第177話 無人島に名前を付ける

 古い野球アニメの主人公のように、天に向かって真っすぐ左足を伸ばし、全体重を乗せたダイナミックなフォームから、森に向かって田中くんの右靴をぶん投げた。


 ポテッ


 しかし残念ながらショタの全体重などたかが知れている。

 森まで遠投したつもりが、5メートル先の草原に届くので精一杯だった。



「ふーーーーーー、これで良し!」



 額に浮いた汗をタマねえに拭いてもらった。



「いや、何やってんだよ?」


 ショタの意味不明な行動などもう慣れっこなレオナねえだが、今回の変な行動には疑問を持ったようだ。


「無人島に召喚獣を置いてくの。そうしたら次回来る時に、この無人島をすぐ見つけ出すことができるのですよ!」

「召喚獣?そこに転がってるのって靴だよね?」

「靴だけど召喚獣なのです!」

「えーと・・・、アイテム召喚で手に入れた道具も、召喚獣達みたいに居場所がわかるってこと?」

「正解!」

「でもクーヤ、靴だと目立つし軽いから、動物なんかに別の場所まで運ばれる可能性があるんじゃねえか?」

「そんな場所だと、大雨が降った時とか海に流される可能性もあるよね?」

「鳥がどこか遠くに持ってっちゃうかも!」


 お姉ちゃんズのもっともな意見にハッとする。


「ダメじゃん!!」

「もっと重いモノは無いの?」

「いっぱいあるけど、あの靴が一番いらなかったんだもん!」


 足もとにマンホールの蓋を召喚した。


「これならメメトンもいたずら出来ないでしょ!」

「あーーー、そういやこんなのが出た時あったな~!」

「めちゃくちゃ重いやつだ!」


 しょうがないから田中くんの右靴は回収した。


「おかえり田中くん。でも君の悔しさはよくわかるぞ!お詫びにこの島を『田中島』と名付けよう」

「タナカって確かその靴の持ち主だったか?つーか靴を持って帰るのなら、もうタナカとか全然関係ねーだろ。もっと良い名前にしようぜ!」


 なんですとーーーーー!?


「ドラゴン島!」

「ハムちゃん島!」

「クーヤ島!」

「どれも悪くねえな。しかし多数決の結果、エロ本島に決まったぞ!」


「「それだけは無いから!!」」


 当然、全員から怒涛のツッコミが入った。


 地上の楽園にいかがわしい名前を付けるのヤメてくれませんかね!?

 あなたこの島で一体何をするつもりなんですか!!


 ・・・しかしクーヤ島はちょっと嫌だぞ。


 島に自分の名前を付けたとして、万が一知名度が上がって、街の人が『クーヤ島』を連呼してたら絶対恥ずかしいじゃん。


 いや、人によるのかな?

 リリカちゃんとかだと逆に喜びそうな気がする。



「リリカちゃんをドラゴン旅行にご招待する時、この島に遊びに来る?」



 ショタの一言に、全員こっちを向いた。



「まだこの島にしか来てないから候補地は増えていくだろうけど、ココに来たら最高の思い出になること間違いナシだからな!これだけ安全な島なら第一候補だろ!」

「なるほど!『リリカ島』って名付けたら、その時すごく喜んでくれるかもね!」

「すごく良いかも!きっと最高の思い出になるよ!!」

「異議なし!」

「じゃあ満場一致ってことでいいな?この島の名は『リリカ島』に決定!!」



 ワーーー パチパチパチパチ!



 こうして『リリカ島』の探索も無事終わり、ボク達は再びドラゴンに乗って、オルガライドの街へ向かって飛び立った。






 ************************************************************






 ドラちゃんが飛び立った地点にアイテム召喚獣のネジを1本埋めてきたんだけど、そこに真っすぐ向かうと、オルガライドの街の上空を通過してしまう可能性がある。


 なので、我が家でゴロゴロしているパンダちゃんの位置と見比べて、街を避けるようにスタート地点に戻らねばならないのだ。


 よく考えたら悪そうなハムちゃんは動き回るので、座標チェックにはちょっと使いにくい。信用できるのはパンダちゃんの方なのです。



「えーと・・・、ドラちゃん!一旦地上に降りてください!」


『ギュア!』



 ゴンドラから降りて、おそらくスタート地点からまっすぐ東に進んだと思われる地点にバールで深い穴を空けてから、錆びすぎて茶色くなっている釘を埋めた。


 ショタ1人分の魔力を増やすためにストックはしたけど、こういうゴミのようなアイテム召喚獣もいっぱい持っているのです。


 世界を飛び回るようになると、こうやって目印として使えるようになるので、ゴミアイテムにも使い道ができたってのは大きいですね!


 とにかくこの場所に『釘ポイント』作ったことで、あとは真っ直ぐ『ネジポイント』に向かうだけでよくなりました!


 穴を掘るのを手伝ってくれたタマねえと一緒にゴンドラに戻り、レオナねえ達に目印を置いてきたことを伝えた。


 これで次回からは、『リリカ島』と行き来するのが楽になったんじゃないかな?

 海の幸をタダで簡単に入手できる楽園なので、きっと何度も行くだろうからね!



 そして再びドラちゃんは大空へと舞い上がり、スタート地点である『ネジポイント』へと帰還した。




 ◇




「みんなお疲れさん!ドラちゃんもゴンドラも長距離飛行に耐えられたし、次回からも問題なく飛行できると思っていいだろう!」

「海の幸が欲しくなったら、いつでも気軽に獲りに行けたりする?」

「クーヤとタマの休みが重なればな。来年の春になればタマは卒業だしクーヤも1年間暇になるから、好きなだけ世界を冒険できるぜ!」

「もう今からすごく楽しみなのですよ!」



 そうなのです!


 日本の学校とは少し違っていて、3月終わりに学園を卒業すると、『祝福の儀』のある1年間は学校に行かなくてもいいのだ。


 7歳になる年に1年間学園生活をして、8歳は『祝福の儀』のみ。9歳からの4年間は小学校に通って職業について学び、そこから先は就職か進学の選択となる。


 勉学のためだけに義務教育がある日本とは違って、職業を中心に考えた効率的なシステムと言えるだろう。


 自分のために学校に通うわけだから、小学校に行かない理由が無いよね。

 ボクはちょっと特殊な事情があるので、何しに行くのかよくわかんないけど!



 そんなわけで今回のドラゴンの旅は大成功でした!


 とりあえず学園に通ってる間は、大人しく字の勉強でもしてますよ。

 あとはいつリリカちゃんをドラゴンに乗せるかですね~。

 

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