、汚ねーぞ!!もう一度勝負しろ!次は負けねえ!』って言ってます」
「・・・なるほど一理ある。遺恨を残さないためにも、同じ条件でもう一度勝負させてあげた方がいいんじゃない?」
『オンオンオン!オンオンオンオン!!』
タマねえがこっちを見た。
「えーとね、『我が主との固い絆による勝利にケチつけんじゃねえよバーーーカ!何度やろうが勝つのはオレだ!!』って、メルドアが言い返してますね」
「・・・なるほど。やっぱり思う存分闘わせてやった方がいいと思う」
「うーーーん、確かにさっきの闘いは魔力的にフェアじゃなかったもんね」
宿敵同士による『ガウガウ!』『オンオン!』の言い争いには少しウンザリしていたので、ここで満足するまで闘わせることにした。
「二人の言い分はわかった!本当は召喚獣同士の喧嘩はご法度なんだけど、今回は特別に許す!この森で思う存分闘いなさい。じゃあボク達はもう帰るから、決着がついたら教えてね」
『オン!』
『ガウ!』
タマねえと一緒に来た道を引き返すと、後ろから『ドゴーン!』『ガシーン!』という戦闘音が聞こえてきたが、一切構わず我が家に向かって歩いて行った。
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