第169話 学園生活の始まり!

 

「「せんせい、おはようございます!みなさん、おはようございます!」」



 学園に来て最初にする行事といえば、この朝の挨拶だ!

 子供達は素直なので、元気いっぱいの挨拶です。


 続けて朝の会が始まり、先生から今日の予定なんかの説明をされます。


 朝の会が理解出来ない子なんかは好き勝手なことをしていますが、先生も別に子供達を叱ること無く、淡々と日々のルーティンをこなしていきます。


 しかし、ここからが日本の幼稚園なんかとは少し違ってくる。


 この学園に通う目的ってのは、『祝福の儀』で素晴らしい職業を授かるために、自分の可能性を広げることなのだ。


 本人に知識が無いと平凡な職業を授かってしまうケースが多いことに気付いた先人達が、『祝福の儀』に備えて1年間学園で学ぶことを義務付けたんだってさ。


 戦士になりたいのに勉強をするのはむしろマイナス効果なのでは?って考えもあったらしいんだけど、無知なまま戦闘職にもなれなかった場合、木こりみたいな職業になってしまうリスクがあるらしく、最終的には、可能性を広げることで最悪な展開だけは回避しようという安全策に落ち着いたみたい。


 そして職業を得た子供達は、続けて小学校に行き、そこでは社会に出た時の為に文字を学び、そして自分の職業について学ぶのだ。


 小学校を卒業したくらいの年齢で冒険者ギルドに登録出来るようになるので、そこから先は自己判断で将来を決めることとなる。


 剣で戦うような職業を授かったならば、そのまま冒険者となって実戦経験を積むのも良し!進学して剣技を教わり更なる高みを目指すも良し!って感じです。


 ただ魔法職に関しては、小学校じゃ深い知識を得るまでには至らないらしく、進学して魔法の神髄まで学んだ方が結果的に自分の為になるので、殆どの人が中学校・高校へと進学するようだ。


 一握りの天才なんかは大学院みたいな所に入って、宮廷魔術師みたいな更なる高みを目指すらしいですよ?


 まあ興味はあるけど、召喚士であるクーヤちゃんには無縁の世界ですね。

 自分、小卒で全然構わないっス!



 ―――――大部屋に様々な職種の先生方が現れて、得意な技能を披露していく。



 興味をもった子供が『これなぁに?』と質問すると、『薬草を作っているんだよ』といった感じでそれに答えてくれます。


 すなわち先生方が何をやってるのかというと、面白いモノを見せることで子供達に興味を抱かせるのが目的なのだ。


 大事なのは知ること。


 強い興味を抱いたからといって、その職業を授かるわけではないんだけど、それが自分に合っていれば可能性が高まると言われている。


 そして当然ながら大人気なのは、戦士や魔法使いといった戦闘職だ。


 フルアーマー姿で剣を振り回す先生の姿はやはり格好良い。

 そして魔法の煌びやかな光には、子供達もつい目を奪われてしまう。


 リリカちゃんが見ているのもやはり戦闘職の方である。

 生産職の先生方は寂しそうにしているが、こればっかりはしょうがない。


 そこは仕事だと思って割り切って欲しい。




 ◇




 ・・・うん。もう完全に飽きた。



 未来に希望を抱いてる夢いっぱいの子供達は、毎日が楽しいでしょうね。


 でもショタにそういう夢なんてのは無い。

 だって、もうすでに召喚士で確定しているんですもの!!


 リリカちゃんのために色々な職種を見て回ったりしているんだけど、元21歳の青年が幼稚園に1年間通うってのは結構な地獄ですよ?


 自分の感覚では6歳になったばかりだったので、春になった瞬間学園に通うことになったのは正直予想外でした。


 思えばリリカちゃんがもうすぐ7歳になるのだから、ボクも10月で7歳だもんな。

 8歳の『祝福の儀』に合わせて動くならば、このタイミングでドンピシャなのか。


 しかし、4月生まれが一番得をするってのは日本と変わらんな。

 そんなのと同学年にされる3月生まれの世知辛い運命よ・・・。


 子供の1年ってのは大きいから、知力に圧倒的な差が出るんだよね。

 なのにそんな簡単なことがわかってない先生の多いこと。


 テストの点数に、誕生日補正みたいのがあってもいいと思うんだけどな。

 子供らには早生まれの辛さなんてわからないのだから、大人が導いてやらんとさ。


 そう!1月生まれなんかを『早生まれ』って言うの、何とかならんのかね!?

 学校が4月スタートならむしろ遅生まれじゃん!



 ・・・おっと、思考が変な方向に逸れてしまった。



 それよりお母さん、この学園では文字を教えてくれません!


 おそらく小学校と勘違いしてたんだろな~。冷静に考えると『祝福の儀』に向けて色々覚えなきゃならないのに、同時に文字を覚えてる暇なんて無いもの。


 しかし園児達と戯れるのが厳しいとなると、文字の勉強でもしないと退屈でしょうがない。リリカちゃんの接待もしなきゃなんだけどさ。


 そうだ!

 不人気で泣きそうになってる生産職の先生に文字を教えてもらおう!


 リリカちゃんを放置してしまうことにはなるけど、周りの子供達だってみんなソロで頑張ってるんだから問題は無かろう。



 何となく鉱石を加工している先生の近くに来てみた。



「おっ?かわいい子が来たぞ!えーと、石に興味があるのかな?」

「これって何の職業なの?」

「先生の職業はアルケミストだ!」


 アルケミスト?・・・ああ、錬金術師か!

 確かにこれは少し興味あるぞ!


「ここに大きな石があるだろう?アルケミストは、この石から色々な物を取り出すことが出来るんだ。今からやってみせるからな!」



 眼鏡をかけた長髪の男が、目の前に置いてあった鉱石に両手を翳すと、手の平から優しい光が発せられ、砂やら鉄やらに分解されていった。



「おおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~!」



 こいつぁマジでスゲーぜ!!


 字を教わりに来ただけだったんだけど、錬金術自体が面白くて文字を教わるどころじゃなくなってしまった。これは生産職の中でも当たり職だろ!


 結局この日は文字を教わることなく、勉強の時間が過ぎ去ってしまいました。



 勉強が終わると、みんな外に出て運動の時間となる。


 ただ駆けまわったり、木剣を振り回したりするのだ。

 子供達に怪我をさせてはいけないので、先生方もなかなか大変である。


 そしてお昼にみんなで給食を頂き、学園の一日は終了だ。



「「せんせい、さようなら!みなさん、さようなら!」」



 自分にとっては非常に長く感じるんだけど、子供の体感時間では一瞬の出来事なんだろうな~。大人の一日と子供の一日は全然違うのだ。


 クーヤちゃんは、大人と子供が共存する謎生物ですけどね!



「あっ!おかあさんだーーーーー!!」



 リリカちゃんの指差す方向を見ると、お母さんが学園に向かって歩いて来ていた。


 小学生は自分で家に帰るんだけど、園児はやはり心配なので、お母さんが学園までお迎えに来るのです!



「さあ二人とも、家に帰るわよ~!」

「「はーーーーーーーーーーーーーい!!」」



 とまあこれが、『祝福の儀』を目前に控えた園児達の一日です!

 残念ながらクーヤちゃんの学園生活ってのは、園児バージョンなのだ。


 自分にとってはほとんど意味の無い学園生活なのですが、『郷に入っては郷に従え』とも言いますし、頑張るしかないでしょうね・・・。


 ショタはともかく、リリカちゃんがどんな職業を授かるのか楽しみです!

 

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